芸術史(アジア4)のレポート
はじめに
このレポートは京都芸術大学通信課程の在学中に書いたものです。最初、どのようにレポートを書けばいいのか悩んだ経験から、誰かがレポートを書く際の参考になればと思って投稿しています。
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レポート本文
インドの音楽は、インドの古典音楽(宮廷音楽)の流派で、音階のような音律とリズム様式がある北インドのヒンドゥスターニ音楽と、声楽を重視し音楽理論に影響されている南インドのカルナータカ音楽がある。今回、インド音楽の演奏時に使用される楽器ヴィーナおよびシタールのルーツに着目した。双方とも弦の共鳴が余韻のある響きを奏でるインド音楽を代表する楽器である。
ヴィーナは日本の琵琶のルーツと言われている。日本琵琶楽協会のホームページにある琵琶の歴史によると、ペルシアのバルバットが紀元前二世紀ごろ漢の時代の中国を経て奈良時代に日本に伝わった系統と、ペルシアのバルバットが紀元後二世紀ごろにインドに伝わり、インド古来のヴィーナと融合してインド琵琶となり、中国を経て奈良時代に日本に伝わった二つの系統がある。ペルシア式の四弦琵琶とインド式の五弦琵琶を比較すると、四弦は曲頸、五弦は直頸の違いがあり、ルーツとなるペルシアのバルバットは曲頸、インドのヴィーナおよびシタールは直頸である。
バルバットはササン朝ペルシアの頃に作られた。ササン朝ペルシアは広大な領土を持ち東西の交通路のほとんどを支配しており、ササン朝の音楽文化がシルクロード全域に広がり、ササン朝の頃に作られた楽器であるバルバットは中国を経て仏教文化の一部として日本へ琵琶として伝わったのである。シルクロードを伝わった形跡としては、ウィグル自治区のクチャのスパシ遺跡から出土した舎利容器(仏陀の骨を入れる容器)の蓋には、四弦であるバルバットと五弦琵琶が描かれている。仏教寺院であるナーガールジュナコンダ遺跡、アマラーヴァティー遺跡の彫刻に五弦琵琶の存在が確認できている。そして、キジル石窟、アジャンター石窟の仏教遺跡にも琵琶の存在が確認されている。このことからインドからシルクロードを経て仏教と共に楽器も伝わっていることがわかる。しかし現存のインド式の五弦琵琶は正倉院の五弦琵琶だけである。なぜ他のインド式の五弦琵琶は現存していないのだろうか。
インド発祥の仏教だが、インドの仏教は六世紀ごろクプタ朝に侵入したエフタルによって衰退し、十二世紀にイスラム教によって滅亡に近い状態となった。北インドが十三世紀初めにはイスラム勢力の支配下になり、インド古来の伝統とペルシアの文化が融合してインド・イスラーム文化であるヒンドゥスターニ音楽が発展した時期と重なる。仏教の衰退に伴い、寺院などは焼かれたため、おそらく当時の五弦琵琶は現存しなくなってしまったのではないかと推測する。
シタールはイスラーム王朝に仕えた宮廷音楽家アミール・フスローがヴィーナに改良を加えてシタールを発明したというのが現在の一般的な説である。他の説としては、ヴィーナとペルシアのセタールが融合したという説がある。シタール奏者の石濱匡雄氏によると「7弦のシタールに共鳴弦が取り付けられた物を元に、流派や演奏家のスタイルによって弦の数や形に更なる改良が施された現在のシタールになった」(註1)とあり、さらなる文化の融合で新しいシタールが生まれることを期待している。
(本文総文字数 1279字)
註・参考文献
註
[1] 石濱匡雄ホームページ 楽器シタールについて https://www.tadao.in/sitar_jp.htm (2022年8月22日閲覧)
参考文献
シタールの製作過程 楽器におけるわざ学の伝承とグローバリゼーション研究会 https://kyoushien.kyokyo-u.ac.jp/taka/kaken/index.html (2022年8月11日閲覧)
弦楽器の種類 https://saisaibatake.ame-zaiku.com/gakki/gakki_zukan_india.html (2022年8月10日閲覧)
北インド古典音楽について | シタール奏者 石濱匡雄 https://www.tadao.in/music_jp.htm (2022年8月22日閲覧)
舎利容器 東京国立博物館 画像検索 https://webarchives.tnm.jp/imgsearch/show/C0070761 (2022年8月10日閲覧)
ブリタニカ・オンライン・ジャパン 琵琶 https://japan.eb.com/mb/article-131690_010010000000 (2022年8月10日閲覧)
日本琵琶楽協会ホームページ 琵琶の歴史 https://nihonbiwagakukyokai.jimdofree.com/%E7%90%B5%E7%90%B6%E6%A5%BD%E3%81%AE%E6%B5%81%E3%82%8C/%E7%90%B5%E7%90%B6%E6%A5%BD%E3%81%AE%E6%AD%B4%E5%8F%B2-%EF%BC%91-%E5%BE%93%E6%9D%A5%E8%AA%AC/ (2022年8月11日閲覧)
文化遺産のデジタルアーカイブ DSR MUSIC http://dsr.nii.ac.jp/music/index.html (2022年8月22日閲覧)
読売新聞大阪本社/奈良国立博物館編『シルクロード紀行』、ミネルヴァ書房、2012年
蛇足などなど
2022年夏期に書いたレポート。
タイトルは付けるものか悩んで付けずに提出。この期は日本2、4とアジア4と3本、ギリギリ最後まで粘って書き上げて提出し、3つとも採点が80点だった。
現存するインド式の五弦琵琶は正倉院の五弦琵琶のみで、他にないのは何故かという問い→インドでの仏教の衰退のためという仮説で構成。
日本1で書いた五弦琵琶の知識が役に立ったかも。