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プラットフォームのコア機能を定める
コア取引の次に
プラットフォーム型のビジネスを立ち上げる時には、サービスを正しく設計することが極めて重要です。本noteにおいても以前に「プラットフォームのコア取引を定める」という記事の中で、その最初の一歩として、ユーザのニーズの本質を捉えてコア取引を定義することについて解説しました。
しかし、コア取引の定義はあくまで最初の一歩であり、プラットフォームを成長させるためには次のステップが必要になります。それが「コア機能」を定めることです。本記事では、そのコア機能とは何で、どのようにそれを定めていくべきかについて解説していきます。
DITYでは、プラットフォーム事業の立ち上げに取り組む経営層や現場のキーパーソンが「コア機能」を正しく定義し、それに合わせた戦略を策定するためのワークショップを提供しています。ご興味のある方は、是非、お問い合わせください。
プラットフォームの「コア機能」
現在、世の中にあるプラットフォームの多くには、便利な機能が数多く備わっています。そのため、新しいプラットフォームを立ち上げる際にブレインストーミングを行うと、「こんな機能があれば便利そう」「競合サービスにあるこの機能を取り入れたい」といったアイデアが数多く出てきます。機能追加のブレインストーミングは、いつも議論が絶えないのです。
ここに大きな罠が潜んでいます。通常、事業立ち上げ当初はリソースが限られており、そうやって出てきた全てのアイデアを最初から実現することは現実的ではありません。しかし仮に、もし最初から多くの機能を実装しようと思えば出来る場合でも、やはり提供する機能を絞り込むべきなのです。
これは「MVP(Minimum Viable Product)」という考え方で、新サービスを最小限の形で市場に投入し、ユーザの反応を見ながら改善していくアプローチです。
大手SNSの成功例と失敗例
ここで、大手SNSを例にとって考えてみます。例えばfacebookは、現在でこそ世界で30億人のユーザを抱える巨大なSNSですが、2004年にローンチされた時は、ハーバード大学を中心とした限られた大学生のみが利用できる招待制の小さなサービスでした。とてもシンプルな形で自分の実名と写真1枚、簡単な自己紹介を掲載したマイページを作り、友人を招待してそのページを見せるという機能だけだったのです。しかし、このシンプルさがうまく働き、ユーザがマイページを作って友人を招待するという流れがどんどん加速し、初期の成功に繋がりました。
実はfacebookより少し前に、ハーバード大学や他の名門大学でもいくつかのSNSが立ち上げられていましたが、その多くは初期に多くの機能を盛り込んでしまい、結果的に使いづらくなって廃れていきました。興味深いことに、多機能の競合SNSではなく、最もシンプルな機能のfacebookが生き残り、最終的には世界的なプラットフォームとしての地位を確立したのです。
同様に、Instagramも初期はシンプルさで成功したSNSです。Instagram
は写真という新しい切り口を打ち出したSNSですが、最初は簡単に使える写真フィルタ(加工)機能だけに特化しており、まさにそれが撮った写真を加工して友人に見せたいというユーザのニーズにうまくフィットし、成功に繋がりました。
このように、facebookやInstagramは「ユーザが最も欲しがる機能に特化し、シンプルな形で提供する」ことで大成功を収めました。
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一方で、後の時代にGoogleが満を持してローンチしたSNSがGoogle+です。このGoogle+は、サービス開始当初こそ大きな注目を集め、記録的なスピードで初期のユーザを獲得しました。しかしその後は利用者数が伸び悩み、最終的にはサービス終了に追い込まれてしまいました。Google+には、最初からサークルやハングアウトといった多彩な機能が搭載されていたのですが、多機能だったからこそ、かえって使い道が曖昧になってしまい、その魅力がユーザに評価されなかったと言われています。
このSNSの事例からも、特に初期は必要十分な機能を見極め、それに特化することが大切だということがわかります。またこのことは、SNSに限らず、ECや動画配信サービス、マッチングアプリなど、あらゆるタイプのプラットフォームに共通しています。つまり、新しいプラットフォームを立ち上げる際には、ユーザにとって不可欠な機能を見極めた上で、その機能を集中的に磨き上げることが求められるのです。
4つのコア機能
それでは、プラットフォームの設計において、ユーザにとって不可欠な機能、すなわちコア機能について説明していきます。
プラットフォームには、コア取引として定めたユーザ間のやり取りを活性化するために、以下の4つの重要な機能があります。
Attract(呼び込む)
Enable(後押しする)
Connect(結び付ける)
Secure(整える)
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これら4つの要素は、必要十分で互いに補完し合う要素であり、4つ全てが揃うことでユーザ側に好循環が生まれ、プラットフォームが加速的に成長していきます。反対に、どれか1つでも欠けた場合、サービス存続に関わる問題に繋がりうるリスクが生じてしまいます。
コア機能1:Attract(呼び込む)
プラットフォームはユーザが集まらなければ取引や交流が成立しません。特に初期段階では、品揃えが悪いので顧客が集まらず、逆に顧客が少ないので提供者が集まらない、といった、いわゆる「鶏と卵の問題」が起きやすくなっています。従って、最低限のユーザ数を確保するためにも、外からユーザを「呼び込む」ことが必要です。
