『少女革命ウテナ アドゥレセンス黙示録』極上爆音上映 スタッフトークショー 備忘録

 2024年10月12日に開催された劇場版少女革命ウテナの公開25周年記念極上爆音上映とその後のトークショーに参加したのでトークショーの概要を備忘録的に。
 割と表現を丸めてしまっているので他の方のレポートも併せてご覧ください。

――25年ぶりの上映に380人の人が集まってくれました。


幾原監督:
 25年前も初日に舞台挨拶したが、その時でさえキャパ的に380人はいなかったと思う。当時は自分とさいとう先生、川上さん(ウテナ役)、渕崎さん(アンシー役)と一緒に新宿、浅草、横浜の劇場を回ったが初日は台風が直撃したのを覚えている。初日は熱意がないとやってられない状況だった。
(※会場には25年前に劇場で見た人がちらほらと、初日の舞台挨拶を見た人もいました)

さいとう先生:
 会場のお手洗いで川上さんと会ったら「これで終わってしまうのかと思うと寂しい」と泣いていたのが印象に残っている。

司会:川上さんらしいエピソードですね。

――TV放送から27年、劇場版から25年経ったという実感は。


幾原監督:
 あっという間だった。25年の間にアニメを取り巻く環境も変わり、時間帯や本数も限られていた当時とは違いたくさんのアニメが流れるようになった。その中で25年前の劇場アニメを映画館で上映することに驚いている。それだけ応援があったということなのでありがたい。

さいとう先生:
 世間的にはトンデモアニメという評価で、自分も放送を見てびっくりしたが熱狂的なファンも多くてずっと愛してもらっている。当時は尖った作品だったが今の方が世の中に受け入れられる素地ができていると感じるので今上映することに意義があると思う。

――映画化が決まったときのことなど。


幾原監督:
 TV放送の評判が良かったので映画化という話になったのだと思うが、いざ作ろうとするとスタッフの間で意見百出で悩んだ期間が長かった。自分としては「映画」を作りたいと考えていた。
 TVアニメの劇場版というとまずはテレビ版の視聴者にアピールすることを考えるが、TVアニメの面白さは枝葉(ディテール)なのでそれを映画の尺でやってしまうとストーリーが追えない。とはいえ全く違うものを作るとファンから「違うだろ」と言われてしまうのでTV版のダイジェストをやることにした。

さいとう先生:
 おそらく制作の初期だったと思うが、うちで打ち合わせをした時に(※当時は割と頻繁にあったとのこと)監督から「ウテナを車にしようと思う」と言われて冗談かと思ったが今おっしゃったように悩んで煮詰めて私達に投げかけたんだと思う。(監督を見て)ですよね?(笑)

幾原監督:
 お客を挑発しようと思って。「そりゃないよ」ってリアクションが取れる余地を作りたかったと言うか。TVアニメの頃からさいとう先生をかなりがっかりさせてきたから今回もがっかりするだろうと思ったけど(笑)

さいとう先生:
 監督に背負い投げされるのは得意なので(笑)
「心が変わると良いな」と思っていたけど監督が「良いと思うんだ」と言って聞かずにそのまま完成までいった。

幾原監督:
 TV版からの映画化だと「TV版の方が良かったな」という感想を持たれてしまうと思うのでダイジェストにすることで「TV版とは違うけど映画は映画で良いね」と思ってもらいたかった。

さいとう先生:
 個人的にはあまりダイジェストとは感じなくて、TV版で一度完結した物語のアナザーワールドみたいな感覚だった。

幾原監督:
 確かに、TV版に入れられなかったものを再構築したアナザーワールドでもあった。

さいとう先生:
 TV版の頃もウテナとアンシーをラブラブにするのはどうなのとケンカになりかけたこともあったが映画では私がボツにしたものも堂々と入ってきていたのでやりたいことをやるのだなと受けて立った(笑)
(※幾原監督はケンカになりかけた件を僕が具合悪くなったやつですね…と言ってましたw)

