外資IT“営業”から 日系SaaS“営業”という キャリアについて考察する〜外資の給与事情編〜
今回のテーマは、意外に議論されていそうで、されていない、外資IT営業から日系SaaS営業というキャリアについて考察をしていきます。
この内容は物議を醸す可能性がありそうですので、先に申しておきます。
今回は、客観ではなくあえて僕の主観を中心に書いていきます。
僕自身が、外資IT2社で営業を経験し、今では日系のSaaSスタートアップを創業しております。
日系SaaSの経営者で、外資IT営業出身という方はそこまで多くなく、双方の観点から話せる方も多くないだろう。ということで、あえて主観で話をしていきます。
はじめに
僕が日系SaaSで創業をして依頼、多くの方から、
「絶賛営業採用中なので、SalesforceやZuoraで優秀だった人紹介してもらえませんか?」
と言われます。
びっくりするくらいの回数を聞かれました。
日系SaaSの多くの企業が積極的な営業の採用をしていることを肌で感じます。
そして、同時に聞かれる、相談されることの多い内容は、
「外資って、給与どのくらいなんですか?いくらなら来てもらえますか?」
です。
まず先に簡単に回答をしてしまうと、
外資IT企業の営業の給与水準は、日系SaaS企業の営業と比較して、2〜3倍程度
です。
かと言って、その同水準の給与を日系SaaS企業が提示するのもオカシイと思っています。
まずは、敵を知り己を知れば百戦殆うからず
ということで、外資ITの営業の給与体系がどの様になっているのかからご紹介していきます。
OTEという年俸提示
外資系の給与の提示は、OTE(On-Target Earnings)という、日本では耳馴染みのない形で給与提示がされます。
日本語にするなら、理論年収です。
これは、年間目標達成率が100%だった時に支払われる年俸を意味しています。
具体的に年俸1000万円のオファーであれば、
OTE1000万円(基本給:歩合給=6:4)
といった提示がされます。
この基本給と歩合給の比率は、
4:6〜6:4の範囲が多いと思います。
(基本給6:歩合給4の比率が一番多いかもしれません)
つまり、外資IT営業の方が言う年収1000万円というのは、
何の1000万円なのかを理解しておく必要があり、給与交渉のときにはOTEを基準に会話するという暗黙の了解があります。
なので、1000万円の提示とはいえ、基本給は600万円だったりするのです。
多くの日系SaaS企業が歩合制度を導入していないかとおもいますが、このOTE1000万円の人にいくらの年俸を提示するのか・・・で悩むかと思います。
・今が1000万円だから、それより色をつけて1200万円
・シードだからそこまで出せないので、年俸は800万円でSOを付与
・シンプルに1000万円でスライド
など、さまざまな検討をされると思います。
でも、よく考えてください。
この方の提示されている基本給は600万円なのです。
残りの400万円については、成果を出したら支払うよ。という契約になっているのです。
実は、基本給だけで比較すると、外資IT企業と日系SaaS企業でそこまで大きな差は無いと思っています。
達成率とラダー
次に、先程のOTE1000万円の例で、
・達成率0%
・達成率50%
・達成率100%
・達成率200%
のそれぞれのケースで、いくらの年俸になるのか考えていきましょう。
上から順に、
600万
800万
1000万
1400万
となるかというと、全く違います。
多くの場合、インセンティブはアクセラレーションがかかるラダー設計されています。
横文字が多いので翻訳すると、
歩合給は、達成率に応じて掛け率が変わる段階設計をされている。
ということです。
文字にしてもわかりにくいので、図式化します。
例:年間予算が1億円だった場合・・・
達成率50%の人は・・・
達成率150%の人は・・・
と、同じOTE1000万円の人でも、実際にもらえる給与は圧倒的に差が出ますし、達成率によってきれいに歩合が支払われるわけではないとご理解いただければ幸いです。
※計算しやすい数字にしています。
見ておわかりの通り、年間予算100%を超えると、グンと掛け率が高くなります。よく、ボーナスステージと表現されたりもします。
このボーナスステージにもマジックがあり、
私見(及び、私が会話した方との見解)なのですが、給与設計でラダーを組む理由は、案件を隠しを防ぎ、今取りきらせるための仕組みだと思っています。
外資の営業が死にものぐるいで期中の受注を目指すのは、ここが大きく関わっていると思われます。(実体験含む)
Compensation Plan
また、これらの年間予算と、歩合の掛け率は毎年変更され、
会社から提示された内容に対して署名を行うという流れが発生します。
これを、Compensation Planといい、基本的に社員に拒否権はありません。
自分に提示されたCompensation Planに不満があるからといって、署名を拒否していると、本当に歩合給の支払いを止められて困ります。(私が経験者w)
Compensation Planには、基本給、歩合給の掛け率、予算だけでなく、
ストックや、入社ボーナスなどの記載もありますが、これは後述いたします。
