アウトローの星
中学時代からの友人でちょいクズな人間、Uという男がいる。高校に入学した頃までは仲が良かったが、次第に疎遠となった。別々の高校へ進学したことで遊ぶ機会が減少し、自然消滅するように親交は途絶えた。
それから12年後、友人の結婚式で再会し、僕たちはまた遊ぶようになる。学生時代も、再会した後もUはクズ気質を発揮していなかったが、ここ数ヶ月でクズっぷりが爆発。安酒を暴飲しては「世の中金や!」とくすぶり、布団に潜り込む。そんな自堕落な日々を過ごし続け、とうとう彼は奥さんから愛想を尽かされる。
「もう実家に帰って」
「おう、こんな家出て行ってやらぁ!」
Uはふんふんしながら息巻くが、彼の実家は自宅から数歩で到着する敷地内にある。そこそこの雨が降っていても、ほぼ濡れない。玄関から勢いよく飛び出して、数秒後には「帰郷で候」なのだ。啖呵を切って出ていくには間抜けすぎる距離感。その上、強気なわりにあっさりと自宅に戻る。大好きなファミコン(スイッチのことだが、Uはゲームのことを全て“ファミコン”と言う)で遊びたいからだ。週末になると知らぬ存ぜぬの態度でこそっと自宅に戻り、ゲームにかまける。もちろん奥さんからは糾弾される。わざわざ手紙で。話すことすら避けられているのだ。
Uのくすぶりは、友人たちにも向けられる。いつものように安酒で泥酔し、グループラインでくすぶる。やっかいなのは、いくら泥酔して朦朧としていても、メンタルは繊細なままなのだ。レスポンスが悪いと彼はすぐに機嫌を損ねトークルームから退出。見兼ねた友人が仕方なくすねたUを慰め、グループに招待。ここまでの流れは彼にとって想定内。「しゃーねぇな」とほくほくしながら参加ボタンをタップ。
Uは再びトークルームに入室できて浮れるが、トーク履歴が消去されているという想定外のシステムに絶望する。
「あぁぁ……! みんなとの思い出が……!」
思い出に依存して生きているUからすれば、途轍もないダメージだろう。彼のクズエピソードは、いつも愛嬌があるので微笑ましい。
そんなどうしようもない彼だが、人に誇れる得意分野が奇跡的にもある。Uは手先が器用なのだ。例えば車の擦り傷。彼はそこらの板金屋より腕に自信があると豪語する。
「もし車を擦ったら俺んとこもってこい。タダで直してやらぁ」
僕は彼の言葉を鵜呑みにし、擦り傷の補修をお願いした。手慣れた様子ではあったが、ビフォーアフターの差はなかった。くたびれた謎の塗料を塗りたくられただけである。その悲惨な状態で「よしっ」と呟かれたら、もう笑うしかない。一丁前に成し遂げた雰囲気を醸し出すから、余計におかしい。
お礼のつもりで渡したベルギーワッフルの詰め合わせを今すぐ返して欲しいと思った。
「昨日風呂入ってないから、おしりふきで体ふいとる」
オードリーの春日以外にも、こんなやつがいたのか。何気なく送信したLINEに、望んでいない情報も上乗せして返信してくる。それがUだ。ストロングゼロと不味そうなたこ焼きの写真も同時に届く。精密機器の上に平気で酒やつまみ、マヨネーズを散らかす無神経さ。微妙なアウトロー加減に、心を奪われる。いや、それはないが、中毒性が高い存在であることに間違いはない。