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蛇 × チーズ[空想惑星探査記4日目]
私の名前は、イマミ・テルージャン。
宇宙冒険家だ。
現在、未知の惑星にて、絶賛遭難中。
だが、幸い水も食糧も十分に残っているため、せっかくなので、この惑星を気ままに散歩してみることにした。
これは、私が未知の星を気の向くままに冒険した記録である。
4日目
自分で言うのもなんだが、私は好奇心旺盛なほうだ。
興味を持った対象に対しては、なるべく近づいて、詳しく観察してみたいという欲求に駆られる。
こうして遭難しても割と楽しく過ごせているのは、好奇心が強いからとも言えるだろう。
だが、そんな私も、何でもかんでも近づいて手に取ってみよう、と考えるわけではない。
たとえば、私の星に「蛇」と呼ばれる生き物がいるのだが、こいつは毒や牙を持っている場合があるので、うかつに近寄るのは危険だ。
そして……今、「蛇らしき生き物」が、私の目の前にいる。
全身が鱗のようなもので覆われた、ニョロニョロした細い円筒形の見た目。
「蛇」として表現するのは、間違っていないだろう。
だが、ところどころに私の知る蛇とは異なる点がある。
まず、目や口、鼻にあたる部分が見当たらない……のっぺらぼう、と言えばいいのだろうか。
顔がつるんとしていて、まったく表情が無いのだ。
体色は、白と黄色の中間くらいの色だろうか。
そして、その体からは独特な匂いが発せられている。
こっちは、私の星の「チーズ」と呼ばれる発酵食品に近い匂いだ。
極めつけは、30分ほど観察していても、この蛇らしき生き物がほとんど動かない、という点である。
わずかに体が上下しているので、死んでいるわけではないようだが……眠っているのだろうか。
襲われたら危険なので、細心の注意を払って観察しているが、まったく動く気配が無い。
ふわぁ……と、あくびをした、その一瞬。
蛇は、すごい勢いで身をくねらせながら、茂みの奥へと消えていってしまった。
その、皮を残して。
つまり……脱皮をしたのだ。
どうやら、彼は脱皮の準備をしていたらしい。
残った皮をつまみ上げてみると、完全にチーズだ。
薄い膜のようなチーズが出来上がっている。
こんな珍しいチーズが手に入るなら、観察した甲斐があったというものだ。
さすがに、今ここで食べてみる勇気は無いが、食べ物に困ることがあったら……ちょっと試してみるのも、悪くない。
しかし、あの蛇は、なぜチーズの皮を作ることが出来るのだろか?
チーズを作るには、温度が大事だという。
作る工程によって、適切な温度下で発酵や熟成を行う必要があるそうだ。
そして、蛇は変温動物——環境によって、体温が変わる生き物だ。
……まさか、その温度変化を駆使して、チーズを作り出している……とか?
謎は深まるばかりだ……今度出会ったときは、もっと近づいて観察してみるのも良いかもしれない。
私は、あの蛇を『チー蛇(チージャ)』と名付け、今日は寝ることにした。