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プラットフォームのコア取引を定める


プラットフォームは難しい

デジタル化の波が加速する現代社会において、ECサイト、メディア、コミュニケーションツールなど、多岐にわたる分野でプラットフォーム型のビジネスモデルが注目されてきました。グローバルではGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)が名高いですが、日本国内でも大企業からスタートアップまで、多くの企業がプラットフォーム事業を展開しようとしています。

しかしながら、特に国内市場においては、そのような試みの多くはそれほど成功していません。多くの企業が、海外の成功事例を参考にして事業を立ち上げたものの、うまくいっていないことが多いのです。

果たして、どこに成功と失敗の分かれ目があるのでしょうか。本記事では、この問いに答える手がかりとして、「プラットフォームのコア取引」というテーマに注目します。

DITYでは、プラットフォーム事業の立ち上げに取り組む経営層や現場のキーパーソンが「コア取引を正しく定義」し、それに合わせた戦略を策定するためのワークショップを提供しています。ご興味のある方は、是非、お問い合わせください。

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プラットフォームのコア取引

プラットフォームの役割は、生産者と消費者という異なるユーザを繋ぎ、継続的な取引が行われるような場を提供することです。プラットフォーム自身は取引に直接関与しない仲介者の役を担い、生産者と消費者の特性やニーズを深く理解して最適なマッチングを行い、両者間の取引を促進します。

ここで多くの場合、生産者と消費者の間には、単なる商品やサービスの提供と対価の支払いを超えた意味を持つ本質的な価値のやり取りが存在しています。これがまさにコア取引であり、プラットフォームの成功の鍵なのです。

単なる商品やサービスの提供と対価の支払いを超えた、本質的な価値のやり取りを見極める

プラットフォームがコア取引を適切に定めることができれば、生産者と消費者が抱えているニーズを的確に捉えたサービスを設計することが可能になります。それによって、プラットフォームは単なる仲介者を超えた価値を発揮し、競争力や持続可能性を持てるようになるのです。


電子書籍ストアの事例

それでは、具体的な事例を材料として考えてみましょう。世の中には様々なプラットフォームが存在しますが、その中から電子書籍ストアを例に取ってプラットフォームのコア取引の定義について考えることにします。

現在この分野では、AmazonのKindleストアが圧倒的なシェアを握っています。Kindleストアは2007年11月にアメリカでサービスが開始され、それから5年後の2012年に日本でのサービスが始まりました。

実は、AmazonがアメリカでKindleを始めてから日本市場に上陸するまでの5年間に、日本国内では多くの企業が電子書籍ストアの立ち上げに挑んできました。一例を挙げるだけでも、ダイヤモンド(出版社)、トーハン(書籍流通業者)、ローソン(大手小売業)、楽天(EC)、富士通(IT企業)など、まさに各業界の有力企業が、Amazonが来る前に事業を立ち上げ、ユーザを囲い込むことを狙ったのです。

国内各社の電子書籍ストアは、Amazonの日本上陸に先行したにも関わらず全滅した

しかし、結果的にどの企業も大きな成功を収めることができませんでした。そして、2012年10月にAmazonが日本でKindleストアを開始した後、これらの企業は次々と市場から撤退していくことになります。つまり、各業界の有力企業がAmazonのアメリカでの成功事例を確認した上でAmazonより先に日本市場に参入したにも関わらず、うまくいかなかったわけです。

この事例を「プラットフォームのコア取引を定義する」という視点で捉えるとどのように理解できるのか、次のセクションで詳しく見ていきましょう。


国内電子書籍ストアの失敗例

前のセクションで紹介した国内で初期に電子書籍ストアを立ち上げた各社は、自社のプラットフォームのコア取引をどのように定義し、その結果何が起こったのでしょうか。

当時、書籍の出版においては、出版社が有力な著者を抱え、企画・編集・出版の各段階で中心的な役割を果たしていましたが、その出版社が電子書籍に対して期待していたことは、既存の紙の書籍の販売量を維持しつつ、自社が持つ書籍を電子化することで、追加的な顧客層を獲得することでした。決して紙の書籍市場や実店舗の書店を置き換えることではなかったのです。

このビジネスモデルの根底には、「書店で紙の書籍を買うのではなく、インターネット上で電子書籍を購入したい」と考える消費者層が一定数存在するという想定がありました。電子書籍ストアを展開していた企業は、これらの消費者を自社のサイトに集め、出版社から書籍というコンテンツを仕入れ、電子データとして販売することで収益を上げようと考えていたのです。言い換えると、各社は単純に「新しく出現した電子書籍というデジタルコンテンツをオンラインで販売する」というコア取引を定めたのです。

電子書籍を買いに行くユーザは少なく、電子書籍ストアは軒並み失敗した

しかし、実際には多くの電子書籍ストアは顧客を十分に集めることができず、期待外れの結果に終わりました。蓋を開けてみると、当時は「書籍を電子ファイルで購入したい」と思うユーザがそれほど多くなかったのです。それどころか、紙の書籍に慣れていた多くのユーザからは「紙の書籍のほうが遥かに良い」「電子書籍は紙の書籍に劣る」とみなされることも少なくありませんでした。

