芸術史(アジア3)レポート
はじめに
このレポートは京都芸術大学通信課程の在学中に書いたものです。最初、どのようにレポートを書けばいいのか悩んだ経験から、誰かがレポートを書く際の参考になればと思って投稿しています。
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レポート本文
七絃琴の歴史と院政期に廃れた背景の考察
中国の楽器の歴史は古く、夏王朝(紀元前2070頃〜同1600頃)の青銅器の鐘、殷(紀元前1700頃〜同1046)のオカリナのような陶器の楽器である壎、戦国時代(紀元前475〜同221)初期の曾の時代の曾侯乙墓からは編鐘・編磬・建鼓・瑟・十絃琴・笙・竹笛・排簫などが発掘されている。当時の朝廷の雅楽には八音と呼ばれる8つの素材(金・石・糸・竹・匏・土・革・木)を用いた楽器が使用されていた。このレポートでは糸に分類される琴(古琴)に注目し、その歴史や日本との関わりについて記す。
琴の創始者は確定されたものはなく、伏犠・神農・舜の神話の神々や周の文王・武王(共に生没年未詳)と色々な見解がある。元は半箱式の楽器だったが魏晋時代(220〜420)に現在の七絃琴の形状に完成した。日本で琴というと十三弦のものがイメージされるが、これは箏で、琴との大きな違いは琴台に柱(じ)があるかないかである。七絃琴の形状は表面に7本の弦を張り、琴台に柱はなく、音位の目印となる徽(き)を嵌め込んである。4オクターブの音域を持ち、左手で弦を押さえ、右手で弦を弾くことで音を奏でる。その音色は下から響き渡る静かな音である(1)。この音色は多くの知識人に愛され、中国最古の詩篇『詩経』には「窈窕淑女、琴瑟友之」「我有嘉賓、鼓瑟鼓琴」(2)と詠まれている。また『史記・孔子世家』に孔子(紀元前551〜同479)も琴を学んでいたという記述がある。
日本の最古の楽器は『古事記』の記載や発掘された埴輪が持っていた琴とされているが、中国の七絃琴は唐(618〜907)の時代に遣唐使がもたらしたものなので、埴輪の持っていた琴とは異なる。唐の時代に写された日本に現存する『碣石調幽蘭第五』は琴の最古の楽譜であり、正倉院の『金銀平文琴』(3)、法隆寺献納の『黒漆七絃琴』(4)も同時代に製作されたものである。奈良・平安時代には貴族たちが好んで演奏し『源氏物語』にも琴を弾く描写があるが、平安末期の院政期には廃れてしまう。なぜ院政期になって廃れてしまったのであろうか。
平安時代の雅楽の編成は、笙、笛、琵琶、大鼓、鉦鼓などが用いられており琴はない。絹弦のため音が小さく合奏には向かないためであろう。宮廷音楽の編成に加えられなかったこと、35調に及ぶ調弦が複雑で奏法が難しいことに加え、院政期後半から始まる武士の世では静かな音色が受け入れられず廃れたと考える。
平安末期に廃れてしまった七絃琴は、1676年に清(1644〜1912)から日本に来日し、徳川光圀(1628〜1701)と親交を持ち、水戸で生涯を全うした東皐心越(1639〜95)により再び脚光を浴びる。心越は人見竹洞(1637〜1696)や杉浦琴川(1671〜1711)に琴の演奏を伝え、楽譜『東皐琴譜』を残す。琴を学んだ浦上玉堂(1745〜1820)や荻生徂徠(1666〜1728)は個性的な楽譜や専門書を製作する。これは長く続いた戦国の世がひと段落し元禄文化が花開いた時期に一致する。
七絃琴の静かな音色は争いのない静かな時の中で奏でられるのが相応しいのである。
(本文総文字数 1306字)
註・参考文献
註
(1) YouTube「古琴曲《酒狂》 秋月彈」 https://youtu.be/TwDi7Awyq6c
(2) People China 「古琴 文人の指が奏でる千年のメロディー」 http://www.peoplechina.com.cn/home/second/2008-04/23/content_111876.htm
(3) 文化遺産オンライン「模造 金銀平文琴」 https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/465704
(4) 文化遺産オンライン「黒漆七絃琴」 https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/197590
参考文献
ブリタニカ・オンライン「琴」 https://japan.eb.com/rg/article-03063400 (2022年11月27日閲覧)
People China 「古琴 文人の指が奏でる千年のメロディー」 http://www.peoplechina.com.cn/home/second/2008-04/23/content_111876.htm (2022年11月27日閲覧)
中国語スクリプト 「琴と箏の歴史と構造の違い」 http://chugokugo-script.net/chugoku-bunka/kin.html (2022年11月27日閲覧)
「中国の伝統音楽・楽器」 http://chugokugo-script.net/chugoku-bunka/ongaku-gakki.html (2022年11月27日閲覧)
吉川良和「漢代琴学と孔子学鼓琴疑義」 https://hermes-ir.lib.hit-u.ac.jp/hermes/ir/re/10373/ronso1260200010.pdf (2022年11月27日閲覧)
エコリング「和楽器の歴史や地域情報」 https://kottou.eco-ring.com/1665/ (2022年11月27日閲覧)
日本古琴振興会 https://guqin.jp/about/ (2022年11月27日閲覧)
多元ニュース 「日本の琴とは別楽器の中国の琴ー専門家が特殊な文化的地位を解説」 https://tagennews.com/?p=1340 (2022年11月27日閲覧)
渡辺あゆみ「平安期の史料に見られる「御遊」の概念」 https://www.soka.ac.jp/files/ja/20170428_231523.pdf (2022年11月27日閲覧)
蛇足などなど
2022年秋期に書いたレポート
七絃琴がなぜ廃れてしまったのかという問い→武士の時代には静かな音色は受け入れなかったという仮説で構成。90点。
日本1では正倉院の琵琶、アジア4のインド琵琶、そして今回の七絃琴と弦楽器繋がりで蓄積されていた知識が役に立ったためか、まとまり感が一番出た。