【DIR EN GREY 楽曲感想】『The Insulated World』『The World of Mercy』

今回は10thアルバム『The Insulated World』及び30thシングル『The World of Mercy』期の楽曲について、感想を書いていきたいと思います。


『The Insulated World』『The World of Mercy』期の活動状況

2018年

年始にベストアルバム『VESTIGE OF SCRATCHES』をリリースし、結成20周年に係る一連の取り組みに終止符が打たれました。20年間の活動の軌跡を詰め込んだこの作品は、バンド活動にとっても一つの節目とも言えるようなものになったのではないかと思います。

そんな中、新たなスタートを歩み出したDIR EN GREY。まず4月16日から5月1日にかけて、「TOUR18 真世界」を開催しました。このツアーでは、本ツアーの合間にリリースされる「人間を被る」を1曲目とし、『VESTIGE OF SCRATCHES』にて再録された「腐海」「THE ⅢD EMPIRE」「Beautiful Dirt」が演奏された他、後にリリースされる『The Insulated World』収録の「Ranunculus」「Values of Madness」が先行披露され、この先を予感させるツアーとなりました。

4月25日、29thシングル『人間を被る』をリリース。2016年の『詩踏み』以来、久々の完全新曲となりますが、この時期の代表曲ともなるような良曲を生み出したと言えます。

6月23日、2度目の出演となる「LUNATIC FEST. 2018」に参戦。前回とは異なり、V系バンドの出演は最小限に絞られていたので、数少ないV系枠での2度目の出演バンドとなりました。ライブでは未リリースの「Ranunculus」や、長尺曲の「VINUSHKA」が演奏されるなど、フェスとしてはかなり攻めたことをやっていたようですね。

6月29日・30日には、「TOUR18 真世界」の追加公演が行われました。29日は「a knot」限定、30日は「人間を被る」リリース記念の公演となっています。この2公演では、『人間を被る』c/w曲の「Ash」のリメイク版が初披露されました。

8月2日から9月15日にかけて、「TOUR18 WEARING HUMAN SKIN」が開催されました。『The Insulated World』リリース直前の時期ということもあり、「Ranunculus」「Values of Madness」に加え、「軽蔑と始まり」「Devote My Life」、さらには「理由」のリメイク版が先行披露されました。

そして9月26日、10thアルバム『The Insulated World』がリリースされました。メロディアスな曲が多く、やや落ち着きも見られた前作の『ARCHE』とは真逆で、ハードコア色全開の尖った作品となっています。

10月6日から19日にかけては、ヨーロッパ各地にて、「TOUR18 WEARING HUMAN SKIN」が開催されました。

12月には、名古屋と大阪のみで「a knot」&ONLINE会員限定公演「TOUR18 FOLLOWERS」も実施。ツアータイトルにもなっている「Followers」の他、「鬼眼」「THE DEEPER VILENESS」のリメイクも初披露され、2018年を締めくくりました。

2019年

年明けの1月13日、所属事務所であるFree-Will主催の「Free-Will SLUM」に参加。事務所の筆頭バンドとして、初日の大トリを務めました。セトリは代表曲で固められており、バンドとしての一つのあるべき姿を後輩たちに示したライブになったのではないかと思います。

3月15日から4月26日にかけて、「TOUR19 The Insulated World」を開催。ツアータイトル通り、『The Insulated World』を引っ下げたツアーで、「絶縁体」以外の全ての曲がセトリ入りしています。作品自体がスピード感溢れる作風であったこともあり、20年以上のキャリアを持つバンドとは思えないくらい、勢いのあるツアーでした。

8月7日、ライブ映像集『FROM DEPRESSION TO ________ [mode of 16-17]』をリリース。2016年から17年にかけての過去アルバムツアーからピックアップしたライブ映像集となっています。

9月15日から11月20日にかけて国内にて、「TOUR19 This Way to Self-Destruction」を開催。前ツアーで演奏されなかった「絶縁体」と、ツアーの合間にリリースされる「The World of Mercy」も含め、『The Insulated World』の世界観を余すことなく表現するツアーとなりました。この2曲が入るだけで空気感がガラッと変わり、勢いに加えて濃厚な世界観が繰り広げられるツアーだったと思います。

9月18日、30thシングル『The World of Mercy』をリリース。『The Insulated World』の世界観を締めくくる曲としてリリースしており、1stシングル『アクロの丘』以来の長尺曲のシングルとなります。メッセージ性の強い『The Insulated World』ですが、そこから一つの結論を見出したような世界観になっています。

12月5日から19日にかけては北アメリカにて、「TOUR19 This Way to Self-Destruction」が開催されました。国内でのツアーと同様、『The Insulated World』の世界観を余すことなく表現するツアーとなり、2019年の活動を終えます。

2020年

1月25日から2月8日にかけて、今度はヨーロッパにて、「TOUR20 This Way to Self-Destruction」が開催されました。

1月29日には、BUCK-TICKのトリビュートアルバムである『PARADE III 〜RESPECTIVE TRACKS OF BUCK-TICK〜』に「NATIONAL MEDIA BOYS」のカバーを提供します。この曲の感想については次回に回します。

2月頃から、新型コロナウィルスの脅威が世界的に広まっていき、ステイホームという風潮のもと、アーティストがライブ活動の停止を余儀なくされる状況となります。当時、3月27日より開催を予定されていた「TOUR20 疎外」は全公演中止という事態となりました。

メンバーとしてもこのままじっとしてはいられないと思ったのか、3月28日、当初ライブを予定していたKT Zepp Yokohamaにて、無観客ライブ「The World You Live In」を行いました。当公演は無料で生配信されましたが、無観客であっても普段と変わることのない、狂気的なライブパフォーマンスを行うメンバーたちに感銘を受けた虜たちも多かったのではないでしょうか。私も当時この配信を見ていましたが、このバンドのファンで良かったと思えるほどに、素晴らしいライブだったと思います。

コロナ禍が続く中、GW中にはYoutubeにて、「AUDIO LIVESTREAM 5 DAYS」が企画されました。これは各日、メンバー5人それぞれが作ったセットリストを生配信する企画で、ライブではなかったものの、公式で配信されていたものをリアルタイムで聴くというのはなかなかレアな体験でした。当時、SNSを見て他の虜さんたちのコメントを見ながら聴くのが楽しかったです。メンバーそれぞれのカラーの出たセットリストで興味深い内容でした。

7月23日・24日。本来はぴあアリーナMMにて、「The Insulated World -The Screams of Alienation-」と銘打たれた、『The Insulated World』の一連のツアーの完結ライブが開催される予定でしたが、コロナ禍により中止となりました。代わりに、同日程にて各公演のセットリストの楽曲プレイリストをYouTubeにて「AUDIO LIVESTREAM」形式でプレミア公開されるという企画が行われました。このセトリが本来予定されていたものだとすれば、『The Insulated World』全曲に加え、各アルバムの核となるような楽曲で構成されていた集大成的なライブにするつもりだったことが推察されます。このライブの振替公演は行われず、結果的に『The Insulated World』のツアーは、完結ライブが行われることなく終わりを迎えることとなりました。


以上、ベストアルバムのリリースを経て、心機一転、新たなスタートを切り、さらなる勢いに乗っていたDIR EN GREYでしたが、そこから始まった流れは、残念ながらコロナ禍という未曾有の事態により、メンバーにとってもファンにとっても不本意な形で幕を閉じることとなりました。以下では、20周年の活動がひと段落し、さらなる尖りを見せていたこの時期の楽曲の感想を書いていきたいと思います。


人間を被る(2018.4.25)

29thシングル。c/wはインディーズ時代の楽曲「Ash」のリメイクと、2017年10月12日、 Zepp Tokyoのライブにて演奏された「詩踏み」のライブ音源です。表題曲は「TOUR18 真世界」にて、リリース前に先行披露されています。ミキシングは表題曲「人間を被る」をONE OK ROCKなどの楽曲を手掛けるダン・ランカスター、「Ash」をベストアルバム『VESTIGE OF SCRATCHES』の再録曲「THE IIID EMPIRE」を手掛けたジェイ・ラストンが担当し、全曲のマスタリングをマイケル・ジャクソンやマドンナなどを手掛けたブライアン・ガードナーが担当しています。初週で13,913枚を売り上げ、オリコン週間シングルチャートでは5位を獲得しています。

