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「AND」か「&」で、誰がどういう順で脚本を書いたのかが分かる
ハリウッド映画のクレジットを注意深く見ていると、面白いことに気が付く。脚本の担当者が複数いる場合に、記号の「&」とアルファベットの「AND」の表記が混在していることがあるのだ。
どちらか一方だけなら分かる。製作陣のこだわりか何かだろうと想像しそうなものだが、日常的に使う分には本来同じ意味であるこの2つが、同時に使われていることがあるのだ。これは一体どうしたことだろう。
下の画像はスティーブン・スピルバーグ監督が米ソ冷戦下の弁護士を描いた『ブリッジ・オブ・スパイ』(2015年)の脚本クレジットである。マット・チャーマンとコーエン兄弟をつなぐのは「AND」で、イーサンとジョエルをつなぐのは「&」になっているのが分かる。
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これは全米脚本家組合(つい先日までのストライキでも世界的な注目を集めていたWGA:Writers Guild of America)で決められたルールに基づくものだ。
ハリウッド映画、特に大作になってくると(もちろん作品にもよるが)脚本の作成には非常に多くの人間が関わっている。読み物としての脚本を書く脚本家に加えて、アイディアを出す監督やプロデューサー、撮影現場では俳優の意見によってもセリフが変わり、編集段階でカットされることもあり得る、そんな広義で考えると「脚本」に携わった人間というのは、もはや数えることができない。
全員を表記していたら、エンドロールは本編より長くなってしまうだろう。とまあ、随分と極端なたとえ話ではあるが、そんな事態を避けるためにWGAの決まりでは、「コアな人だけ表記しましょう」とエンドロールの脚本家は3人まで(複数で形成された脚本家チームを1人計算する場合もある)となっている。
「&」と「AND」のルールについても整理しておこう。
&:同時にまたは一緒に書いたチームである
AND:別の時期に、別の個人(またはチーム)が書いた
つまり「A&B」表記では、AとBはチームであることを意味している。『トゥルー・グリット』(2011年)では、コーエン兄弟は監督も務めているので「Directed by」の表記もあるが、2人の名前のつなぎが「&」になっていることで、兄弟チームによる執筆だと分かるのだ。
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先ほどの『ブリッジ・オブ・スパイ』のクレジットを再度見てみよう。
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上記の場合、マット・チャーマンとコーエン兄弟は別々に脚本を書いたということを示している。
次に「AND」で繋がれている場合の、名前の記載順にも注意したい。細かい基準までは今回ここには書かないが、脚本への最も重要な貢献者の名前が最初に来るというルールになっている。そして、それぞれが同じ貢献度となった場合は、執筆した順番での記載になる。
監督作のほとんどを自身で脚本も書いているコーエン兄弟が、その貢献度で劣るとは考えづらいので、マット・チャーマンが執筆した後に、兄弟が完成稿まで持って行ったと考えるのが妥当ではないだろうか。(違ったらすみません。)
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上記2本の映画のクレジットで「&」と「AND」の違いはお分かりいただけたと思うが、「Screenplay by」と「Written by」という表記の違いにも、実はちゃんとした取り決めがなされている。以下は、その超ざっくりとした説明だ。
「Screenplay by」は最もよく使われる脚本家のクレジット表記であり、そのまま「脚本を執筆した人」という意味でとらえて差し支えないだろう。そして「原作があるかどうか」も表記が変わる重要なポイントになる。
原作側が演劇だと「From a Play by」、小説だと「From a Novel by」などで表記され、この場合、原作を脚色した脚本家が「Screenplay by」表記となり、両方の担当者をクレジットするケースが一般的だ。
演劇でも小説などでもないストーリーのアイディアがあって、それをプロダクションやスタジオが購入した時には、その原作ストーリーの作者は「Story by」などと表記される。これも割とよく見るクレジットだ。(スティーヴン・スピルバーグがトビー・フーパー監督にストーリーを提供した『ポルターガイスト』(1982年)がその有名な事例である。)
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「Story by」でクレジットされている
そして原作のないオリジナルストーリーで、かつ脚本も執筆したというのが「Written by」である。
つまりこういうことだ。
Written by = Screenplay by + Story by
一概に優劣がつくわけではもちろんないが、「Written by」とクレジットされることは結構すごいのである。この意味が分かると、クエンティン・タランティーノ監督が自身の「Written and Directed by」表記にとてもこだわるという有名な話も、少し納得できる気がしてくる。
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製作の背景や、監督のこだわりまでもが見えてくるからエンドロールは侮れないのだ。今後も勝手にエンドロールの面白さを布教していきたいので、末永くお付き合いいただきたい。
▼過去のエンドロール布教記事
▼参考サイト
▼今回触れた映画リスト
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