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Alcoholic lives matter


ある日、私の精神はポキリ、と折れた。
アルコール依存症×双極性障害(躁うつ病)の私が最もしては
ならないことは酒を飲むこと。
3月29日から30日にかけて飲んだ、缶酎ハイ 500ml 5本と少し。

幸いなことに、今回の再飲酒は、文字通り飲酒が止まらなくなる
「連続飲酒」に移行することなく、終わってくれた。
31日には2日酔いの症状もなくなり、通常の生活に戻れた。
その翌日の仕事にも、支障はなかった。

職場の院長は、私の精神疾患のことを以前からかなり詳細に
知っていたため、「仕事を続けていく上で必要な報告」として、
メールで報告し、その後、対面でも現状報告とお詫びをして、
院長も了解してくれた、はずだった。

2週間後。
私は突然解雇された。

理由は、「仕事のストレスにより再飲酒させてしまったこと
について、院長が責任を痛感しているから」とのこと。

「?」である。

「私が再飲酒して仕事ができなくなったから解雇する」
というなら、理解できる。納得もする。
酒臭い息で仕事をし、お客様にご迷惑(というか施術代
泥棒)をかけているなら、クビでも文句は言えない。

しかし、「仕事のストレスにより再飲酒させてしまったこと
について、院長が責任を痛感しているので解雇します」
というのは、一体どういう理屈なのか。
私は仕事のない日に酒を飲み、仕事の日までに体調を戻し、
再び断酒を再開し、少なくとも2週間は、これまで通りの
仕事をしてきたのだ。

私の解雇は、院長体調不良のため、院の事務長から言い渡された。
「院長は責任を痛感したあまり体調を崩し、出てこられない」
とのことだった。

なるほど。と、思った。
なんとなく分かった。

結局のところ、「8年も酒をやめていたアル中が再飲酒するには、
誰が見ても明白な分かりやすい理由があるはずで、
多分それは仕事のストレスであり、であれば今後もこのアル中は
酒をやめないに違いない」という認識が、
院長にも事務長にもあるのだ。

もちろん、「ストレス原因の再飲酒」という分かりやすい事例が
とても多いことは事実である。

しかし、私の場合、その程度の分かりやすいストレスなら、
断酒してきた8年あまりの間に、いくらでも乗り越えてきた。
そうでなければ生き残れない、難しい病気なのだ。

私の書いた過去記事
https://note.com/divethedeep/n/n78a40462d756
によれば、

アルコール依存症者の10年生存率は、約1.7%。
つまり、98%以上のアルコール依存症者は再飲酒で死ぬ。
私の場合、これに双極性障害(躁うつ病)という精神疾患が
クロスするので、自死のリスクが大きくなり、その分だけ、
生存率はさらに下がる。

* この数字は、現代日本人の死因第1位「がん」の中で
 10年生存率が最も低い「膵臓がん5.4%」より更に低い。
 詳細は、国立がん研究センターによる下記のレポートを参照。
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2019/0409/index.html

私はその中で少なくとも8年間、1滴の酒も飲まず、生き抜いてきた。
だから「ストレスで飲んだ」のではない。
「理由は全く分かりません」というのが事実に最も近い。

がんの再発の理由が分からないように、
私の再飲酒の理由も分からない。

がんの再発を理由として解雇するのが不当であるように、
再飲酒を理由として解雇するのもまた不当である。
(念のために付け加えると、何度注意しても仕事中に飲酒を
やめない等、本人が事実上就労不能になっているケースと、
今回の私のケースは全く別の話である。)

悲しんでも仕方がないことなのだが、
結局病気のことは当事者にしか分からない。
いや、当事者にだって分からないことだらけだ。

今回の一連の経緯のなかで、私が最も残念に思ったのは、
再飲酒してしまったことではなく、
それを理由に「やっかいばらい」されたことだ。

精神障害は、昔も今も、差別・偏見にさらされる病気である。
だから、「隠せ」「人には言うな」という人が圧倒的に多い。

私は隠さない(勿論、他人に言いふらして回るつもりもないが)。

WHOの基準による推計値では、日本の飲酒人口は7500万人。
そのうちハイリスク飲酒者(依存症予備軍)1000万人(7.5人に1人)。
アルコール依存症と診断されるのは100万人(75人に1人)。
つまり、私に限らず、誰だって周りを見渡せば依存症者の1人や
2人は目に入る世の中なのだ。

今の日本では、そういう依存症者たちが「視界に入っても
見えない存在」として日々苦しみ、無残な死に方で死んでいる
(アルコール依存症は死因にならない。多臓器不全とか、事故に
による出血性ショックとか、不審死。だから統計にも反映されない)。

だからこそ、私は隠さずに、生き抜いてやる。
世の中に、事実を突きつける。それが私の生きる理由なのだ。

アル中だって人間だぞ。
“Alcoholic lives matter !!” である。

生き抜いてやる。
繰り返す。
私は私の人生を生き抜いてやる。

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