1 人間を被る

機械的な音像とは裏腹に歌詩のメッセージ性が強いミドル曲。初聴のときはシングルらしからぬメロディだなという印象でしたが、聴き慣れてくるとかなりキャッチーでアツい曲です。個人的に、近年のDIRの代表曲だと思います。
シンセの音とDjent的なリフが、曲全体に無機質な機械感を生んでいます。縦ノリ感のあるシャウトのパートからメロディアスなサビ、そこから疾走してまたシャウト、サビと続き、最後はシャウトとメロディが交互に飛んでくるパートと、変則的ながらもドラマチックな展開で、特に終盤はかなりエモいです。
ドラムはかなり複雑で、Shinyaさんは当時、過去最高に難しいと語っていました。手数が多いながらもグルーヴ感があり、非常に聴き応えのあるドラミングです。ベースはギターのリフを下支えしつつ、サビではメロディアスになり、疾走パートではギターとともに独特のコード感のフレーズを奏でています。
ギターはシンプルなリフを主軸としており、耳に残りやすいです。イントロの静かなクリーンギターも印象的で、シンセの音を挟んでリフが始まるのがめちゃくちゃ格好良いんですよね。個人的には、疾走パートの少し外れたコード感と、終盤の泣きのクリーンギターが好きで、とにかく聴きどころが多いです。
ボーカルはガナリ系の声でラップのようなグルーヴィなシャウトをしており、サビでも若干声をがならせながら、力強く高音のメロディを歌っています。疾走パートでは、ファルセットの混ざったシャウトという器用な芸当も見せています。終盤の「このまま目が覚めなくてもいい」のメロディが好きです。
歌詩はメッセージ性が強く、「誰が正しいとかどうでもいい」「誰の為に生きる?」というストレートな言葉で、人間社会や他者からの同調圧力に抵抗しています。「Blessing to lose heart」というフレーズからは、人間の殻を被る中で、自分を失っていくことへの皮肉を投げかけているように見えます。
この曲は近年のライブ定番曲で、先日のANDROGYNOSでも演奏されました。ライブではサビで京さんが「誰の為に生きてんだ?自分のためだろ!生きろ!」と叫ぶのが通例で、この言葉に泣いた人も多いのではないでしょうか。非常に盛り上がる曲なので、私はイントロが流れただけでテンションが上がります笑

2 Ash

インディーズ曲のリメイク。なんと4度目のレコーディングで、長年の時を経て、ヘヴィかつスマートに生まれ変わりました。原曲のエッセンスは残したまま無駄なく削ぎ落とされ、円熟した声と演奏で圧倒してくるリメイクの鑑のような曲です。
原曲を踏襲した目まぐるしい曲構成ですが、所々カットされ、やや冗長気味だった原曲と比較してかなりコンパクトになりました。また、ギターのキーが1オク下がり、分厚くて迫力のあるサウンドに変貌しています。また、サビの後半やギターソロの前半がスローになったり、起伏のある構成になりました。
ドラムは軽快だった原曲から一転、太く低い音になり、スピード感も健在で、迫力が桁違いになりました。サビの後半では浮遊感のあるフレーズになり、歌を際立たせています。ベースは4弦ピック弾きで、忙しく動き回って曲をリードしています。終盤の疾走パートで徐々に高くなっていくのが良い感じです。
ギターは7弦でリフが1オク下になり、音圧が凄まじいことになってますが、全体的に原曲のニュアンスを再現しています。ギターソロは2000年版のフレーズに忠実ですが、アコギ寄りの音でゆったりいくのかと思いきや、後半で一気に疾走するのがアツいです。「知らず知らず〜」の部分のワウがカッコいいです。
ボーカルは原曲のニュアンスを残しているものの、シャウトもクリーンも倍音増し増しで迫力と色気が凄まじいです。サビの後半はメロディが変わり、高音が美しく響いています。原曲のDメロにあたる部分は、大胆にも歌が消えましたが、心地良いベースラインが聴けるので、これはこれで悪くないです笑
歌詩はほぼ全て書き換えられ、他者に押し付けられる理想への抵抗という、近年の京さんらしい歌詩となりました。なんとなく、SNSでの傷つけ合いみたいなのを想像して書かれたのかな、とか思ったりもします。「雁字搦めの溝鼠も殺す世界」というフレーズが、いかにも京さんという感じがして好きです。
この曲、リメイクで株を上げたのか、25周年の楽曲バトルで6位という好成績を残し、25周年ツアーでもセトリに組み込まれました。とにかくスピード感があってノれる一方、構成の多彩さを楽しめて一石二鳥です。曲終わりに京さんが両拳を顔の前で握るポーズをするのが昔っぽくて良いんですよね笑
「Ash」は全部で4パターンありますが、私が好きなのはダントツで本作です。元々好きな曲だったのですが、無駄に長かったアウトロなど、「少し気になっていた部分」が綺麗に削ぎ落とされ、かつ原曲の良い部分を高次元でアップデートしており、リメイク作としてこの上ない完成度だと思います。


The Insulated World(2018.9.26)

10thアルバム。前作『ARCHE』以来、3年9か月ぶりのオリジナルアルバムとなります。タイトルは「隔離された世界」という意味で、キャッチコピーは<真偽は己の中に在る>です。完全生産限定盤(Blu-spec CD2+特典CD+特典DVDまたはBlu-ray)、初回生産限定盤(CD+特典CD)、通常盤(CDのみ)の3タイプで発売され、完全生産限定盤の特典CDには、リメイク曲である「鬼眼」「THE DEEPER VILENESS」「理由」に加え、2018年6月30日の東京・新木場STUDIO COAST公演より「腐海」「Ash」「Beautiful Dirt」のライブ音源が収録されています。ミキシングはDISC 1は先行シングル「人間を被る」に引き続きダン・ランカスター、DISC 2のリメイク曲はかつて23rdシングル「激しさと、この胸の中で絡み付いた灼熱の闇」を手掛けたイェンス・ボグレンが担当し、全てのマスタリングはブライアン・ガードナーが担当しています。オリコン週間アルバムチャートでは、初週で21,767枚を売り上げ、6位にランクインしました。

