生け花 × ハリネズミ[空想惑星探査記9日目]
私の名前は、イマミ・テルージャン。
宇宙冒険家だ。
現在、未知の惑星にて、絶賛遭難中。
だが、幸い水も食糧も十分に残っているため、せっかくなので、この惑星を気ままに散歩してみることにした。
これは、私が未知の星を気の向くままに冒険した記録である。
9日目
私の星には、「ハリネズミ」と呼ばれる生き物がいる。
その名の通り、背中に針状の毛を持つ哺乳類で、この針で外敵から身を守る。
最近は数を減らしており、私も実物を見たことはないのだが、なかなかに愛くるしい生き物だと聞く。
そして、やはり、この惑星にも、ハリネズミに似た生き物が生息していた。
宇宙船から少し離れた荒れ地で、そいつは静かに丸まっていた。
だが、背中に生えているのは針ではない——花だ。
花が、咲いている。
花に擬態する生き物はいるが、体の表皮から直接花が咲いている生き物は初めて見た。
今日も好奇心が刺激された私は、彼を驚かせないように、木陰から観察することにした。
観察を始めて数時間——最初は、花がネズミに寄生しているのかと思ったが、そうではないらしい。
花からは独特の匂いが発されているようで、それに誘われて虫が寄ってくる。
そして、やってきた虫を——パクリ。
ネズミが食べてしまった。
つまり、ネズミにとって背中の花は、虫をおびき寄せるための罠なのだ。
逆に、花にとっては、ネズミは生息域を広げるための手段だと言える。
ネズミが移動すればするほど、遠くに花粉を運ぶことが出来るからだ。
そう考えると、この花とネズミは、共生関係にあるのかもしれない。
針ではなく、花を携えたネズミ。
これも、一つの進化の形なのだろう。
私は、彼を『生け花ネズミ』と名付け、本日は眠ることにした。