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浦島、ときぞうに日本を教わる/『さよロテ』挿絵制作に関する覚え書き



先日2024年9月8日に開催されました文学フリマ大阪に向けてとき子さんが作られた二冊、短編小説集『ツーベンリッヒは嘘をつく』エッセイ集『さよならあの日のロッテンマイヤー』。

この二冊とつる・るるるさんの新刊『そばぼうろの夫婦』、文フリでお買い置きしていただいたウミネコmini文庫二冊、揃って今週チェコの私のもとに届きました。
全ての本の「届いたよ報告記事」は後日改めてしたためることにして(いつになるかな?)本記事ではとき子さんの『さよならあの日のロッテンマイヤー』(以下『さよロテ』……いいのか勝手に略して)の扉絵制作裏話をタラタラ熱く語らせていただこうかと思います。
ご本の中では私の絵はモノクロ、同じ絵を使ってこちらはカラーで栞を作っていただきましたが、一度大きい絵でカラーでお披露目しておきたいとも思っていましたので、とき子さんの許可をいただきコピーライト付きのものを掲載しながら綴っていきます。
面白い話になるかどうかは「?」ですが、お付き合いいただけたら幸いです。


挿絵二枚が扉絵六枚に

今回、制作裏話を書くためにLINEを遡ってみたら、とき子さんから新刊を二冊作るご予定、そしてその本に帯を付けるのでそこでの既存の絵の使用の許可とあとがき執筆のご要請をいただいたのはまだ三月中旬のことでした。

その時点でのとき子さんのアイデアは帯に私がとき子さんがゾウを被ったキャラ「ときぞう」を考案した最初の絵、ウクレレを奏でているときぞうを使うというものでした。

そして七月に入り、とき子さんから仮原稿をお送りいただくと共に前述の絵を挿絵としても本の中に使いたいとのお話が。

実は帯に使用されると聞いた時点で「あの絵はどうかな」という思いがありました。
というのも、印刷される想定なく描いているので線がとても弱い。ウクレレときぞうを描いたのは2022年末で、まだnote関連で自分のイラストが紙媒体で使っていただけることになるなんて想像もしていない頃。その後るるるさんのご本ポストカードでイラストを使っていただくに当たって描いたものは縮小されることを考えてかなり線が強くなっています。

せっかくなら、とき子さんの新刊には新しいものを描き下ろしたい。

そんな思いがムクムクと湧き上がってきました。

小説集『ツーベンリッヒは嘘をつく』にも橘鶫さんのカバさんの絵とシロクマさんの絵の二枚が入ることから、『さよロテ』の仮原稿に目を通した後、この辺りにイラストを入れられるかなと思った二箇所のエッセイに基づいたアイデアスケッチを描いてお見せしました。

いやそれ何で留めてん?……鉛筆画用に使ってる練ゴムです。
で、どこに張り付けてん?……えっとですね、ワタクシ制作はすべて卓上イーゼルでやってまして(書や水墨の時は床に降ろす)そのイーゼルにガラス板を乗せてあるんですわ(アニメーターの名残ですな。当時はこの後ろからライトをあてて描いてました。)この二枚はそのガラス板に張り付けておりまして、極力背景は写らないよう頑張って撮っています。

この二枚をお見せしたところ、とき子さんから(たぶん興奮状態で)「この絵に各章のタイトル入れて、扉絵として使っても良い??」とお返事が。

ええっ、このエッセイ集は六章あるから、つまり六枚描くの……?
そりゃもちろん!やりますやります、やらせてください描かせてください。

と、こんな流れで「帯に既存の絵」から「扉絵に新作六点」になったのでした。

すんなり合格の四枚

残りの四章に使う絵のアイデアスケッチもお見せして、お言葉をいただき、本描きもアイデアスケッチとさほど変わらなかったのは以下の三枚。

『出費』
『配慮』
『苦味』

帯にも使っていただいた『追想』の泣きラーメンときぞうに関しては『さよロテ』のあとがきに記しましたので、どうぞそちらをお読みください(とき子さんのような凄腕エッセイストのご本にあとがきを寄せる緊張感、分かっていただけます?今「お読みください」と書いた瞬間に「あとがきは読まんくても!」ともう一人の自分が叫んでおりましたよ。)

『追想』

もう一つ、あとがきのことでボソっと一言付加えるならば。
『さよロテ』が発売される前(つまり私のあとがきが世に出る前)に収録されたこちらの音声配信で、

いぬいゆうたさんがとき子さんのエッセイについて語られているのですが、私があとがきで書いたことと同じような内容のお言葉をサラリと口にされた上に更に深い考察を続けられていて、「私が脳みそ振り絞って書いたあのあとがきは何だったん……?」と愕然としました。いやあ、参りました……。