0 アルバム総評

前作『ARCHE』は、バンド自身が過去と向き合った上で自分たちの根源を追究した結果、色彩豊かでメロディアスな作風となりました。シングルカットできそうなキャッチーな楽曲も多く、複雑かつ難解だった前々作『DUM SPIRO SPERO』とは対照的な作品でした。反面、ミドルテンポでしっとりした曲が多く、聴きようによっては「ダレる」という感想を抱いた人も少なくなかったのではないかと思います。
その点についてはメンバー自身も課題だと思っていたのか、本作は打って変わってファストな曲の割合が極めて高いアルバムになっています。というか、速い曲の割合で言えば歴代一だと思います。10枚目にしてこの尖りようは、流石としか言いようがありません笑
全体的な印象としては、本作はタイトル通り「世界との絶縁」をコンセプトとしており、今まで以上にメッセージ性の強い作品になっています。よく言われているように、「俺さえ死ねば良い」(軽蔑と始まり)で始まり、「私は生きてる」(Ranunculus)で終わるという形で、アルバム全体で一つの物語を形成しています。この一つのコンセプトを軸に、アルバム制作が行われたと言っても過言ではありません。
まず、アルバムの構成からして意味深で、一言で言えば「序盤から中盤まで飛ばしまくって、終盤で一気に落ち着く」という極端ぶりです。勢い全開の「軽蔑と始まり」から始まり、途中の「赫」でやや落ち着くものの、「Downfall」まではひたすら駆け抜けていきますが、「Followers」以降はスロー〜ミドルテンポの曲で固められているという、見方によっては超絶アンバランスな並びになっています。ただ、この並びこそが、世界に絶望していて荒れ狂っていた主人公が、自分自身という存在に辿り着き、心が浄化されるまでの物語を描いているようにも思います。そう考えて聴いてみるとなかなか面白い並びになっているのではないでしょうか。
音楽ジャンルで言えば、『UROBOROS』以降、メタル寄りの曲が多かったのに対して、本作はハードコアやパンク的なアプローチの曲が多いですね。当然、制作にあたっては緻密な計算が重ねられていると思いますが、仕上がりとしては、勢い良くリフで押していくような曲が多く、構成美という観点は以前ほど重視されていないような印象です。引き算を意識した曲作りは『ARCHE』の頃から行われていましたが、本作ではその部分がさらに強化されています。本当の意味で、『DUM SPIRO SPERO』期の制作スタイルからの脱却を果たせたのはこの作品なのではないかと考えています。その影響は速い曲だけでなく、歌モノである「赫」「Followers」「Ranunculus」や久々の長尺曲である「絶縁体」にも表れており、キチッと音を重ねて構成を練り込むというよりは、あえて粗削り感を残しているような気もしますね。
また、一見偏りがあるように見えますが、一曲一曲紐解いていくと意外とバラエティ豊かというか、過去のいろんな時代を彷彿させるような楽曲が揃っています。その意味では、『ARCHE』に始まった、過去との対峙というコンセプトは本作でも継続されており、むしろ『ARCHE』の激しい版みたいな捉え方もできなくはないかなとも思っています。
サウンド面ですが、ミキシング担当については、『DUM SPIRO SPERO』期以降、ずっとミックスを担当していたTue Madsenではなく、「人間を被る」のミックスを担当したダン・ランカスターに変更されました。Tueのミックスはクリアで分離の良い、正統に「良い音」という感じでしたが、ダンのミックスは低〜中音が強調されており、特にギターの音がややこもった感じの音になっています。その意味では若干「癖のある」音なのですが、あえてこのような音にすることで、曲の粗削り感を演出しているようにも思います。多分Tueが続投されてたら、もう少し小綺麗にまとまっていたような気もしますね。それはそれで聴いてみたいですが笑
各楽器についても解説します。まずドラムは、『ARCHE』の段階ではまだ、曲によってはクリック音がある前提でフレーズが組まれているような感じでしたが、本作はその点を完全に脱却し、よりバンド感のあるリズムになったように思います。ただ、決して単純化したわけではなく、「人間を被る」「Celebrate Empty Howls」などでは相変わらず複雑なドラミングを見せていますし、グルーヴ感を大事にした上で、テクニカルなことをやっています。
ベースは『ARCHE』に引き続き、ギターのリフを下支えするようなフレーズが多いですが、ミックスが変わったことによってかなり太い音になり、曲全体の厚みを生み出しています。「谿壑の欲」では振動音が伝わるほどヘヴィな音を出している他、「赫」では妖しいうねりを見せていますね。
ギターは前述の通り、こもった感じの音像になり、「軽蔑と始まり」「Rubbish Heap」「Downfall」など、リフでガンガン攻める曲が多いですね。「赫」や「絶縁体」といった歌モノ曲でも野太い低音が響いています。一方、「Devote My Life」のように、近年には見られなかったようなアプローチの曲もあり、やはり一筋縄という訳ではありません。ギターソロの割合はかなり減りましたが、「赫」や「Followers」、「絶縁体」では、いずれも美麗でドラマチックなフレーズを弾いており、耳に残ります。
ボーカルはシャウトの割合がかなり増えていますが、以前のようなデスボイス的な叫び方とはアプローチが変わっており、「ガナリ」「喚き」系のシャウトが中心になったように思います。いわゆる「〇〇ボイス」というような分かりやすく分類できるような声ではなく、地声を上手く活かしたような叫び方になっていますね。それゆえに、たまに顔を出すグロウルやホイッスルがより一層際立っているように思います。また、それに釣られてか、クリーンボイスも若干荒々しくなっており、その意味でもパンク感が強くなっている気もしますね。でも相変わらずレンジの広い声を出しており、やはり多彩な印象です。
歌詩については、かなりストレートになりました。以前京さんが語っていたのですが、本作は歌詩から書いてそれに合わせて作られた曲も多いそうで、いかに歌詩が重要な役割を果たしているかが分かります。内容は一貫していますが、序盤の曲ほど、「自分も世界も消えてしまえば良い」という感じで、終盤に近づくほど「偽善的な世界とは決別して自分自身を生きる」というメッセージ性が強くなっている印象です。「生」に対する力強いメッセージが込められた「Ranunculus」を始め、印象的なフレーズが多く、京さんの考え方が分かりやすく表現されているので、どの曲も一読の価値ありだと思います。
そんな感じで、歴代アルバムの中でもかなり極端な部分が目立つ作品ですが、DIR EN GREYが表現したい「痛み」をある意味最も端的に示したアルバムでもあると思うので、バンドのスタンスを理解する上では非常に良い作品ではないかと思います。一見ネガティブですが、主義主張が一貫してるからか、「堂々とした」ネガティブさを感じるので、個人的には聴いているとむしろ生きる力をもらえるような作品ですね。

Disc1

1 軽蔑と始まり

とにかく激しくファストなハードコア曲。一曲目からここまで疾走する曲はかつてなかったと思います。シンプルなリフとシャウトでガンガン攻めるだけでなく、自暴自棄な歌詩で世界との断絶を歌う、ある意味アルバムを象徴する楽曲です。
最初っから飛ばしており、途中遅くなる部分はあるものの、基本的にずっと速いです。構成は意外と入り組んでいて、1サビに入るまでにいろんなパターンのシャウトのパートがあったり、その後独特の民族チックなパートを経て、また様々なパターンのシャウトを経てラスサビに入るという構成です。
ドラムは曲の大半をバックビートで疾走していますが、よく聴くと細部で手が込んでますね。イントロのドタバタ感が良い味出している他、1サビ後の民族パートでのタム回しにShinya節を感じます。ベースは基本的にギターのリフを下支えしていますが、民族パートでは野性味溢れるうねりを見せています。
ギターはひたすらユニゾンリフで攻める感じですね。本作特有の籠もった低音が、まるで鈍器のごとく音の塊をぶつけてきます。フレーズはこの手の曲としては少しベタな感じというか、やや古臭さがありますが、この無骨な感じが曲のイメージとマッチしています。ここまで攻めに特化した曲も珍しいです。
ボーカルはサビの1フレーズ以外は全てシャウトです。もはや「〇〇ボイス」みたいな分類もできないくらいにいろんな声で吐き捨てるように叫んでいますが、時折入れてくるグロウルが迫力ありますね。サビの「俺さえ死ねばいい」は高音のクリーンボイスで歌っていますが、かなり荒々しい声質です。
歌詩は「笑え そして見下せ」「俺さえ死ねばいい」と、自虐ワード連発なんですが、曲と併せて読んでみると、なぜか堂々としているようにも感じるんですよね。言葉の一つ一つに、アルバムのテーマである「世界との断絶」に対する、ある種の覚悟を感じます。「さあ祝えよ 傷に」という言葉からは求心力すら感じますね。
ライブでは「TOUR22 PHALARIS -Vol.I-」で演奏されていましたが、本作の一連のツアーが終わるとともにセトリにあまり入らなくなりました。「TOUR16-17 FROM DEPRESSION TO ________ [mode of DUM SPIRO SPERO]」で先行披露され、正直なところ当時は印象に残りにくかったですが、音源化されてかなり化けたと思います。とにかく頭が振れて楽しいので、もっとライブで聴きたいです。

