デロイトトーマツのシニアマネジャーが語る、新人コンサルタントが壁を乗り越えるために大切にしてほしい「3つの心がけ」
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僕も、同じように不安で、苦しんでいた
自分はこれからやっていけるだろうか——
入社式を済ませ、一通りの研修を終え、初めてプロジェクトにアサインされる6月。
期待と不安の入り混じった玉虫色の心境で、一人のコンサルタントとして現場に向かう。これまで身に着けてきたスキルを、ようやく実地で試せる瞬間が来た。
だが、そこは“世界”があまりに違っていた。プロジェクトに取り組む先輩コンサルタントの圧倒的なスピード、クォリティ、そして、底知れないコミットメント。それに対して目を覆いたくなるような、自分の未熟さ。チームに貢献できない自分のふがいなさに苦しみ、自分の存在価値を疑ったことは、決して一度ではない。
数か月前はただの学生だった自分が、突如、プロフェッショナルとしての振る舞いを期待されるのだ。その期待と自分の間に横たわるギャップは、あまりにも大きい。その大きなギャップを埋められるかどうかもわからず、日々不安の中に埋もれていた。
新しく仕事を始めたときの不安や、苦しみ。それは、僕だけが特別に感じるものではないだろう。だからこそ、あの時を振り返って、あの苦しかった時間を乗り越えるための心がけを、ここでは伝えておきたい。それによって、あなたが経験するかもしれない苦しみをやわらげ、その苦しい時間を1秒でも短くすることができれば、と思う。
心がけ① “関心の選択と集中”——未来の先取りをし過ぎず、目の前に集中しきること
新しい世界に飛び込むと、その世界で求められるさまざまな新しい要請や期待が自分に向けられることだろう。たとえば次のようなことを、きっとあなたも耳にするに違いない。
「いついかなる時も仮説を持つようにせよ」
「ファクト収集が調査ではない、戦略につながる示唆を抽出せよ」
「一つ、二つ上のランクの目線で仕事に向かうようにせよ」
「クライアントの期待を把握し、それを上回る仕事をせよ」
仕事をし始めたばかりの自分に、一挙に押し寄せる数々の要請や期待。それらを真正面から受け止めるほどに、「自分はこれからちゃんとやっていけるのか」と不安も湧き出てくる。手が震え、胃が痛み、夜中に目が覚めてしまうこともあるかもしれない。
このように不安に取りつかれてしまうのはなぜだろうか?
それは、“未来の先取り”をし過ぎているからだ。言いかえれば、“今の自分”を基準にして、未来のすべてを丸抱えしようとしているからだ。先は長い。その遠い将来の要請まで背負おうとすると、重量オーバーになってしまうのも無理はない。
そうした過剰な先取りをする代わりに、僕らは「目の前に集中しきること」を心がけたい。それは例えば、「まずはこの議事録を書ききる」「先のことを心配する前に目の前の市場トレンド分析を終わらせる」「とりあえずは次の内部ミーティングで何か一言でも話してみる」といったものでいい。これからのことはひとまず脇にどけ、目の前の仕事に関心を集中させることだ。
これからの不安は、これから強くなる将来の自分に託そう。そして今の自分は、目の前の果たすべき任務に全力を尽くそう。それはまさしく、今・ここに対する“関心の選択と集中”であり、困難を乗り越える戦略であるのだ。
心がけ② “目的の冷静な見極め”——仕事にはすぐ飛びつかず、一度立ち止まること
「これが欲しいわけじゃないんだけど」
新しく仕事に取り組んだとき、期待に沿えないズレた仕事をしてしまうのは誰しもが通る道だ。新人として、僕らは何とか価値を出さなきゃといつも気持ちをはやらせている。そうして急いで仕事に取り掛かるが、結果として無駄になってしまうことは少なくない。
なぜ、このようになってしまうだろうか?
