新式算術講義より
緖言
普通敎育に於ける算術の論ずる所は一見甚卑近なるが如しと雖も,若し深く問題の根柢に穿入せんとするときは,必しも然らず.夫れ敎師は其敎ふる所の學科につきて含蓄ある知識を要す.算術敎師が算術の知識を求むる範圍,其敎ふる兒童の敎科用書と同一程度の者に限らるゝこと,極めて危殆なりと謂ふべし.確實なる知識の缺乏を補ふに,敎授法の經驗を以てせんとするは,「無き袖を振はん」とするなり,是を以て此書は廣く算術の敎授に從事する敎師諸氏の中に其讀者を求めんと欲す.
(高木貞治 明治三十七年 1904年)