2 Devote My Life

Toshiyaさん原曲。ミドルテンポのドラムロールと、サイレンのようなギターのリフが特徴的なハードコア曲。近年のDIRにしては珍しいアプローチで、少ない音数で激しさを表現しています。ほんの少し『MISSA』の頃のような怪しさも感じますね。
前曲とはテンポ感は違えど、全編に渡って存在する無骨な暴力性は共通しています。パンキッシュなドラムロールの上でシャウトが暴れるパート、グロウルでどっしりと攻めるパート、「残酷な」という歌詩をひたすら繰り返すパートの3つを2回繰り返すというシンプルな構成でコンパクトにまとまっています。
ドラムはイントロから続くロールのフレーズが印象的ですね。DIRとしては珍しい感じがしますが、分厚めのミックスと相俟って、叩きつけるスネアの音が非常に冷徹に聴こえます。ベースはギターの音が少ない分目立っており、全編に渡って曲をリードしています。グロウルパートのフレーズが格好良いです。
ギターは近年の曲にしては珍しく、高めの音が多用されており、あまり重ねられてもいません。サイレンのような高音のハモリが特徴的で、不協和音が怪しさ満点です。グロウルのパートではヘヴィな音も出していますが、他の部分ではまるで初期のような鋭利な音を出しており、少し懐かしい感じもします。
ボーカルは全編シャウトですが、「価値が欲しい」のグロウルを除けば、高めの声で泣き叫ぶようなスクリームを多用しています。1:27の「言葉なのか」の部分のホイッスルはエフェクトかけてるのか、人間離れした声になっていますね笑 「残酷な」は少し初期のシャウトっぽい、鋭利な声で叫んでいます。
歌詩は珍しく、親への懺悔が描かれています。「自分が害悪なのは親のせいではなく、そもそも生まれてきた事自体が間違っていた」というメッセージですが、その考え方自体、親にとって「残酷」であるというのが皮肉です。ただ、それでも自分であり続けることに妥協はしないという姿勢も感じ取れます。
この曲、本作の一連のツアーが終わってからも頻繁に演奏されており、実はシングル2曲と「Ranunculus」を除いてアルバム最多の演奏回数です。直近では「TOUR23 PHALARIS -Vol.II-」で演奏されています。「残酷な」を皆で叫ぶのが楽しく、非常に盛り上がる曲です。「loved you」で京さんが半分のハートマークを作るのもポイント笑

3 人間を被る

29thシングル。アルバム収録にあたり、ミキシングの改変と、ボーカルの一部録り直しが行われ、よりパワフルに生まれ変わりました。前2曲と比較すると、キャッチーさが際立っており、シングル曲としての風格が滲み出ているように思います。
サウンド的には、歪みがより強化されたように思います。心なしか全体的に楽器のパンが中央に近づいた感じがしますね。この改変によって、迫力は増していますが、分離に関してはシングル版の方が良かったかもしれません。ここは好みですね。
ボーカルについては、自分が聴き取れる範囲では最初のシャウトのパートと、「Blessing to lose heart」の部分が録り直されています。特に後者は、テクニカルに叫んでいたシングル版とは異なり、荒々しく叫んでおり、よりライブ感が増していますね。他のアルバム曲のシャウトの手法と合わせた形になったのかと思います。
シングル版のバランスの良さも悪くはないですが、個人的にはアルバム版の方が力強く、より完成形感があって好きですね。基本的にこの曲を聴くときは、アルバム版を再生しています。

4 Celebrate Empty Howls

変拍子が特徴的な妖しいハードコア曲。「慟哭と去りぬ」と「滴る朦朧」を混ぜて、スピード感を持たせたような、つまりは変態枠です笑 リズム、リフ、構成、ボーカルの全てが変則的ですが、メッセージはこのアルバムらしく痛烈でストレートです。
音はハードコア色が強いものの、曲全体に不気味で妖艶な雰囲気が漂っています。曲の構成も複雑で、リフのパートとワルツのリズムのパート、疾走パートを繰り返しながら、真ん中に静かなサビが一回だけあるという変則的なものです。なんというか、DIRの曲の中でも全体感が説明しにくい曲ですね笑
ドラムはリズムパターンを目まぐるしく変えていますが、原始感のあるタム回しを駆使しながら6/8拍子のフレーズを叩いています。「無駄に」の部分の太鼓は打込みらしいですね。ベースはやや引っ込ませており、ギターのリフを下支えしています。サビではおどろおどろしい低音を静かに響かせています。
ギターは終始低音で数種類のリフをローテーションで回してます。いずれもあまりDIRで聴かないようなフレーズですが、この妖しい感じが絶妙に耳に残ります。ボーカルのメロディが少ない分、ギターがメロディ役を担っているような感じです。サビの部分でずっと歪んだギターが鳴ってるのが不気味ですね。
ボーカルは多彩ですが、シャウト寸前のようなダミ声を多用しています。歌詩の詰め込み方が独特で、譜割りを覚えるのが難しいです。「無駄に吠えるだけ」やサビの裏では妖艶なファルセットを使用しています。サビは正統派にクリーンボイスの高音を聴かせてきますが、直後のグロウルが重くて良いですね。
歌詩は世界に押し潰される空虚感を描いているように思います。世の中に希望を持って生きている人への懐疑から、自分と他人は生きている世界が違うという考えに至り、そして「どちらも正解ではないし どちらも死んでしまえばいい」という破滅的な思考で締めています。個人的に結構好きな歌詩です。
ライブでは昨年の「TOUR22 PHALARIS -Vol.I-」で演奏されております。なんとも不遇な扱いで、『The Insulated World]』期のライブ映像はリリースされておらず、この『PHALARIS』ツアーの映像化にあたり、初めて収録されました。複雑な曲ですが、リズムが軽やかなので、意外とノれる曲です。サビの後半がセリフになるのが定番ですね。
ちなみに今のところ、本作ではこの曲だけカラオケ音源がありません。というか、オリジナル曲だけで言えば、カラオケ音源がないの、「Deity」とこの曲だけなんですよね。「Deity」は歌詩の言語的にまだ分からなくはないですが、こっちは早くカラオケで歌えるようにしてほしいですね…笑

5 詩踏み

28thシングル。アルバム収録にあたり、ミキシングの改変及びボーカルの録り直しが行われ、シングル版とはガラッと印象が変わっています。シングル版のクリアなサウンドと比べるとかなりモッサリした音になり、ボーカルはより凶悪になりました。
ミキシングの改変により、各楽器の聴こえ方はかなり変わりました。ドラムは音が太くなった分、細かいタム回しの音が聴き取りにくくなり、シングル版ほど反響音もありません。ベースはギターと同化していたシングル版と比べると少し聴こえやすくなったように思います。
ギターはシングル版と比べて中〜低音域が強調されています。また、エコーをあまりかけていないので、全体的にこもった感じの印象ですね。その分、どんなフレーズを弾いているのかは聴き取りやすくなりました。ボーカルのミックスについては、これまたエコーが抑えられていて、曲に溶け込んだ感じです。
ボーカルは録り直され、まるで一発録りかのようにライブ感のあるシャウトを披露しており、シングル版以上に「〇〇ボイス」の垣根がなくなった印象です。全体的に荒々しさが増しており、サビも吐き捨てるような歌い方になりました。ちなみに、サビに「生きてんだろ」というシャウトが追加されています。
ただ、正直この曲はシングル版の方が好きです。最初からこの音だったらそこまで違和感がなかったと思いますが、シングルであれだけ高音質のものを聴かされると、どうしても見劣りしてしまいますね…でもボーカルは狂気を増していて悪くないので、ボーカルだけ録り直しでも良かったと思います。

6 Rubbish Heap

Dieさん原曲。疾走感がありつつも踊れるハードコア曲。「Cause of fickleness」や「鱗」、「Revelation of mankind」など、『ARCHE』の速い曲を1曲に凝縮したらこうなったという印象です。本作の疾走曲の中では軽快なリズム感ですが、歌詩は激重です笑
エレクトロなイントロに始まるところから、曲全体に躍動感を生んでいるように思います。前半は疾走する演奏の上でシャウトが暴れ、中盤でテンポダウンしてヘドバンしやすいリズムに切り替わり、ギターソロを挟んで疾走パートに戻り、最後はメロディアスなサビで終わるという多彩な構成です。
ドラムは疾走パートではバックビートで踊れるリズムを叩いており、躍動感を生んでいます。中盤のテンポダウンする部分では細やかなタム回しを駆使しながら、重たく曲を揺らしています。ベースは、リフをなぞりつつも曲全体に滑らかさを生むような流麗なプレイをしています。サビではコードを弾いて曲を牽引していますね。
ギターはメロディアスなリフが中心で、特に「生きたい 生きたい」の部分の細かく詰めたリフが癖になります。所々入ってくる高音のロングトーンも良いアクセントになってますね。ギターソロは短いですが、Dieさんらしくノイジーに切り込んでいます。全体的に、ボーカル以上にギターが歌ってる印象です。
ボーカルはがなったダミ声を多用していますが、「Fist」はやたら可愛い声で叫んでます笑 中盤はラップのようにシャウトしてますが、「3 2 1 Countdown」のあたりが格好良いです。サビはDIRにしては珍しい、少し爽やかなメロディですが、声を掠れさせながら高音域を歌っており、アツさを感じます。
歌詩は自分の無価値感にやさぐれてる感じですね。他者に「生きたいのは何故」と問うたり、「明日は明るい未来だろ」「尊敬の念を」などと皮肉ったり、攻撃性全開です。唐突な「おきばりやす」などの京都弁は一体…?笑 でもラストは「愛で拭ってほしい」という切なくも淡い期待で終わります。
ライブでは近年も時々演奏されており、昨年の「TOUR23 PHALARIS FINAL -The scent of a peaceful death-」でも聴きました。リフで踊って、「Fist」で叫んで、中盤で頭を振り、サビで歌うなど、完全にライブ向きの曲ですね。ライブでは「生きたい 生きたい 生きたいでしょ?」の譜割りが変わっており、客に指を差しながら問いかけるように歌っています。

