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結局、娘に丸裸にさせられた私。
結局、娘の新居への引っ越しがらみのことで、こじれにこじれた。
10ほどの段ボールにつめた荷物を、娘は「着払い」で送ってきた。
それを私たちはスルー出来なかった。
先日、下宿先に向かう娘へ「このお金でこれから自分でやっていきなさい」と十分お金は持たせた。
結婚資金になるはずだったお金を。
私は加えて言った。
これからは、そのお金でお金の使い道を考えて、自立に関することをぜんぶ自分でしていきや。
自分ですることによって、「節約」も覚えていくんやから。
それにも返事していたから、てっきり分かってくれているものだと思っていた。
いま冷静に考えると、さいごの最後にそれくらいしてあげればよかったのかもしれないけど、主人も「着払いで」送られてきたことに憤慨していた。
私達のタイミングでいうと、2月の終わりに最後の仕送りした段階で、甘やかすのは終わり。
ましてや、これから社会人になって、自立していく身である。
だのに・・・。
私はラインで「そろそろ、父ちゃん、母ちゃんにも『思いやり』ちょうだい」とばかりに、自分でお金を出さなかったことを、やんわりとたしなめた。
そして「怒っているのではなく、『悲しい』」とも。
それがこじれにこじれて「どうして何でもかんでも決めつけるの?」と。
私は、娘がその宅配代を、せめて自分で出すくらいの思いやりが欲しかった。
それが無理なら、「着払いでごめん」と、ひと言連絡があったら・・・。
娘が四年間大学生活で下宿しているあいだ、私たちは精一杯のサポートをしてきたのに・・・。
ラインで頼みごとがあれば、文句ひとつ言わず、それにも応じた。
ただ・・・。
娘の頼み方は、いつも雑。
言葉がたりない・・・。
そのことも、今回初めて娘に伝えた。
「言葉」はだいじやで・・・と。
私が実家で教えたのは、最低限の勉強と、最低限の運動神経をまかなうためのサポート。
学生の頃は、それがアルのとナイのとではクラスでの立ち位置がちがうことは、それで苦労した私がいちばん知っている。
他のことは、私自身が、自分でしてきたように、自分で身に付けるだろう・・・と、のびのび育ててきたことを悔いた。
そんな私の気持ちを察してか察していないのか、娘からの返事は意外なものだった。
自分の行きたい高校や大学へ行かせてくれたのは感謝しているけれど、幼い頃の不平不満が基盤にある・・・と。
娘がツラツラと、不満を書いたのは、ほんの二つ三つだったけど、見た瞬間、ひるんだ。
そして、怒りに変わった。
自分が母のことを反面教師に、ちゃんと育児してきたという自信のうえに、慢心していたのかもしれない。
だけども、どれだけちゃんとしていても、皆誰しも不平不満の一つ二つはあるよね・・・。たとえ、ちがった家のちがった親の元で生まれていても。
それに、娘にとって、デトックスになっているのかもしれない。
どんな形であれ、言葉にして吐き出すことができたのは、よかったのでは!
気持を落ち着かせて、これを無駄にはしたくないという気持ちに変わった。
娘の気持ちを今一度確認しようと思って、すぐに電話した。
出ないかな・・・と思った娘は、ながいコール音のあとに出てくれた。
娘とめったに電話で話すことはない。
私はなるべく優しい声で話し始めた。
娘が抱えている、幼き日の不平不満を紐解いていこうと思って。
感情的にならないよう、自分に何度も言い聞かせながら。
相づちを打ちながら、娘の気持ちに寄り添う。
そして、娘にそういう思いをさせたことを謝った。
でもね・・・と私が言い訳をはじめたのは、ヒトツだけ。
私はお兄ちゃんに対してだけ、愛情を差別や区別をして余計にかけたことはないよ!
そんなことしたら、兄弟が仲が悪くなるのは、母ちゃんがイチバン知ってる。
だから、それだけは気を付けてたんよ。
あなたと、お兄ちゃんは、母ちゃんから見れば、十分仲がいいと思うよ。
だけど、そんな思いさせていてたんやったら、ごめんね。
だけど・・・・あなたは、母ちゃん母ちゃんって、頼ってきてくれたやん。
母ちゃん、嬉しかったよ!女の子って、ここまで母親のこと好きになってくれるんやと思って!
ハグの習慣もあったじゃない!それも嬉しかった!
母ちゃんは、自分の親とハグも手をつないだ思い出もないもの。
中学になったときだって、お兄ちゃんもあなたも、口を利かなくなったけど、母ちゃんは決めたのよ。
一日一回、子供を認めること、褒めることを見つけて、部屋の外からでも声をかけようって。
意識して声をかけてたの、覚えてる?
