422 Mrs. GREEN APPLE「Dear」
はじめに
「コロンブス」の炎上をきっかけに、 Mrs. GREEN APPLEというロックバンドの曲を真剣に聴くこととなりました。聞けば聞くほど素晴らしい楽曲ですし、透き通るような歌声や表現豊かな詩に引き込まれました。
私は、子どもたちがとても好んで聞いているこのバンドの曲をCMや番組の挿入歌で耳にする程度でしたが、次第に自ら好んで聞くようになっていました。こうした新たな世界との出会いで感動した気持ちを今日のコラムで少しお話してみたいと思います。
「Soranji」と「ラーゲリより愛を込めて」に涙
Mrs. GREEN APPLE の「Soranji」という曲のすばらしさは、私などが今更語る余地はありません。私は、今回のコロンブスのMVの炎上をきっかけに、「Soranji」が主題歌となっている「ラーゲリより愛を込めて」の映像とコラボレーションしたスペシャルMVを目にました。正直にいうと思わず涙してしまいました。
歴史学習で、1945年に終戦をむかえる太平洋戦争について、多くの人が学びます。しかし、第2次世界大戦が終結してもその後、捕虜となっていた日本兵の苦悩は終わりませんでした。過酷な状況の一つであったのが、シベリアの強制収容所での暮らしです。
この映画は、そこで収容されていた山本幡男をはじめとする多くの日本兵が生き抜き、家族と再会するその日を目指す、気の遠くなるような日々を描いています。
2022年の12月に公開されたこの映画ですが、このスペシャルMVを今見ても歴史的な背景とこの曲が重なり合い私の心を感動させてくれます。零下40度の厳冬のシベリアで粗末な食事と過酷な労働が続く日々は、捕虜たちの人権を無視したものでした。
戦争の悲惨さや愚かさを学ぶ中で私たちは、命の大切さを学ぶわけですが、いかに平和な日々が当たり前ではないかということをこのMVを通して学ぶことができるのは、この曲のもつ力と映像の成す技だと思います。
「Dear」と「Dear family」
清武英利さんの「アトムの心臓 ディア・ファミリー 23年間の記録」(文春文庫)が原作となる、「ディア・ファミリー」が6月14日から公開されています。こちらの作品も実話に基づく作品です。
心臓疾患を持っていた娘の余命を10年と知った家族はある決断をします。日本中の医療機関が無理だと診断した病に立ち向かう方法、それは人工心臓の開発でした。父親は、小さな工場を経営していました。自らの手で一から医療を学び、人工心臓の開発という果てしない挑戦に打って出ます。
10年という制限時間の中で絶対にあきらめないその思いは、人工心臓の研究開発の過程で得た知見を活かした、IABPバルーンカテーテルの開発へと結びついていきます。それまでアメリカ製の製品がほとんどであったこの医療器具の日本人向けの開発が進んだことは、多くの人々の命を救うことになります。しかし、自分の娘の心臓病を救うことはできませんでした。
光に包まれる最後の場面で流れてくるMrs. GREEN APPLEの「Dear」は、まさにこの命の輝きと尊さ、家族の愛を印象付け感動を増幅させてくれます。
今回紹介した二作品と二曲は、いずれも事実や歴史に基づいて描かれた映画という作品とその主題歌という関係にあります。双方が織り成す表現には、感動と共に命や愛の尊さを心の奥底にまで伝えてくれます。
「コロンブス」という曲のMVをめぐり、私も含め多くの人が抱いている違和感はもしかするとその真意を読み取り切れていないために発生しているのかもしれません。
今回のことをきっかけに多くの人たちに愛され、支持されている「Mrs. GREEN APPLE」というバンドのすばらしさに気づけたことに感謝したいです。
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