新規事業として電子書籍ストアを立ち上げようとした各社は、相当なマーケティング費用を投じたものの、それに見合う収益を得ることができず、最終的に全ての電子書籍ストアがサービス終了に至りました。つまり、この電子書籍ストアという事例においては、単に書籍をデジタル化するという考え方では不十分だったわけです。

では、どうするのが正解だったのでしょうか。次のセクションでは、AmazonのKindleがどのように顧客の購買行動や消費傾向を理解し、コア取引を正しく定義することによって、市場での圧倒的な地位を築くことができたのかを探ります。


AmazonによるKindleストアの成功

Amazonは、2000年に日本でのECサービスを開始して以来、書籍を中心とした幅広い品揃えと、最短で注文の翌日に配送というスピーディな対応で、ユーザから高い評価を得てきました。そして、ブログやSNSで紹介された本を気軽にAmazonで購入する「ポチる」という新しい習慣が、日本の消費者の間に徐々に浸透していきました。この「本をポチる」は、「時間に余裕がある時に書店を訪れ、何冊もの本を立ち読みしてその日に購入する本を選ぶ」といった、それ以前の書籍の購入体験とは大きく異なるものでした。

2012年にKindleストアが登場した時代は、電子書籍そのものへの需要はまだ確立していませんでしたが、多くのユーザがAmazonで書籍をポチることに慣れ始めていた時代でもありました。ここでKindleストアは、ユーザの潜在的な欲求を見事に捉えたのです。それは、「本を画面上で読みたい」ではなく、単に「ポチった本を今すぐ読みたい」という欲求でした。

Kindleの革新的な点は、購入した電子書籍をすぐに読み始められることでした。ユーザが電子書籍をポチると、わずか数分後には読書を始められるのです。この「電子書籍ならすぐに読める」という利点が、翌日まで待たないといけない紙の本の魅力を上回る場合もありました。

つまり、Kindleの成功要因は、「即座に読める」という新しい消費体験の提供にあったのです。これは、「ポチった本を今すぐ読みたい」というユーザの潜在的なニーズに見事に応えたものでした。言い換えると、Kindleストアは「ポチった本を瞬時に読める、という快適なユーザ体験を提供する」というコア取引を定めたのです。

意図して電子書籍を買いに行く行動ではなく、衝動的な “ポチる” の進化が本質

さらに、Amazonは読書体験を極限までスムーズにする専用端末も導入しています。Kindle端末を購入すれば、面倒な初期設定は不要で、電子書籍を購入すると自動的にダウンロードが行われます。スマホやタブレットのように他のアプリからの通知に気を取られることもなく、液晶画面よりも紙の本に近い電子ペーパー方式の表示画面で読書に集中できるのです。

このように、Kindleストアは、単に電子書籍を提供したのではなく、本をポチることに慣れたユーザの「今すぐ読みたい」という強い要望に応えたのです。またそれによって、他の国内企業が立ち上げられなかった電子書籍ストアという市場を開拓することに成功したのです。

少し話は逸れますが、Amazonは「地球上で最もお客様を大切にする企業であること」という顧客中心主義を標榜しています。電子書籍ストアを立ち上げる際に、他社には出来なかった深いユーザの理解に基づくサービス設計ができたことは、まさにこの顧客中心主義を実践した成果だと言えるでしょう。


その他の分野におけるコア取引の定義

以上で述べた通り、プラットフォームの設計においては、単なる商品やサービスの提供と対価の支払いを超えた意味を持つ、生産者と消費者の間の本質的な価値のやり取り、すなわちコア取引を正しく定義することが重要です。

正しいコア取引を見極めるためには、Kindleが「電子書籍ファイルを買いたい」ではなく「ポチった本をすぐに読みたい」という消費者のニーズに応えたように、「どのような価値がやり取りされているか?」を掘り下げる必要があります。

この考え方は、電子書籍ストア以外にも多くの分野に適用することができます。例えば、以下のようなプラットフォームを考えた時に、そのコア取引をどのように定義できるのかについて考えてみると面白いかもしれません。

  • アスクル:最短当日にあらゆるオフィス用品をお届けする通販サイト

  • ココナラ:「知識・スキル・経験」といった得意を売り買いできるスキルマーケット

  • クックパッド:数百万品を超えるレシピ、作り方を検索できる日本最大の料理レシピサービス

  • Twitter(現 X):140文字以内でシンプルに投稿するミニブログ

ここにそれぞれの「コア取引の定義」を記すことはしませんが、少し考えてみると、成功したプラットフォームでは、単なる商品やサービスと対価のやり取りを超えた仲介者の価値が存在していることがわかると思います。


まとめ:プラットフォームの設計はコア取引の定義から

この記事では、国内企業の電子書籍ストア事業とAmazonのKindleストアの例を材料として、プラットフォームにおける「コア取引」の重要性と、その正しい定義の方法について議論してきました。

プラットフォームの設計を進める際には、まず最初に、ユーザのニーズの本質を捉え、コア取引を適切に定義しましょう。それによって、プラットフォームはただの仲介者以上の役割を担えるようになり、繰り返し利用される価値のあるサービスを提供することができるようになります。

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プラットフォームのコア取引:誰と誰を繋ぎ、何が取引されるのか? プラットフォームの設計の核となる「コア取引」の本質を理解した上で、最初に注力すべきコア取引を言語化します。
プラットフォームのコア取引:誰と誰を繋ぎ、何が取引されるのか?
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