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子どもたちはそれぞれに持つ内なる力を、それぞれのペースで発揮している

私は放課後等デイサービス・スタジオplus+で児童指導員をしています。スタジオplus+では、発達障害や不登校など「学校生活に特別なニーズがある子どもたち」を対象に、一対一の個別授業で学習サポートを行っています。子どもたちが自分の得意・不得意を知り、自分に合う学び方を自ら模索・実践できる“自立した学習者”になってくれることを目指しています。

そんな“自立した学習者”像を描きながら子どもたちと日々接していると、学校での学習方法や進度とはちょっと合わないかもしれないけれど、子どもたちがそれぞれに持つ内なる力を、それぞれのペースで発揮していることに気づかされます。

九九が覚えづらかったから、こんな工夫をしてるの!


3年生になってからスタジオplus+に通い始めたAちゃんは、学校での学習全般に苦手さがあるということでした。特に「計算が苦手」と伺っていたので、最初の授業ではまず□×□のかけ算に取り組んでみました。「九九表もあるから、見たいときは言ってね」と伝えてから、問題が並んだプリントを手渡しました。

さっそく取り掛かったAちゃんは、何問かは少し考えてから答えを書き込み、何問かは「九九表、見せてください」と要求。そして残りの問題は、かけ算なのに指を折りながら計算していました。

結果は全問正解でした。「すごい、全問正解!」と伝えた後、指を使ってどうやって計算していたのかを聞いてみました。「たし算やひき算で指を使う子は多いけれど、かけ算なのに・・どうやって計算しているの?」と不思議に思ったからです。

するとAちゃんは3×8の問題を例にとり、「8って10より2少ないでしょ。だから10が3個の30より(3×2の答えである)6少ないってことだから、30-6で24!」と、サラッと説明してくれました。

こんな風に計算する過程で、ひき算をするときに指を折って計算していたらしいのです。2年生の時に九九がなかなか覚えられなくて困ったから、最初の方だけ何とかがんばって覚えて、後半はこのやり方で計算する技を身につけたこと、それでも7の段より後ろの段はどうしても覚えられないから九九表を見たいのだと説明してくれました。


九九が全部覚えられなくても自分の持っている力を使って、それでも足りないところは九九表を見ながら、結果的に最後まで解き終えることができた。学校で教わるやり方とはちょっと違うし、計算に時間もかかってしまうけれど「自分の苦手を知り、工夫で対処して何とか最後までやり遂げる」ことができるなんてすごい!

自分の持っている力と、適切な道具や、時には誰か他の人の力も借りながら課題に対処していける力って、生きていくうえで一番大事な力なんじゃないでしょうか?

忘れたころに・・・「あ、私これやりたい!」


スタジオplus+の指導員は、子どもたちにこのような「内なる力」を発揮してほしくて、その子の苦手な部分をなるべく使わず、得意なことや好きなことを最大限に生かせるように教材や授業内容を考えています。

2年生の初めから通い始め、今4年生の女の子Bちゃんは、幼児のときに検査を受け、精神面・知能面での発達が、実年齢の平均より遅いという診断を受けています。学校での学習でも、どうしても授業の進度について行けなくなることがあります。

Bちゃんの大好きな絵本を、交互に1行ずつ読んで文章を読む練習をしたり、パソコンでできる「九九の神経衰弱」で対戦しながらじっくりと九九を覚えたりしてきました。

そんなBちゃんが3年生の後半にぶつかった新たな壁が「ローマ字」でした。お母さまからも「どうしても覚えられないんです・・」と伺ったので、教材としてBちゃんの大好きなキャラクターを使ったローマ字かるたを自作し、準備万端!授業に臨みました。

ところが、いつもの通り「きゃ~〇〇ちゃんだ、やるやる!」と飛びついてくれると思っていたのに、Bちゃんのローマ字に対する苦手意識が思いのほか強かったようで、「やだ、やりたくない!」と見事に拒絶されてしまいました。何とか彼女をローマ字カルタ遊びに誘おうと、あれこれ声を掛けたけれど、取り合ってもらえず。仕方なく力作のかるたを、彼女の教材をまとめているクリアフォルダーにしまっておきました。

そして数か月が過ぎて4年生になろうとする頃、他の教材を出そうとした時に、そのかるたをバサバサっと机の上に落としてしまったのです。
するとBちゃんが「あ、私これやりたい!」と急に手を伸ばし、たどたどしいけれどそのうちの数枚を何とか自分で読んでくれたのです!

「えーすごい、Bちゃん読めるようになってるじゃない!」とびっくりして声をかけると、自慢げな表情で「読めるよ~」というBちゃん。これからじっくりローマ字の練習に取り組めそうです。

子どもたちの力を引き出せる教材選びを行っています

学校でのやり方やスピードに合わせることが難しくても


「宿題が終わらない」「明日テストなのに・・」。お子さんが学校での活動にスムーズに参加してくれることを願うあまり、ついつい
「今のうちに九九を覚えないと、この先大変なことになるよ!」
と、子どもを追い立ててしまうこともあるのではないでしょうか。

私自身も、こちらが準備した通りに行かないと、焦ったりがっかりしたりしてしまうことも多々あります。でもやはり、放デイの指導員という一歩ひいた立場でいられることで、彼ら・彼女らが持つ内なる力に気づけることも多いのではないかと思います。

そんな時、学校でのやり方やペースに合わせるのは難しくても、自分の得意・不得意を知って、それに合う学習の仕方を身につけることができれば、子どもたちの興味や活動の範囲は自然にどんどん広がっていくんだなとワクワクします。

もっともっと子どもたちの思いや感覚を注意深く感じ取り、こちらのペースや見方を押し付けないように、「どうしたらいいだろうね」と一緒に考えていきたいなと決意を新たにします。

井上久美子(スタジオplus+ 児童指導員)

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