それは、意識が「作業をこなすこと」に向きすぎているからだ。忘れていけないのは、求められていることは仕事を通じて生まれる「価値」であり、一つ一つの作業はその手段でしかない。期待されている価値が何なのか、言いかえればその仕事の「目的」、何のためにその仕事があるのかを、決して外してはならない。
そうだとすると、必要なのは仕事に即座に飛びつく俊敏さではなく、一歩立ち止まって冷静に目的を見極めることだとわかる。たとえば調査の仕事を任されたなら、その調査は何のために行うものなのか、得られた成果は誰に向けたものなのか、それによってどのような価値を意図しているのかを、まずは立ち止まってよくよくイメージすることだ。
作業に飛びつきたくなる気持ちは僕もよくわかる。作業に取り組んでいる限り、一種の安心感も得られる。しかし、そのはやる気持ちを押さえ、一度立ち止まること。成果に結ばないズレた仕事をしないためには、その仕事は何のためにあるのかという「目的」を、まずは落ち着いて捉えることだ。
心がけ③ “前を向いた相談”——自分一人で抱え込まず、前のめりで周りを頼ること
新しく仕事に取り掛かるとき、わからないことだらけの状態になるのは普通のことだ。ただ、それだけならまだいい。状況をより難しくするのは、わからないことを周りに聞いていいのかもわからないということだ。そうした何重もの“わからなさ”を自分一人で抱え込んでしまうと、とても苦しくなってしまう。
僕もそうだったが、一生懸命になるあまり、自分でなんとかしなきゃとか、周りに迷惑をかけちゃいけないといつも思っていた。だがここではっきり伝えたいのは、絶対に仕事を一人で抱え込んではいけない、ということだ。仕事は個人という“点”ではなく、つねに組織やチームという“面”によって価値を生み出すものだ。周りに頼ることはチーム連携そのものであり、パス回しもせず一人でゴールまで持っていけるのはサッカーの神様くらいである。
このとき重要なのは、周りを頼るときの姿勢。たとえば、次の二つの姿勢を比べてみよう。
姿勢①:
「すみません、市場調査ってどのようにやればよいのでしょうか…」
姿勢②:
「市場調査を進めるにあたり、まずは調査の目的を押さえ、そこから調査項目を設定する流れで進めています。現在は調査項目の洗い出しまで来ているのですが、項目が網羅性に欠けているように感じています。項目の抜け漏れを防ぐような調査の切り口について、アドバイスいただけませんでしょうか」
姿勢①は、自分で考えようとする姿勢に欠けた“後ろ向きの相談”になっている。そのような姿勢では、相談を持ち掛けられた側は「そもそもやる気はあるのか」とうんざりしてしまうことだろう。
それに対して、姿勢②は自分で考えようとする姿勢が際立っていて、“前を向いた相談”になっている。このような姿勢を向けられれば、相談を持ち掛けられた側も積極的にサポートの手を差し伸べることだろう。そして言うまでもなく、僕らが取るべき姿勢は、この“前を向いた相談”だ。一人で抱え込んでふさぎ込む代わりに、前を向いて周りを頼ることだ。
意欲的な姿勢を無下にする人はいない。また、そうして前のめりで自分の限界線に肉薄し広げようとする姿勢のなかに、成長の可能性もまた生まれる。だからこそ前を向き、まずは行けるところまで行ってみること。そして行き詰まったら、一人で抱え込まず、前向きの姿勢を維持しながら周りを頼ること。そうして“点”として孤立するのではなく、“面”を活かすことができるようになれば、きっと困難を乗り越えられるはずだ。
一度乗り越えた壁は、必ず自分を守る砦になる
新しい世界に飛び込んだとき、そこには見たこともない高い壁が目の前に立ちはだかる。その壁を乗り越えていくために、僕らはなんとか自分自身をストレッチさせていく。
そのように自分を高みに向かって伸ばそうとするとき、そこにはつねに“成長痛”が伴うものだ。しかし経験から言って、一度壁を乗り越えれば、今度はその壁が自分を困難から守り、打ち克つための砦になる。困難を乗り越えようとする際の痛み、絶壁をよじ登る苦しみは、ただひとつの例外もなく、将来の自分の力になってくれる。
それを信じて、僕らは一歩づつ着実な歩みを進めていこう。一足飛びにはいかない。しかし、右足の一歩を前に踏み出すことくらいならできる。そうして右足を少し踏み出すと、今度は左足を前に踏み出すことだってできるようになる。そんな確かな歩みを、僕らはあせらず重ねていこう。
(『目的ドリブンの思考法』著者・望月 安迪)
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