7 赫

Dieさん原曲。妖艶な歌声とメロディが光るミドルバラード。ここまで暴力的な楽曲が続いていましたが、ここにきて美しい歌モノ曲です。ただ、本作の曲らしく、サウンドは結構激しいですね。アルバムとしても、この曲から若干流れが変わってくるイメージです。
全体的に『MACABRE』期を彷彿とさせるような耽美で悲哀感のあるサウンドですが、音はディストーションが効いていて重く激しいです。構成はシンプルで、Aメロ2回からサビ、ギターソロを挟んでまたAメロ1回からサビといった感じです。個人的に、ラスサビからアウトロにかけての余韻が好きですね。
ドラムはミドルテンポとはいえ手数が多く、ハイハットやタムを自在に操りながら複雑なプレイを行っています。特にギターソロの部分のドラムは非常に聴き応えがあります。ベースはシブいフレーズで曲を牽引しており、非常に存在感があります。Dieさんの曲はベースが肝となることが多いですね。
ギターはメロの部分ではDieさんのクリーンアルペジオを主体に、薫さんが単音でアクセントをつけています。クリーンが初期のV系感全開の音作りで懐かしい感じです。一方、サビでは思いっ切り歪んだ音で暴れているのが良いギャップですね。Dieさんのギターソロもなかなかアツいフレーズで格好良いです。
ボーカルは全編クリーンで、吐息混じりの歌声が艶めかしいです。ファルセットも駆使しながら、美しいメロディを情熱的に歌い上げています。特に「私を守ってくれるの?」の部分の高音の耳障りがたまりません。sukekiyoっぽいとの評判もありますが、この轟音と妖艶の融合はDIRならではだと思います。
歌詩は女性目線ですが、他の曲と同様、「生きる価値」をテーマとしています。愛に飢えて自傷や自殺未遂を繰り返してしまうが、その度に自分をどこか許せてしまう。そのうち「尊い命を懸けるほどの世界」なのかも分からなくなり、今も生き長らえている。終わらない苦しみとも希望とも捉えられますね。
ライブでは「THE FINAL DAYS OF STUDIO COAST」以降は演奏されていません。間奏と最後で京さんがシールドで首を吊るようなジェスチャーをするのですが、間奏では未遂に終わり、最後に覚悟を決めてようやく死ねた、みたいな表現なのかなと思います。ちなみに、じっくり聴く曲かと思いきやサビは歌わせてきます笑

8 Values of Madness

Toshiyaさん原曲。軽快なサウンドと爽やかなサビとは裏腹に歌詩が超絶ネガティブな疾走曲です。前作の「Chain repulsion」に近いですが、より自由度が高くなり、声も展開も目まぐるしく変わります。遊び心溢れるボーカリぜーションが面白いです。
全体的に『VULGAR』の速い曲のような、軽快でノれる雰囲気がありつつも、展開が目まぐるしく変わります。おちゃらけたラップのパートやデスコーラスのパート、アニソンのごとくキャッチーなサビ、変な裏声のパート、疾走パート、泣きの大サビなど実に多彩で、非常に充実感のある一曲です。
ドラムは8ビートのリズムを基軸に遅くなったり速くなったりと、様々なリズムパターンを叩いています。Shinyaさんにしては珍しく、あまり捻った感じではなく全体的にストレートなフレーズですね。ベースは基本的にギターに合わせてうねったリフを弾いており、Toshiyaさん原曲の割には大人しめですね。
ギターはニューメタル系のユニゾンリフがメインですが、サビはメジャーコードで駆け抜けており、爽快感がありますね。「惨めたらしい人生〜」のあたりはチョーキングを活かして妙な不協和音を響かせています。「その瞳に入れた俺は〜」の部分のDieさんの泣きのフレーズが個人的なお気に入りです。
ボーカルは、小馬鹿にしたような声でラップしたり、「惨めたらしい人生〜」では裏声で変なビブラートをしたりと、かなり自由度が高いです。反面、サビは力強くキャッチーなメロディを歌っているのが格好良いですね。最後の「自分自身を愛する事も出来ない」と吐き捨てて曲が終わる感じも良いです。
歌詩は徹底的に自己否定しています。「生きてることが最低 そんなことを思いながら 自分自身を愛する事も出来ない」みたいなフレーズをノリノリで歌ってる感じがめちゃくちゃ好きですね。ただ、それでも愛してくれることをどこかで期待していることをサビで歌っており、心なしかメロディも切ないです。
ライブでは今年の「MY BLOODY VAMPIRE」などでも演奏されており、近年でも比較的演奏頻度が高いです。基本的にノリが良い曲なので、やはり盛り上がりますね。「TOUR18 真世界」で初演奏でしたが、当時リリース前だったこともあり、サビの爽やかさがかなり衝撃的で、「JESSICA」みたいだなと思った記憶があります笑

9 Downfall

リフとシャウトがひたすら暴れまわるツタツタ系疾走曲。本作はアルバム全体が暴れてる感じですが、一応この曲がいつものアルバム後半の暴れ曲枠ということで良いと思います。久々にキーがC#の疾走曲ということもあり、所々『UROBOROS』を彷彿させますね。
全体的に激しいものの、動と静がハッキリしており、ひとしきり暴れたら少しテンポダウンしてまた暴れて…を繰り返す構造になっています。歌詩のパターンが少なく、同じ歌詩を度々繰り返すような構造になっています。後半で一度だけサビが来ますが、このサビからの最後の疾走が非常に印象的ですね。
ドラムは速い部分ではツタツタと2ビートで走っていますが、遅い部分はタム回しを駆使しながら縦に揺らしてきます。上り下りを繰り返すジェットコースターのような緩急があります。ベースはこのアルバムでは珍しくギターとは独立したフレーズで大暴れしており、曲のうねりを生み出しています。
ギターは「凱歌、沈黙が眠る頃」や「冷血なりせば」を彷彿させるようなリフで疾走しています。低音と中音を交互に繰り返すような構成となっており、低音はユニゾンしてますが、中音は薫さんとDieさんでハモっています。最初から最後まで低めの音でひたすら攻める感じがアグレッシブです。
ボーカルは8割方叫んでおり、高めの喚き系シャウトを存分に堪能できます。サビでは高音域のメロディを高らかに歌い上げていますが、その直後の「イーヤァー」で「冷血なりせば」のスキャットと同様、最高音のG#5を出しています。個人的に終盤の「答えてんじゃねぇ」のシャウトが格好良いと思います。
歌詩は社会の常識を押し付けてくる他者への怒りを感じますね。「従い吠える意味」「正義面」など、皮肉が効いていますがどちらかと言えば、誰かの正義を借りて自己主張した気になっている人への怒りって感じがします。確かに、そんな人から「まだ間に合う」とか言われても疑いたくもなりますよね笑
ライブでは昨年の「TOUR23 PHALARIS FINAL -The scent of a peaceful death-」でもセトリに組み込まれており、比較的頻度高く演奏されているように思います。緩急がハッキリしているのと、デスコーラスが多いので、ライブだとノリやすい曲です。サビはほとんど客に歌わせてきますが、結構好きなメロディなので、本当は京さんに歌ってほしい…笑

