120 組み合わせ
はじめに
世の中には、組み合わせてよいものといけないものがあるという話をたまに聞きます。皆さんはどのようなものを想像しますか。例えばことわざになっているような生き物では、サルとイヌがそうです。この二つは、犬猿の仲と呼ばれるように組み合わせてもあまりうまくいかないとされています。
今日の教育コラムでは、組合せをテーマに少しお話してみたいと思います。
実力差
あまりに実力差の大きいもの同士の組み合わせについてまず考えてみます。この組み合わせは、劇的な変化を生むか、双方に不利益を生じさせるか一か八かの組み合わせとなります。
不利益から説明するとあまりに力のない者は、できる者に依存しやすくなります。むしろ依存というより、従う思考になりがちです。すると、できる者もできない者の姿を基準に置くようになり、向上心が薄れていきます。同時に競争心も薄れていき次第に自己の実力に対して、つかみどころのない感覚を覚えるようになります。
では、劇的な変化とはどのような状態なのでしょうか。それは、共鳴するように学び合う現象から生まれます。わからない人に分かるように伝えることは至難の業です。わかる者、できる者がそうでない者に伝えるとき、これまでの理解をさらに深める必要や言い換える力や例える力が身に付きます。
そして、受け手はその誠意と努力を受け止め、学習に向かう姿勢を変えていきます。そして、自己の実力を向上させて互いに真の意味で対等に学び合いたいと願うようになっていきます。それが例え学力の総量として対等の力量にならなかったとしてもどこか一部の長所を活かしあえるようになるのです。
相性
他人には相性があります。生育環境や成長過程での経験、その国の思考や文化の継承過程で、人それぞれの様子や雰囲気が形作られていきます。
それは、岩石の特質のように様々であまり変わりようのないものかもしれません。それだけに、組み合わせを考えるうえで大変重要な根本的な要素になります。
「明るいか、暗いか」「早いか、遅いか」「前向きか、後ろ向きか」などなど性格が関係する部分でもあります。相性が悪いと物事事態に向き合う意欲が減退します。それこそ、相手の行動が気になりすぎて学ぶべきものに目が向かないような状態になるのです。
多様性
多様性は、組合せを行う際に大変重要な要素となります。元来、一人一人の人間は違うものなのですが、民族や国家という単位で見ていくと同じように見えることもあるのです。ですから、先進的な多くの大学では、入学者の組合せを考える際に多様性を重んじる傾向にあります。
つまり、世界の様々な地域からあえて学生を入学させたいと願っているということです。世界でもトップクラスの大学になればあるほどこの志向は強いと考えられます。では、日本の学校はどうでしょうか。答えは言うまでもなく、多様性という思考は実に表面的なものになっています。
適切な人数
ここまでいくつかの組合せの観点を述べてきました。しかし、このような観点で組合せをいくら工夫したとしても、その工夫を無に帰してしまう要素があるのです。それが適切な人数という観点の欠如です。
簡単な話です。ケーキを素敵な組み合わせで買ったとします。その後、適切な大きさの箱を選び、適切な数を入れたとします。ケーキは、美しくその形を保ち食べることができるでしょう。
しかし、1つの箱に適切な数を入れないとスカスカになりケーキは寄ります。ギュウギュウにしてもスペースがなくなりつぶれます。つまり、多すぎても少なすぎても不備が出るということです。
日本の教育環境
今日の日本では、過疎地域の学校では多様性を担保できないようなクラス編成が多く存在します。多学年が一つのクラスで学ぶ、複式学級が多く存在するということです。また、全校生徒の数が100人を切るような学校も点在します。
しかし、こうした事実は、少人数指導が成り立つという点でみるとむしろ歓迎すべき点でもあるのです。少ないからこそ手厚く、きめ細かく見れると考えれば、これもまた、組合せの仕方で大きなメリットを生み出すことができるのです。
始めています
次に紹介するデータは、日本と世界の1クラスの人数の平均を比べたものです。全体は公立私立を問わないすべての小学校の1クラスの児童の人数の平均です。それを各国の私立学校の平均と比べてみたのが次のデータです。
【小学校における1クラスの平均人数】
日本 27人(全体)、29人(私立校のみ)
イギリス 25人(全体)、14人(私立校のみ)
ニュージーランド 25人(全体)、21人(私立校のみ)
アメリカ 21人(全体)、18人(私立校のみ)
私立学校は、公立学校と違う点は、各学校の裁量でお金をかけた教育を行えるという点です。教育に最もお金がかかるのは人件費です。人が人に教えるわけですから当然です。
するとどうでしょう。日本も含め世界の多くの先進的な私立学校では、クラスの人数を物理的に減らしていることがこの数値からわかります。一人一人にかける時間を増やすことは、教育を生業とする上では、最もコストのかかるものです。
私たちは、異次元の少子化時代を生きています。つまり、一人一人に時間をかけることができる時代を生きているわけです。組合せと物理的な量を工夫することで、同じ授業でも教育効果を高める方策がとれます。今だからこそ、子どもたちの学びをより充実させるための方法を多角的、多面的にとらえていきたいものです。
また、この考え方は子どもたち自身がグループワークをするときにも大切にしてほしいと思います。