映画”Ilo Ilo”『イロイロぬくもりの記憶』
ネタバレあり。
シンガポールでの生活を知ってる人にとって、こんなに懐かしい映画も無いのでは?
あるいは、それは、1970年代を幼少期として過ごし、その後のシンガポールの匂いを嗅いだ人間特有の感情だろうか。
この優しい映画に込められた数々の距離と、その距離を描く映像にしばし動けなかった。
・シンガポールの標準的家族とメイドとの距離
・小学生、やんちゃな息子と、メイドとの距離
・母親とメイドとの距離
・息子と、大人との距離
・母親と父親の距離
・家族と親戚の距離
・シンガポールとフィリピンの距離
・メイドと、国に残した家族との距離
・メイドにとっての息子と、世話をしている少年の距離
・シンガポーリアンにとっての仕事と家庭の距離
・たまごっちと本当の鶏の距離
・シンガポールという若い国家と、各家庭のプライベートな生活との距離
・シンガポールにおける90年代と現代との距離
・シンガポールの90年代と、日本の高度経済成長期との距離
・公団住宅と、プライベートライフとの距離
・人種間の距離
・生と死との距離
・運と不運との距離
これらの距離を表象し、象徴する映像としての、下記シーン。
・公団住宅
・その屋上
・タバコ
・口紅
・フェンス
・自転車
・ロトくじ
・美容室
・エンストを起す車
・自己啓発セミナー
・シャワー
最近まで、日本以上の教育水準の高さとその加熱ぶりが注目されていたが、こんな心震える映画を生み出す土壌があったこと、心から経緯を表したい。
何より、高度経済成長期を幼少期に体験したものとして、なぜここまで感情がシンクロするのか。自分にはもちろんこのようなメイドはいなかったのに。
実際、2010年以降の数年をシンガポールで過ごし、オーチャード通りに週末集まるフィリピン人メイドを見たり、もっと意識高い系で大学出てすぐに国を離れてシンガポールでシェアハウスで暮らしながら夢を見ながら母国に仕送りしているフィリピン人とガチに仕事をした身としての特別な感情も影響しているのかもしれない。
が、この距離を独特の間合いと映像で見せるこの映画監督、Anthony Chenとはどんな人物かと興味を持ったが、なるほど、あの恋恋風塵の侯孝賢監督(ホウ・シャオシェン、1947年4月8日 - )から絶大な評価を得た監督と知り、妙に納得。
ん? 本日、ネットで検索して初めて知ったが、侯 孝賢(ホウ・シャオシェン、1947年4月8日 - )と自分、同じ誕生日と知って、発見、ちょっとなんだか嬉しい今日この頃。
2、3しか彼の映画見てなかったが、ちょっと、また見てみようかな。