子供たちには、しっかりと自己肯定感持ってほしかったからよ。
母ちゃんは、親に否定の言葉しかかけてもらえやんかった。
だから、自分に自信がなかった。
ずいぶんと、大人しかったのよ。
ココに嫁いできて変わったのよ。
最初は、ばあちゃんにいじめられていたし・・・。
強くなって言い返して、何も言われなくなったけどね。
どれだけ一生懸命やっても、認められやんで辛かったしね。
常に、人の評価ばかり気になって。
あなたたちは、しっかりと自分をもってるじゃない!
それに・・・ね。
母ちゃんは、就職して家出て、実家へ帰ろうと思っても、親に受けいられやんかった!
帰っても、帰っても、受け入れてもらえなかった。
ここまで来て、感極まるとは思わなかった。
ちょっと前まで、感情的になって言い立てていた娘が、息を吞んで聞き入っているのが分かった。
私の過去に驚いているのか、私があまりにも泣きじゃくるから驚いているのか、分からない。
娘のまえで、そんなに泣いたのは初めてだったかもしれない。
この過去の現実を、主人にも話したことがあるけれど、そのときは泣かなかった。
だのに・・・。
娘が大人になったからだろうか・・・。
もういいや・・・。
そう思った。
ずっと、子供たちにとって、しっかりとした母親でなければ、子供たちを守ることはできない。
ヒトツ上から、見守ってあげられるくらいの器をもたなきゃ・・・って思っていたけれど。
まるで、丸裸のわたしを見られたようだった。
そんな過去のこと、どうでもいいって、十の昔に割り切っていたはずなのに・・・。
思った以上に、私、傷ついていたんだ・・・って、気付いた。
母に受け入れてほしかった。優しく迎えてほしかった・・・。
いまさらながら、そんな思いが再び湧きあがったのが分かった。
娘へ言葉をつづけた。
結婚しても実家へ帰れなくて・・・。
昔、もう一人の、じいちゃんとばあちゃんは、遠いところに住んでいるって言ったこと、あったでしょう?
市内に居るのよ。まだ、母は生きている。
父は一昨年に、亡くなったけどね。
ちょうど、今のあなたくらいの年だったのよ。
両親と距離をおき始めたのは・・・。
だから、母ちゃんだって、不安なのよ!
自分の母親との関係を、ちゃんと築けなかったから!
これからの親子関係が見えないの!想像できないの!
あなたが、どこかへ消えちゃうのかと思う不安もあるの!
自分がそうして、親の前から消えちゃったから!
同じように、消えちゃうのかと思って!
ここ最近の娘の私達への態度は、過去の自分と重なる。
娘が、私たちから離れていくのではないかという心配もある。
それ以上に、自分自身が親に対してしたことが、同じようにして返ってくるのではないかという恐怖感がある。
息子には感じないのに、娘には感じる。
娘は、いまでも「土、日には帰るね」って言ってくれているのに。
娘は、あの時の私ではない。私は、あの時の母ではない。
それは、分かっている。だのに・・・。
中学、高校、大学とすすむにつれて、気持ちが実家や親から離れていったと主張する娘に対して、静かに続けた。
気持が親から離れていくのは、当たり前なんやで。
山の小さな学校から、どんどん大きな世界へ足を踏み入れていったんだもの。
親と距離を置こうとするのは、当たり前。
問題は、これからやで。
いま、あなたと私たちとの距離は、ずいぶん離れているかもしれんけど、母ちゃんだって、何もなかったら、まだ10年20年生きるかもしれんやん。
少しずつ、縮めていけることができたらいいんちゃうかなぁ・・・。
少しずつでいいねんで。
母ちゃんも、少しずつ変わろうと思っているのよ。
もっと朗らかな話しかけやすい雰囲気をもとうと思ってる。と、締めた。
ちなみに、他に挙げられていた、幼き日の不満も、事実を伝えたが紐解けたかどうかは分からない。
だけど、多分、娘が言葉にすることができて、私が謝ることができたこと。
これが大事だったと信じたい。
私と母との関係は、そういうものではなかった。
これからの娘の人生の歩み方次第で、内容的にそんなことどうでもよくなるんちゃうかなぁとは、私の見立て。
人は、人生の歩み方次第で、幼き日の、親のもとでの不満なんてどうでもよくなる。
いま、充実していれば、そんなこと、どうでもいい。
結局、小一時間、久しぶりに娘と会話を交わした。
今までのことを、包み隠さず、ぜんぶ喋ってしまった。