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捨ててしまう

図書館で仏教に関する本を借りてきて読んでいる。
難しい専門書ではなく、
一般向けに書かれた「仏教的な考え方・生き方」の
ようなものについての本である。

ざっと読んだだけなので細かい内容は忘れてしまったが、
とても参考になった。

人間というものは誰でも欲望のかたまりのようなもの。
欲望に振り回されて生きるのは非常に辛いので、
少しでも楽にシンプルに生きたいならば、
自分の中の欲を取り除く作業を怠ってはならない。

というのが、その本の趣旨だったような気がする。

面白いな、

と思ったのは、ここで言われている「欲」には、
いわゆる「悪い欲」だけでなく、
「世の中のために、ひと様のために」というような「善なる思い」
も含まれている、ということである。

要するに、所詮は浅はかな人間の考えなのだから、
「下手な考え休むに似たり」で、
独りよがりな「善」なども捨ててしまいなさい、
ということらしい。

そんなことをすると、人間はひたすら虚無的になり、
何の面白みもない人生を生きなければならず、
世の中全体もひどくつまらないものになってしまうのでは
ないのか?

という疑問には、こんなふうに答えている。

人間の欲はそんなにヤワなものではない。
どんなに欲を捨てる努力をしたところで、
それを完全に捨て去ることはできない。

だから安心して、善悪を問わず、欲を捨てる努力を続けなさい。と。

面白い。

自分の人生に照らして考えると、これほど有難い教えはない。

つまり。
アルコール依存症で失ってしまったたくさんのものを取り戻したい。
という思いも、捨ててよい。
価値ある人間でいたい。豊かな人生を生きたい。
という願いも、捨ててよい。

ただひたすら、自分の中に次から次へと生じる欲に向き合い、
それを小さくする、できれば捨て去る。
その努力をしていれば、
それがすなわち「人として生きること」になる。

もう一つ、面白いなと思うのは、この作業にはゴールがない、
ということだ。

一般的に仏教で言われている「悟りを開く」というゴールが、
少なくともこの本には書かれていない。

厳しい修行を続ける僧侶でも難しいことを一般人ができるわけがない、
ということかもしれないが、自分にとっては全然かまわない、
というより、むしろ有難いと思う。

死ぬまでひたすら作業を続けていけば良いのである。

何者にもなれなくて、良いのである。
何かを達成する必要は全くない、のである。
ただただ、今を生きていけば、それで良いのである。

もちろん、それでも生きることは決して楽ではない。

ただ、ずいぶんと救われた、ような気がする。

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