正十二面体スピーカーを3Dプリンターで作る (6)
一辺約80mmのウェーブガイド付き正十二面体用プレートを試作しました。さっそく2インチフルレンジドライバTectonic TEBM35C10-4 BMRを取り付け、振幅f特と軸外特性(水平方向)を確認してみます。
箱は約22L密閉箱。対照は直接取り付けたもの(surface mount)です。マイクはドライバ軸上1m、床上約90cm。出力は1Wもなく、ホワイトノイズ2.0V相当の音量で評価しています。700Hz程度まで観察したかったためゲートを長めにとっており、床からの反射をかなり拾っています。
グラフは500Hz~22kHzの範囲でスムージング1/24 octで表示しています。
一見して分かるのは、このウェーブガイドで軸外特性が大幅に改善されたわけではない、ということですね。観察結果を箇条書きでまとめてみましょう;
ドライバの素性として、約7kHz、約13kHzおよび約21kHzにピークが観察された(Fig.1、黒線)
ウェーブガイドの有無に関わらず軸外45°および60°では5kHz以上の高音域で顕著にレベル低下が観察された(Fig.1および2、青線紺線)
ウェーブガイドありの場合では、軸上でも15°でも、9kHz、12kHzおよび19kHzのディップがより深く悪化した様子が観察された(Fig.2、黒線赤線)
ウェーブガイドありの場合では、約4kHzから約6kHzの領域でレベル低下が観察された
ウェーブガイドありの場合では、約700Hzから約2kHzの領域でレベル上昇が観察された
ウェーブガイド良いとこなしですね。特に3.と4.は印象悪いです。20kHzの音波の波長は17mmなので(大気中)、ウェーブガイド部に見られる同心円状の0.4mm高の段差によって高音域が回折しているとは考えにくいものです。
なんとなく「ウェーブガイド」と呼んでいますが、これ、そもそもウェーブガイドとして適切に作用しているのでしょうか(上記5.を見るとそれっぽく効いてそうですが)。実は寸法上なにかを設計したわけではなく、なんとなく3D-CADでそれっぽい形状にしただけなので、寸法から見直す必要がありそうですね。
AKABAKやCOMSOLで設計するのはなかなかハードルが高いので、インターネット上で確認できるウェーブガイド作成指針を見てみましょう。Rod Elliott氏が2006年に公開したものが有名です。
紹介されている計算式をもとにカットオフ周波数3kHz、放射角90°で寸法を算出しようとしたのですが・・・あちこち計算が合いません。どこか間違っているのか。
しょうがないのでこの記事が参照している原著論文を当たってみます。E.R.Geddes, "Acoustic Waveguide Theory Revisited," AES Journal, Vol.41, No.6, (1993 June).がいいかもしれませんね。潔く数10ドル払ってpdfを入手しました。
さて、SciSpaceに論文pdfをアップロードして、Copilotに支援してもらいながら要点をざっと見てみます。
扁平球状のウェーブガイドに沿った音波波動を記述する方法についてGaddesが1989年に発表した第一報をより精緻化したもののようですが、アマチュアが読んでウェーブガイド寸法をすぐ算出できるような論文ではありませんでした。
もっとさらっと読める論文はないのでしょうか。特に、このGeddes(1993)を引用したスピーカー作成の応用事例を調べたいです。Connected PapersでGeddes(1993)の周辺論文を探してみます。
これぞというものは見つかりませんが、Kolbrek and Svensson(2015)"Using Mode Matching Methods and Edge Diffraction in Horn Loudspeaker Simulation"を少し見てみましょう。この論文はオープンアクセスなのでどなたでもご覧になれます。ホーン装着時の振幅f特の予測(BEM)と実測の比較を含んでいます。
Geddes(1993)の周辺を探したのがそもそもよくなかったのかもしれません。ウェーブガイドのスピーカー作例を見てみたいので、Consensusでこの分野の論文をざっと探索してみましょう。
・・・これといったものは見つからないですね。検索語「waveguides」が非学術的ワードなのでうまくヒットしないのかもしれません。
引き続き工夫しながら探索してみます。
まあそもそも、正十二面体スピ―カーはどの聴取位置でも軸外36°を超えることはないですし、今回はフルレンジドライバを採用するためウェーブガイドは必須ではないのですよね。いったん無しとしておこうかしら。
なお、SciSpace、Connected Papers、Consensusの使用による効率的な論文読解について、Dr.すきとほる氏のポストを参考にしました。ありがとうございました。