10 Followers

キャッチーなミドルテンポの歌モノ曲。シンセの音が若干の機械感を演出しつつも、シングルカットできそうな聴きやすさがあります。京さんの高音域が光る曲でもあります。どん底みたいな歌詩が多い本作ですが、この曲はファンへの優しさを見せています。
イントロは不気味ですが、それ以外は綺麗で高貴なオーラをまとっています。Aメロ→Bメロ→サビと、序盤は王道の展開ですが、間奏を挟んでCメロ、さらにそこからギターソロに入ってAメロ→Bメロ→大サビと、独特な間奏の挟み方で中盤を盛り上げます。アウトロは不穏な空気を残して次の曲に繋がります。
ドラムはサビ以外は浮遊感のあるフレーズを叩いていますが、サビに入ると躍動的になります。ゆったりとしたテンポ感で叩くタム回しが優雅ですね。ベースはギターの音が高い分、しっかり低域を担っています。ドラムと波長を合わせながら、メロディアスに曲の流れを牽引しています。
ギターは近年のDIRとしては珍しく高めの音を多用しており、まるで初期のような雰囲気がありますね。16分のリズムで中音域を連発している他、クリーンギターも要所要所で使用されており、切なさを演出しております。ギターソロは悠々とした雰囲気があり、天に昇っていくようなカタルシスがあります。
ボーカルは全編クリーンボイスで、歌一本で勝負してます。低音から高音まで音域が広く、特に大サビではG#5まで、力強く出しています。「それが私、これが私」で高らかに歌い上げた後にギターソロに流れ込む展開が美しいですね。個人的に、「そのままの美しい君で〜」の部分の声の抜け方が好きです。
歌詩はファンに向けたものとなっており、非常に暖かみがあります。醜いものを受け容れない残酷な世界でも、せめてこの場所では、そのままの醜いお前たちを受け容れてやるという優しさを感じますね。「縫い合わせた醜い心をそのままの美しい君でいいから」なんて詩をまさか京さんが書くとは…笑
ライブでは今年の年明けの「PSYCHONNECT」で演奏されていますが、本作のツアー終了以来、かなり久々の演奏だったようですね。アンコール一発目で演奏されている印象があり、場の一体感を作るのにうってつけの曲だと思います。アウトロで皆で無言で手を上げるのがなんとなく印象に残っています。
ちなみに京さんは過去にファンのことを「Followers」と呼んだツイートを投稿したこともありますが、やはり「虜」の呼称が根強く、あまり浸透しませんでしたね。そう考えると、先日の「ANDROGYNOS」で京さんが「虜」というワードを口に出していたの、ちょっと感慨深いですね笑

11 谿壑の欲

ローテンポで重低音がずっしりと響く、ドゥーミーなヘヴィロック…かと思いきや急にハードコアな疾走パートに切り替わるカオスな曲です。『UROBOROS』『DUM SPIRO SPERO』あたりの重苦しさもありつつ、『ARCHE』のアンビエントな雰囲気も混ぜ込まれ、不気味な神秘性があります。
全体的に陰鬱な雰囲気を漂わせながら、淡々と曲が進んでいきますが、途中で2回、急激な疾走パートがねじ込まれています。この無理やり感がちょっとシュールな感じもしますね。スローパートは浮遊感がありますが、疾走パートは「冷血なりせば」にも似た暴力的なサウンドで殴りかかってきます。
ドラムは、スローパートでは余計な音を出さず、少ない音で反響が目立っており、空間を感じますね。一方、疾走パートでは、激しいドラミングを見せています。ベースはスローパートではかなり歪んだ音で一小節1,2音くらいのテンポ感で弾いており、身体の内側から響くほどの重圧感を演出しています。
ギターはスローパートでは湿った感じのクリーントーンが鬱々しさを演出していますが、疾走パートの直前くらいから急にヘヴィな音になり、疾走パートでは激しいリフで殴ってきます。この急にヘヴィになる瞬間がエグい音してて癖になります。終盤の薫さんのクリーンのメロディが儚くて良いですね。
ボーカルはパートによって声を使い分けています。スローパートは脱力した歌声で静かに歌っており、「血溜まりの中 眼を覚まし」の冷やかな感じが良いですね。個人的にサビのメロディが曲の浮遊感に合ってて好きです。疾走パートではいろんな声で叫んでますが、特に重たいグロウルが身体に響きます。
歌詩は本作の中ではやや難解な言葉で表現されていますが、メッセージは一貫していると思います。自分の内側で抱えている醜く底のない欲を抑えつけて、善人面で生きることに何の意味があるのか?という問いを言い聞かせているような感じがしますね。曲調と相俟って、内心で渦巻く狂気を感じます。
ライブでは、昨年の「TOUR23 PHALARIS FINAL -The scent of a peaceful death-」でセトリ入りしていました。本作のツアーでは一曲目に演奏されることも少なくなく、ジワジワと溜まっているライブ欲を掻き立てられるような感覚がありました。歌詩の最後の「」の部分は、ライブでは「早く死ね」と叫んでいます。「善人面」に対する怒りなのでしょうか。

12 絶縁体

激しくも儚さ漂う長尺曲。自分と世界、その2つの間でもがき、葛藤しながら1つの決意に辿り着くまでの詩世界をそのまま音にしたような物語性があります。ドラマチックな展開と情感のこもったサウンドが、リスナーを深い内省の世界に閉じ込めてくる名曲です。
全体的に90年代的な耽美な古めかしさのある音で、ドラマチックに展開していきます。序盤はしっかり歌を聴かせてきますが、中盤では疾走して、情熱的なギターソロに繋がっていきます。一瞬演奏が止まったかと思えば突如大サビに入り、最後に再び疾走して狂い果ててから静かに幕を閉じるという構成です。
ドラムは例の「OBSCUREリズム」を基調としつつ、躍動的なタム回しや、2ビートでの疾走など、多彩なプレイを行っています。ミックスの影響もあり音が良い意味で古く聴こえます。ベースは緩やかに曲を牽引しており、メロやサビで存在感を放っています。「誰でもいい〜」の部分ではかなり歪んだ音を出してますね。
ギターは低音のリフを主軸に様々なアプローチで構成されています。特にクリーンギターがまさに90年代V系の音という感じで良い味を出しています。ギターソロも非常にドラマチックで、ワウを使って激しく跳ねてからの情熱的なメロディは、何かの終わりに向かっていくような雰囲気を漂わせています。
ボーカルは曲の雰囲気に合わせたのか、特に低音部分の歌い方が少し初期っぽいんですよね。悲劇性を感じるメロディですが、艷やかな声で歌い上げています。疾走パートは、シャウト手前のガナリ系の声で歌っていますが、正直、ここはもう少しガッツリ叫んでも良かったんじゃないかというのが本音です。
歌詩は世界との断絶の決意が描かれています。個人的に「この世界見えなければ自分のままでいれる」はめっちゃ共感してしまいます… 大サビの「俺は俺で 何の価値も無い孤独を売る」が京さんの覚悟が決まっていて好きなフレーズです。まさに京さんの思想が体現された歌詩だと思います。
ライブでは2021年の「疎外」を最後に演奏されておらず、レアな曲です。「信じること そうそれだけだ」の掛け合いなど、盛り上がる部分もありますが、閉塞的な世界観に引き込んでくる生音の重みが癖になります。バックの映像は本作の他の曲の映像を混ぜたものであり、アルバムの総括的な立ち位置として扱われているように思います。