そのためにはまず、ユーザが「ここに来たい」と感じるような、プラットフォームの明確なコンセプトやキラーコンテンツを提示することが必要です。また、外部(インターネットやリアルの接点)からの流入動線を確保することや、最初のユーザ登録や初回利用のハードルをできる限り下げることも欠かせません。
例えばLINEは、スマホに移行したユーザが新しい連絡手段を求めていた時に、「無料通話」や「スタンプ」の機能で多くのユーザを呼び込み、更に「電話帳連動」機能で多くのユーザを芋づる式に獲得しました。またクックパッドはSEO対策を駆使し、検索サイトでレシピを検索したユーザがクックパッドのサイトにたどり着くようにして多くのユーザを獲得しました。それぞれサービス開始当時の世の中に合った最適な “Attract” の機能を打ち出していたのです。
なお、「Attract」について検討する際には、ユーザ数が少ない段階で初期ユーザが享受できるメリットや、このプラットフォームのことを話題にしたくなるような状況について考えることが有効です。
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コア機能2:Enable(後押しする)
例え多くのユーザを集めても、プラットフォームを使ってもらわなければ意味がありません。ここで出品や投稿、購入といったプラットフォームの利用が難しかったり、面倒だったりすると、ユーザはなかなか行動を起こさず、プラットフォームが "過疎化" します。そこでユーザの利用を「後押しする」ことが重要になります。
そのためには、スマホ操作に最適化した直感的なUI/UXを整え、迷うユーザのためのガイドを充実させるといったことが大切です。例えば、メルカリの「簡単出品」や「ガイド付き取引フロー」などの機能や、Wantedlyの「簡易プロフィール入力」などの機能は、操作に慣れないサービスを利用してもらうため “Enable” の機能を打ち出した事例であるといえます。
「Enable」については、初回利用時につまづく面倒な部分を洗い出し、その課題を解決することで、多くのユーザにとって使いやすい機能を作ることができます。また、マス向けサービスにおいては、端末性能や通信状態が低い場合でも最低限の操作ができるようにしておくことも大切です。
コア機能3:Connect(結び付ける)
多くのユーザが集まり、出品や投稿といった行動が進むと、プラットフォームが一気に成長し、数多くのユーザやコンテンツが集まった状態になります。このとき、ユーザが「自分が欲しい情報やコンテンツを見つけられない」という問題が生じてきます。これを解決せずに放置してしまうと、ユーザの利用が進まず、満足度は高まらず、最終的にはユーザの離脱につながってしまいます。だからこそ、ユーザを「結び付ける」ことが必要なのです。
例えば、Amazonの「レコメンド」や食べログの「ランキング表示」などののように、「簡単に目的の情報や商品を探せる仕組み」が必要となります。それ以外にも、「検索・フィルタ・タグ機能」や「直感的で一覧性のある閲覧機能」「おすすめ通知」といった機能が “Connect” に相当する機能として提供されています。
「Connect」を検討する際には、新技術を駆使することで、画期的なマッチングの仕組みが生み出されることも多いです。しかしそれに加えて、ユーザが自ら探したい場面とおすすめが欲しい場面の違いを考えるなど、"人間としての感覚” を考慮したマッチングを考えることが大切です。
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コア機能4:Secure(整える)
プラットフォームにユーザが増えてくると、不正利用や詐欺、トラブルが頻発することがあります。そのような状態に陥らないように、安全安心を守るための運営が求められます。またそれ以外にも、知財やプライバシー管理、コンプラ対応といった点に配慮し、多くのユーザから信用を得られるように、プラットフォームを「整える」ことも必要です。
そのためには、明確な利用ポリシーを策定して実施したり、安心して利用できる仕組みを整えたりすることが必要です。例えば、メルカリの「エスクロー決済」や、airbnbの「セーフティチーム」と「ホスト保証制度」などは、サービス運営者が両側のユーザに対する仲介者として “Secure” の機能を担っている事例といえます。
「Secure」について検討する際には、ただ単に厳しいルールを課すだけでなく、コミュニティがどの程度自発的に良識・マナーを形成できそうかを想定することも大切です。またこのコア機能は、収益拡大には直接繋がらないことも多いのですが、「プラットフォームの運営上、最も重要で最も難しいコア機能」でもあります。
まとめ:プラットフォームのコア機能を定めよう
プラットフォームの設計を進める際は、まず最初にコア取引を定義した上で、「4つのコア機能」を正しく構築することが成功への鍵となります。呼び込む、後押しする、結びつける、整えるという4つのコア機能は、すべて必要不可欠な要素ですが、それらをできるだけシンプルに設計することも大切です。
皆さんのプラットフォームでは、最初から機能を増やして複雑化させてしまい、ユーザが利用しづらくなっていないでしょうか。そのようなときは、この4つのコア機能の枠組みを念頭に置きつつ、本当に必要十分な機能について議論してみてはいかがでしょうか。
DITYでは、プラットフォーム事業の立ち上げに取り組む経営層や現場のキーパーソンが「コア機能」を正しく定義し、それに合わせた戦略を策定するためのワークショップを提供しています。ご興味のある方は、是非、お問い合わせください。
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