90歳を超えて初めて経験することに、感激するってどんな感じなんだろうか。
今年91歳になった同居している義父は、食通で美食家だ。
昔から、常に外食を好み、交友範囲も広いことから、ありとあらゆる人と、いろんなところで食事を嗜んできた。
私が嫁いできたときには既に、行きつけの小料理屋のママさんに胃袋を掴まれている状態だった。
ママさんが会話上手だと、お喋りがすきな義父は心まで掴まれ、「常連さん一丁あがり!」となる。
若いヨメが一生懸命料理を作ろうにも、全く食べもせず、基本、外で食べる人だった。
私が日常利用しているスーパーのすぐ傍の焼き肉屋も、義父の行きつけの店だということもつい最近知った。
たまたま夫が、滅多に行かないその店へ友人と訪れた時に、店員さんとの会話から知ったことがきっかけだが、どれだけ通い詰めているか想像できるような話しぶりだったそうだ。
胃袋と心を掴まれたとなると、何としてでも行きたいみたいで、最近は、タクシーを使って通っている。
他にも行きつけの店は、いくつかあって、ローテーションで何店舗か通っていることは、車の運転を取りやめ、タクシーを利用するようになってから、知るところとなった。
いよいよ老化の兆候がみられ、歩くのもおぼつかず、身体の状態もよくない義父が心配で、最初は義母が付き添って、一緒に通っていたが、最近は義母も飽きたようで、ヒトリで通っている。
最近は、新たにできた「うなぎ屋さん」も、そこに加わることになったようだ。
そんな義父が、感慨深そうに、珍しく私に話しかけてきた。
「kakiemon!こいつは、うまいぞ!
こんなうまいもんが、100円そこらで買えるなんて大したものだ!」
最近、カップ麺を買ってきて食べていたのは知っていたが、そこまでの思いを感じているなんて、知る由もなく、笑いそうになったのをグッとこらえ、義父に返すわたし。
「義父さん、舌が肥えているから、こういうものに今まで手をだそうとも思わんかったんちゃうん?カップ麺、食べるようになったん、最近ちがうん?」
「鰻食べようと思ったら、もっといい(高い)値するぞ。100円やもんな!このサイズがちょうどいいんや。」
なおも、喜んでミニサイズのカップ麺を頬張っていた。
最近では、家で寝る時間が多くなり、喋るのもしんどそうな義父が、久しぶりに意気揚々と生気を取り戻したかのように喋る義父をみていて、すごいなぁっと思った私。
90を超えてもなお、義父には経験したことがなかったことがあったんだ!
初めて経験することって、ワクワクするけど、年齢は関係なさそう!
カップ麺の味を知ることができてよかったね!と。
今となっては、親しくお付き合いされている方は、亡くなった方も多いと聞くが、交友関係は広く、外に出歩くことが多かった義父は、きっと今までの人生、いろんな事を経験しているに違いないと、思っていた。
90を超えて、初めて経験することがあるなんてすごい!と、ただただ、何とも言えない感動に近い思いが私を、取り巻いた。
あまりにも美味しそうにカップ麺を頬張る義父が、とても印象的で、先日の買い出しで、つい、カップミニ麺5種類入りの袋を手に取った。
もし、誰も食べやんかったら、一緒に食べてくれる?
一応、夫の同意を得て、買い物かごへ。
私は、普段、カップ麺を食べない。(若い頃は食べたけどね!)
だけど、ミニカップ麺なら、食べれるかな。
最悪、誰も食べないなら、私が食べよう。ウン!
心配はいらなかった。
義両親専用の食べ物かごに入れておくと、買ってきた、いくつかのカップ麺はすぐになくなった。
たった数百円のものを買ってきただけで、親孝行とは、おこがましいにもほどがあるが、心の内はニンマリだった。
私は、めったにそんなに気の利いたことをしない。
気の利いたことをしようなんて思うと、完全同居なんてできないしね。
義母が畑仕事を引退してからは、お互い、食べるものは別に用意するし、買い出しもそれぞれがする。
義父も自分の好きなものを、買ってくる。
そんな状況のなか、私の判断が功を成した気がした。
一昨年、80の誕生日を待つことなしに亡くなった実父には、何もできなかったけど、義父にはせめてもの、できる限りの小さな親切を重ねていこうかな。
次の日、義父は、ミニカップ麺を20個ほど、買ってきたと思えば、今日は、ウインナーを自分で焼いて食べてた。
まだまだ、元気やな😊