司会:
 トークショー前の楽屋でも作中のシーンについて話していましたね。

幾原監督:
 今見るとスキャンダラスビデオのシーン(七実のアレ)が長すぎるよね。あそこ明らかにスベってるのにあんなに長くて気まずい(笑) その気まずさをこうして大人数で共有できるのもまた良かったかもしれない。

――少女革命ウテナで表現したかったものは。


幾原監督:
 よくわからないでやっていたところもあるけど、最終的に制度やシステムに抗う話になった。自分を女性の立場に投影したときに窮屈なんじゃないかと感じて、それに抗うことがロマンじゃないかと考えた。だから映画は「外へ出る」という話にしたくて、そこから逆算して色々なディテールが出てきた。
 今見てみるとウテナは友情の物語、友達と出会う話だったんだと感じる。この作品は時代によって受ける印象が変わる作品で、そこが長く愛される理由なのだと思う。

さいとう先生:
 特にラストの迫力は映画館で見るべき作品。考えても仕方ないので美しいシーンはその美しさを、迫力のあるシーンは勢いを楽しんでほしい。

――極上爆音上映ということで音声もとても良かった。お気に入りの音やシーンは。


幾原監督:
 この劇場でやったからこそ今までで一番良い音響だったと思う。決闘やクライマックスのシーンは特に良さを感じてもらえるのでは。

さいとう先生:
 ラブシーンが好きなので冬芽とウテナのガラス越しのキスのシーンはいつも泣いてしまう。あとは美しいダンスのシーン。監督に背負投をされ続けたことも忘れる(笑)

司会:
 みなさんもぜひ好きな音やシーンをSNSでコメントしてください。

(ここで監督がここ暑くないカシラ?と言ってTシャツの上に着ていたシャツをはだけ始める)


渕崎ゆり子さんからのお手紙朗読。(※要約です)


 あの美しい映像を大スクリーンで、しかも極上爆音上映で見られるとは羨ましい! 皆様ウテナの世界に没入されていることでしょう。
 25年経っても愛される作品に関われたこと、姫宮アンシーという唯一無二のキャラクターを演じられたことは一生の誇りです。
 幾原監督とさいとうちほ先生、ウテナをこの世に生んでくださってありがとうございます。
 皆様の中で少女革命ウテナが永遠に輝き続けますように。

――少女革命ウテナという作品への思いを。


幾原監督:
 先程も言ったように時代によって見えた方が違うので昔から愛してくれている人もいれば、新しくウテナを知って好きになってくれた人もいる。当時はマニアックな受け止められ方だったが今はより現代的に受け入れられている。そういう変わったいのちを持っている作品。これからも末永く応援してほしい。

さいとう先生:
 漫画家になって10年ほど経った頃、初めてアニメ化に関わった作品。当時は20代のスタッフが殆どでみんなで意見をぶつけながら作り上げていた。その中でやりたいことを貫く監督は流行に惑わされないウテナを表現するツールのようなものを持っていたのではないか。アニメを作る大変さも作品が皆さんに愛されていることも現在進行形で理解している。唯一の映画化作品を大切にしていきたい。

――最後に皆さんに一言。


さいとう先生:
 楽しんで頂けたと確信している。今後も企画があると思うので引き続き応援していただきたい。

幾原監督:
 さっき話し忘れていたことがあって、ラストシーンをどうするかでとても揉めた。
 当社は「世界を革命する力を!」で二人が抜け出して終わりだったが試写をしたら外の世界が見たいと言われて。そこでまた「外の世界とは…」と悩み、そしてできたのがあの負けた者たちが積み上がった荒野のシーンなんだけど、じゃあ「負けた者たち」って何さと。それは僕かもしれないし君かもしれないし、どちらでもないかもしれない。二人がそういう恐ろしい世界に飛び出していくのがロマンなんだと思う。
 これからも少女革命ウテナをよろしくお願いします。30周年もなにかできるといいですね。

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