予算達成率の分布
多くの営業組織は、
優秀層2割
普通層6割
下位層2割
の2:6:2分布になると言われていますが、
外資IT営業において、僕の感覚では、
1:2:3:4になると思っています。
1=バケモノ層
→予算達成率150%や200%など、常人では到達できないサイヤ人集団
2=優秀層
→予算達成率100%前後の、比較的優秀な層
3=平均層
→予算達成率50〜75%くらいの層
4=下位層
→予算達成率50%未満。下手したら1ケタの人も・・・
外資IT営業の予算は、かなり高いです。
そのため、予算達成率50%未満の層もかなりの人数がいます。
しかしながら、達成率150%や200%という、バケモノのような営業も少数ですが、確かに存在します。
そして、外資IT営業というキャリアにおいて、この年間予算達成の経験の有無がめちゃくちゃ大きな意味を持ちます。
自身の昇進や、転職においても、年間達成経験の有無。
そして、複数年達成しているか、連続で達成しているか。
など本当に大きな意味を持ちます。
裏を返すならば、
年間達成の経験が無い方がトップセールスを自称するのは、達成している人に対して失礼である。と僕は思っています。
バケモノ層の人がナンボ稼いでいるのか
基本的に、年功序列は存在しないと言いつつも、
経験の多い少ないで基本給が変わる側面も存在します。
なので、バケモノ層がいくら位稼いでいるか・・・
という漠然とした質問に答えるのは難しいのですが、
30歳前後くらいで、バケモノ層に入っている方は・・・
2000万円は稼いでいると思います。
ただし、30歳前後で基本給が1000万円を超えている方は本当に稀だと思います。
外資→外資の転職時のオファーの基準
外資→外資の転職の場合、
基本的には現在のOTEをベースに、そこから少しUPした提示を受けることが多いです。
20%UPくらいが相場的に多い印象です。
仮に、
「昨年の達成率が200%で、総支給額が2000万円だったので、OTEで2200万円で提示してください!」
と交渉したとすると、
「200%すごいですね。じゃあ、200%やったら2200万円になるOTEだったらいいんですよね?」
というカウンターを返されます。
あくまで、OTEがベースになります。
たとえ、高い達成率で、高い実収入をもらっていたとしても、
「じゃあ、それだけ売れる能力あるなら、次も売ればいいじゃないですか」
と言われてしまいます。
なので、外資IT営業にオファーを考えている日系SaaS企業は、
・OTE
・基本と歩合の比率
・予算
・予算達成率
を把握していないと、適切なオファーが出せないと僕は思っています。
その他ボーナス
実は、これら以外にも細かなボーナス設計がされています。
・入社ボーナス
→いわば、移籍金みたいなもので、
転職してから1年以内にXX円以上売ったら、XX円ボーナスを渡します。
というような物です。
その額も数百万円単位だったりします。
・RSUとESPP
RSUは、Restricted Stock Unitsの略称で、譲渡制限株式ユニットというもので、入社時や、昇進時などに配られる株式です。
例えば、入社時に100株の権利が付与され、
1年目:10株
2年目:20株
3年目:30株
4年目:40株
のように、株を小分けにして付与される制度です。
長く在籍すれば、多くの株がもらえるといったような制度です。
このRSUは、USではすでに上場しているが、日本上陸間もない外資系企業ほど、大盤振る舞いされる印象で、
このRSU狙いで、日本ではスタートアップ期の外資ITを渡り歩く人もいるくらいです。
RSUについては、メルカリさんの記事がわかりやすいので、そちらを読んでいただけると良いと思います。
ESPP
ESPPは、Employee Stock Purchase Plan(従業員株式購入プラン)といわれるもので、自社株を社割価格で購入できるもの。と考えておけば良いと思います。
これが、地味に嬉しい制度なのです。
僕がSalesforceに入社したのは2016年の1月末なのですが、
当時の株価、今の株価を比較すると・・・
もっというと、初めて買った時は、市場価格よりも安く買えているとすると・・・
という、かなり嬉しい制度なのです。
僕が後輩に、
「ESPPってどのくらい掛けたらいいですか?」
と聞かれたら、
「思考せず、フルレバでやったらいいと思う。」
と言ってしまうくらい良い制度です。
と、色々と書いてきましたが、
OTEと、それ以外にも細かいボーナス設計がされている。
ということを理解していただければ良いと思います。
外資IT営業のマインドはミスマッチしやすい(次回予告)
と、ここまで色々と書いてきましたが、びっくりするくらいお金の話中心です。
ですが、外資IT営業の人々は、お金の話が好きな方がめちゃくちゃ多いです。
本当は1記事で書き切ろうと思いましたが、
想像以上に文字数が増えてしまったため、続編を書きます。
・外資IT営業の人々はどんなマインドで仕事をしているのか。
・日系SaaSとマッチするのか、ハレーションするのか。
・マネージャーの給与事情
・で、ナンボでオファーするべきなの?
といった話を次回に書いていこうと思います。
続きも近日中に公開いたします!