13 Ranunculus

本作の最後を飾るバラード曲。近年のDIRの曲の中でも非常に人気が高い曲で、優しいメロディと生命力溢れるサウンド、何よりメッセージ性の強い歌詩が特徴的です。世界との絶縁の先に辿り着いた自分自身という存在を気高く謳い上げる、屈指の名曲です。
全体的に映画のエンドロールのような余韻を感じる雰囲気があります。基本的には浮遊感があって落ち着いたサウンドですが、サビは結構激しいです。Aメロ→Bメロ→サビと王道展開で進んでいく中、ラスサビ前後にはピアノとストリングスをバックに高らかにタイトルを歌い上げるパートがあります。
ドラムは1回目のAメロまでは打込みという珍しい構成で、演奏が始まってからは緩やかかつ力強いドラミングが聴けます。1サビ終わりのやや入り組んだフレーズが格好良いですね。ベースは1回目のAメロから打込み音に混ざって登場しますが、どっしりとしたフレーズで曲の浮遊感を生み出しています。
ギターはメロではクリーン、サビではディストーションを基調としています。クリーンは「絶縁体」に引き続き、やや古めかしい音です。サビはアルバム全体で見てもかなり分厚い音で、カタルシスを誘発する盛り上がりを見せています。細かいですが、1サビ終わり直後の低音ブリッジミュートが良い味出してますね。
ボーカルは全編クリーンボイスで、丁寧に歌っています。低音部分は吐息が漏れるような艶やかな声が魅力的な一方、サビは高音域でピッチの上下が激しいですが、ブレることなく厚みのある声で歌い上げています。ラストの「Ranunculus」、ファルセット3回からの地声高音の解放感が心地良いですね。
歌詩は自分自身を生きることを称揚しています。「自分自身を押さえ付けて生きてきたのは 上手く生きる為なんかじゃない」は本当にそうなんですよね。上手く生きられるほど器用じゃないから、そうしないと世界の抑圧から自分を守れないからなんだと思います。でも、そこを超えた先に未来がある。
「憎む為じゃないだろ? 誰かの為に今日も笑うの? 叫び生きろ 私は生きてる」
自分自身を生きることで、他者や世界への憎しみからも解放されるかもしれない。個人的に、この曲の歌詩は全曲通しても1,2争うくらい好きで、今でもじっくり読んでると涙腺が緩むので、普段は極力読み込まないようにしてます笑
ライブでは本作の一連のツアー以降、しばらく封印されていましたが、今年に入って「TOUR24 PSYCHONNECT」や「ANDROGYNOS」で演奏されています。ライブでは京さんが声を荒げながら歌うことも多く、それがまた涙腺にくるんですよね。初めて聴いたときはリリース前だったんですが、スクリーンの歌詩を読んで泣きましたね…


Disc 2 (完全生産限定版)

1 鬼眼

3rdアルバム『鬼葬』収録曲のリメイク。原曲の構成はそのままに、削ぎ落とされたサウンドとパワフルなボーカリゼーションで生まれ変わりました。和製ホラー感の強い原曲と比べると、機械的でデジタルな雰囲気が強化されているような印象です。
近年の他のリメイク曲と同様、基本的には原曲を今の音で録り直したような感じですが、本作は特に、原曲から雰囲気がガラッと変わったように思います。原曲にあったドロドロ感・ガチャガチャ感は薄れ、スタイリッシュになった他、テンポが少し上がり、原曲以上に前のめりなアグレッシブさを感じます。
ドラムのフレーズ自体は大きな変化を感じませんが、和太鼓のような存在感のあった原曲と比べるとしなやかな音になり、テンポアップも相俟ってスピード感がありますね。ベースは原曲ではギター並に歪んだ音で掻き乱していましたが、本作はやや落ち着いた感じで、流れるようなグルーヴを生んでいます。
ギターはドロドロした原曲と比べると、ゲーム音楽に通ずるような電子的なエフェクトが施されており、スタイリッシュになっています。原曲よりも低域が強調され、サビのリフがよりアグレッシブになった一方、原曲にあった飛び跳ねパートのギターソロがなくなり、低音のユニゾンリフで暴れています。
ボーカルはネットリ感満載だった原曲と比べると、クリーンボイスはかなり軽やかになりました。またサビが全てシャウトに変わり、曲のスピード感も相俟ってパワフルになった他、声の使い分けも多彩で表情豊かになりました。また、細かい部分で歌を抜いていて「間」を上手く活かしています。
歌詩は原曲のままです。ライブでは折角リメイクされたのにあまり演奏されておらず、先日の「ANDROGYNOS」で5年ぶりの演奏となります。スタジオ音源だとガラッと雰囲気が変わっていますが、ライブだとそこまで変化を感じませんね。どちらかと言えば、ライブでのアレンジを音源化したようなイメージです。
この曲に関しては、原曲のドロドロした雰囲気の方が、曲のイメージと合ってて良いと思いますが、本作も悪くはない、くらいの印象です。本作の方が速いので爽快感はありますが、原曲の良い意味での気持ち悪さが薄れたのと、飛び跳ねパートのギターソロがなくなったのが少し残念です。

2 THE DEEPER VILENESS

6thアルバム『THE MARROW OF A BONE』収録曲のリメイク。分厚いサウンドと多彩なボーカルでアップデートされています。『The Insulated World』本編の収録曲にも似た雰囲気のある暴れ曲ですが、原曲と比べると洗練された感じもします。実は歌詩も本編の曲っぽいです。
おどろおどろしいイントロが追加され、テンポが少し速くなった以外は原曲に忠実ですが、荒々しい音と声で表現されていた原曲と比べると、サウンドが少し柔らかくなったと思います。原曲は本能のままに暴れている感じですが、本作は緻密に計算された上で狂気が演出されているように思います。
ドラムは原曲では金属感のある生々しい音でしたが、本作ではチューニングが下がり、ふくよかな打撃音で重たく疾走しています。ベースは原曲も本作もやや他の楽器に埋もれ気味ではありますが、本作の方が滑らかな感じがしますね。よく聴くとバキバキした音が聴こえるのも本作ならではです。
ギターはイントロに厳ついフレーズが追加された他は原曲に忠実です。特にDieさんのカッティングを聴き比べると分かりますが、かなり低域が強調されており、それによって原曲からかなり音像が変わっています。アウトロは原曲よりも短くなっており、余韻を残すような終わり方をしています。
ボーカルは狂気のままに叫び倒していた原曲と比べると、ニュアンスは残しつつもテクニカルに多彩な声で叫んでいます。当時なかったグロウルや、序盤の喚きシャウト、「By tomorrow 〜」のガナリシャウトあたりがお気に入りです。ラスサビはクリーンボイスに変わっており、美麗な高音が際立っています。
歌詩は原曲のままですが、偽善的な他者との断絶をテーマにしており、『The Insulated World』本編にも通ずる内容になっています。ライブでは、2022年の「THE FINAL DAYS OF STUDIO COAST」以来演奏されていませんが、この曲はライブだと原曲とほぼ変わらずめちゃくちゃノれる曲なので、もっと聴いてみたい気持ちがありますね。
原曲との比較ですが、個人的には甲乙付けがたいですね…原曲の方が狂気的で迫力はありますが、本作の洗練された感じも完成度が高くて良いと思います。他の『THE MARROW OF A BONE』の曲も、こんな感じの音像で録り直してくれたら面白くなるような気がしますね… 「AGITATED SCREAMS OF MAGGOTS」とか「GRIEF」とか笑

3 理由

2ndアルバム『MACABRE』収録曲のリメイク。原曲のキャッチーさはそのままに、より重く、より激しいサウンドにアップデートされています。本作のリメイク曲では最も変化の大きい曲で、円熟した京さんの歌声と泣きのサウンドが曲を艷やかに彩っています。
曲構成は原曲を踏襲していますが、ギターソロの部分が大幅に変わっており、原曲よりも起伏のある展開になっています。また、アウトロの部分に歌詩とメロディが追加されています。全体的に音の厚みが原曲から大幅に強化されており、メロディアスでありつつもゴリゴリにヘヴィなサウンドになりました。
ドラムは比較的原曲に近い音ですが、やはり低域が強調されており、テンポも少し速くなっています。ギターソロの後半でテンポダウンしますが、いかにも近年のDIRって感じの起伏を生み出しています。ベースは原曲よりも控えめになり、存在感よりは曲全体の流れの良さを優先しているように思います。
ギターは7弦になったことで音の迫力が倍増しました。Bメロでは歌に絡みつくようなDieさんの高音フレーズが艷やかで、アウトロでは薫さんの弾く単音フレーズが走馬灯のように美しく舞っています。ギターソロは「伸び」を意識したようなフレーズに変更され、原曲よりも浮遊感と余韻を感じさせますね。
ボーカルは非常に色気のある歌声になりましたが、脱力したり喉を締めたりするポイントは原曲を踏襲しており、まさに正当進化と言えます。「忘れようとした〜」が1オク上がってたり、ラスサビのメロディが一部変更されていますが、何よりアウトロに追加されたメロディが良い味出してます。
歌詩は一人称が「僕」から「俺」になった他、アウトロで「後悔なんてしてない」「惨めに後悔を愛するよりはましだろ?」などのフレーズが追加されており、死んだ主人公が自殺のことを回想している想定なのかもしれません。「後悔に縛られるくらいなら動け」という京さんの思想も含まれてるような…笑
ライブでは2022年の「25th Anniversary TOUR22 FROM DEPRESSION TO ________」で演奏されており、やはり人気の高い曲ですね。音源よりもライブの京さんの声質の方が昔の声に近いということもあり、原曲の癖を残したまま色気のある歌を聴くことができます。音源はフェードアウトですが、ライブでは最後に哀しげなメロディを歌い上げて終わります。
リリースされた当初の印象だと、主にギターソロの部分が不評だったような記憶がありますが、個人的にはギターソロ含め、圧倒的に本作の方が好きですね。原曲で気になっていた音質が大幅に改善され、今のDIRを感じさせつつも原曲の大事な要素を残して改変が行われた良リメイクだと思います。


The World of Mercy(2019.9.18)

30thシングル。c/w曲は21stシングル表題曲「DOZING GREEN」のアコースティック版と、2019年4月16日に新木場STUDIO COASTで演奏された『THE MARROW OF A BONE』収録曲「GRIEF」のライブ音源です。『The Insulated World』の世界観を締め括るという立ち位置で制作されたため、アルバムには収録されていません。表題曲は、メジャーデビューシングルの一つ「アクロの丘」を超える演奏時間となっています。ミキシングは「GRIEF」を除き、アルバム『The Insulated World』に引き続きダン・ランカスター、全てのマスタリングはブライアン・ガードナーが担当しています。オリコン週間ランキングでは、初週で12,704枚を売り上げ、8位を記録し、通算30作目となるトップ10入りを果たしました。

1 The World of Mercy

ドロドロとした閉塞感漂う雰囲気の中、解放感溢れるラストのパートまでの展開が秀逸な長尺曲。京さんの提案で10分という長編の枠組みを定め、薫さんとShinyaさんの原曲を合体させて誕生させたそうです。これまでの長尺曲とは違い、音を詰め込まず、少ない音で構築されています。
曲の展開が次々と変わりますが、大きく①ミドルテンポのメロディパート、②シャウトが暴れる疾走パート、③ミドルテンポのメロディパート、④グロウルとファルセットが高らかに響くラスト、という構成になっています。序盤は陰鬱な雰囲気ですが、終盤は壮大な解放感があり、展開の物語性が秀逸です。
①の中でも前半は打込み音とボーカルのみのパートで、途中からバンドサウンドが入ります。②に入る直前には「遊戯」のメロディに合わせてギターとその他の掛け合いがあったり、②と③の間は長めのSE音を経て一瞬曲が終わったかのように無音になったり、③から④は畳み掛けるようにテンポが変わったりと、今までになかったような展開の作り方が面白いです。
ドラムはスローな部分では打込み音と混ざりながら鼓動のような四つ打ちで不気味な雰囲気を出しています。ラストのグロウル部分の前のめりな縦ノリが個人的なお気に入りです。ベースは鼓動音のようなドラムに深みを与えるかのように重たく響いてますね。全体的に曲の陰鬱さに大きく寄与しているように思います。
ギターはこの手の長尺曲としては珍しく、音数が少ないです。陰鬱なアルペジオとヘヴィなリフが主体ですが、意外とあっさりしてますね。個人的には、「遊戯」の部分の掛け合いと、その後の処刑でも始まりそうな単音フレーズが気に入ってます。疾走パートは少し「DECAYED CROW」を彷彿させるリフですね。
ボーカルは多彩な声ですが、いろいろ詰め込むような感じではなく、メリハリをつけて歌っています。聖歌隊のような「The World of Mercy」のフレーズや高音のサビが気に入っていますが、特にラストのグロウル畳み掛けが良いですね。良い歌詩なのにグロウルで聴こえにくくしてるのが、京さんらしいです笑
歌詩は偽善的な世界からの抑圧にもがきながら、そこから断絶して自分を生きる決意を描いています。「集団リンチで生きてる実感 強要の世界」など、かなり苦痛を覚えながら生きていますが、「情に絡み付いた手を 振り解き踏み付けて濁る」と、仮初の慈悲の手を振りほどいて断絶の覚悟を決めています。
「死骸へようこそ 変わる時が来た 無様でも良い 血を流せ お前は生きてる お前の自由を探せ」
「Ranunculus」は「私」の決意でしたが、本作は「お前」へのメッセージなんですよね。近年の京さんは、自分の為に生きることをしきりに叫んでいますが、その先にもう一つの「世界」があるのかもしれません。
ライブでは先日の「ANDROGYNOS」で圧巻のステージを見せつけていましたが、やはり大きな会場でこそ映える壮大な曲だと思います。ライブでは京さんが狂ったような声で歌うことが多く、特に無観客ライブ「The World You Live In」はまさに狂気的なパフォーマンスでした。やはり終盤の解放感が良いですね。

2 DOZING GREEN (Acoustic Ver.)

21stシングル「DOZING GREEN」のアコースティック版。オリエンタル色の強い原曲に対して、こちらはラテンっぽい雰囲気があり、原曲とは全く異なった魅力があります。どちらかと言えばフレーズ的には「Before Construction Ver.」に近いような気もしますね。
ヘヴィだった原曲と比べると、アコギを主体とした落ち着いたアレンジですが、パーカッシブな躍動感があり、意外とノれるリズムになっています。これまでのアコースティック版のように、原曲に忠実という感じではなく、本作独自のアレンジも加えられており、普通に別曲として楽しめます。
ドラムはミドルテンポで緩やかなタム回しを見せつつ、適宜ニュアンスを変えながら、時に躍動感のあるフレーズを叩いています。ミックスが良く、特にスネアがバシッと入る感じが気持ちいいですね。ベースは緩急をつけながらうねっており、ドラムの音と混ざって心地良いグルーヴを生み出しています。
ギターは全編アコギですが、全体的にラテンっぽさがありますね。メロディアスなアルペジオが良い味を出していますが、何より間奏のパーカッシブなカッティングが格好良いですね。低音重視だった原曲と比べると、アコギの繊細な音が軽やかに響いており、コード進行の美しさを直に感じられます。
ボーカルは最後の「一輪の春〜」の以外のサビを1オクターブ下げ、シャウトもなくなり、落ち着いた感じになっています。原曲のギリギリ感も良いですが、本作の大人の色気漂う歌声も良いですね。「一輪の春〜」の高音も脱力して聴きやすいです。最後の「Abandon Hope」の囁きで唐突に曲が終わるのも粋ですね。
ライブでは昨年の「TOUR23 PHALARIS -Vol.II-」でセトリ入りしていました。アコースティック版がライブで聴けるのって結構レアな気がしますね。私はまだ生では聴いたことがないのですが、実際どんな空気感なのか味わってみたい気持ちがあります。アコースティックライブは活動してるうちに1回はやってほしい…笑


最後に

過去最高レベルにメッセージ性の強い作品を生み出し、バンドとして伝えたいことの輪郭がより鮮明になってきたDIR EN GREY。痛々しくも、僅かに希望を感じさせる楽曲たちは、刺々しいサウンドの向こう側に力強い生命力を隠し持っているように思います。

しかし、現実は残酷でした。コロナ禍により、ライブ活動ができなくなったことは、メンバーにとっても、我々ファンにとっても、この上なく苦しいことだったのではないでしょうか。次回はそんなコロナ禍を経て生み出された力作『PHALARIS』ですね。私が一番好きなアルバムなので、今から楽しみです。

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