浦島に砂丘を教えてやってくれ

さて、前出の四枚がすんなり行ったと言うのなら後の二枚はどうだったのか?
後の二枚はですね、どちらも本描きを一回ずつ描き直しております。

ではまずエッセイ「鳥取砂丘ガンダーラ」をモチーフにした『旅路』からご紹介しましょう。

ワタクシ浦島Ru太郎、ニッポン生まれニッポン育ち、ニッポンを離れたのは確か三百年前だったかと記憶しておりますが、鳥取砂丘に足を踏み入れたことは一度もございません。

で、このようなテイストのイラストでも知らないものを描くのだからまずは写真を参考にイメージを膨らまそうと画像検索するわけなんですが。
検索で出てくる写真はことごとく遠方から砂の丘の美しい光景を見せているものばかり。
私が描きたい絵はときぞうメインだから、砂も結構カメラ(笑)に近くなるんだが。砂のドアップって無いんかいな?

思ったような資料が見つからないまま描いた最初の絵はときぞうが片足だけ砂に埋めて両手に靴を持って「えへ?」と可愛くカメラ目線。砂はサラサラのイメージだから、色は砂色であるものの、なんだか波紋のようなものが広がっています。

この絵に対するとき子さんの反応は

「ときぞうが田植え前の田んぼに足突っ込んでるみたい」

おうっ……それは絶対何かが間違っている!
誰かRu太郎に砂丘が何たるかを教えてやってくれ……!

しかしどんなに探しても砂丘の近景は見つからず。
ところがとき子さんとのやり取りの後しばらく一人で悶々とした後、自分の迂闊さ加減に呆れかえることに。

あるやん、砂丘近景。

どこに?って、ここに↓

こういうのを「灯台下暗し」って言うのかなあ!あはは!
原稿をいただいちゃうと、わざわざnote記事に戻ろうとか思わないじゃないですか。すっかり忘れてましたよ、とき子さんがお写真ふんだんに載せてくださっていたこと。

こうしてお写真で砂丘の砂のドアップと砂丘の急さ加減を学習し直し、描き直したものに合格をいただきました。

『旅路』

ハンバアグは抜いちゃいけねえ

もう一枚本描きの描き直しをしたのはエッセイ「あなたがハンバーグで私が生姜焼きであるならば」を基にした『推察』の扉絵。

色とりどりのおかずが入った家庭で作られるお弁当も、日本ならではのものなのではないのかなあ(他の国にもあるかもしれないけど、私は日本でしか見たことがありません)と思います。こちらでもアジア料理店でBentoと銘打ったメニューで箱入り定食みたいなのを売り出しているようですが、おかげで「弁当」という単語をちょっと本来の意味からずれた理解をしている日本語学習者さんも見受けられます。

ともあれ日本の家庭で作られるお弁当の記憶はさすがにRu太郎にも残っているわけですが、このエッセイのメインテーマであるハンバーグ、絵にするに当たって躊躇してしまって。

だって、ハンバーグですよ?
ただの茶色い物体にならないか?描いたところで分かってもらえるか?
そんな疑問が頭をもたげ、最初に描いた絵ではハンバーグの代わりにミートボールにしてしまったのです。

しかしやはりとき子さんの反応は

「このエッセイの挿絵に、ハンバーグは欠かせない」

うん、私もそう思う。
それなら最初からハンバーグを描く努力をせい!なんですが。

そこで今一度自分の描いたものを見つめ、そこになぜハンバーグが入れられないのかを考えました。

私が出した答えは、「弁当箱が寝ているから」。

最初の絵の構図だと、弁当箱が真っすぐ平面に置かれていて弁当箱の中身が見える領域が少ない。そこにハンバーグがデンと寝っ転がったところでうっすら出腹が見える程度で終わってしまう。

そこで弁当箱を起こし、ハンバーグを始め弁当箱の中がしっかり見えるようにして「アクションときぞう弁当箱入り」が完成。採用作となりました。


『推察』

終わりに帯の話

とまあ、以上のような流れで完成した六点のイラストを収める『さよならあの日のロッテンマイヤー』、まだお手元に揃えていらっしゃらい方は、オンラインならこちらから↓

とき子さんから直接買いた~い、という方は2025年1月11日開催のZINEフェス東京へ!

最後に、とき子さんの新刊二冊に寄せた帯の「推しの一言」が、イラストよりもあとがきよりもずっと難産であったことをここに告白しておきます。
とき子さんが推せないっていう話じゃないんです!推しまくってます!今更言うまでもないことですが!
でも、分かりますでしょうか、私って書き始めるとダラダラダラダラ超長文人間(かの連載小説をご覧いただければ一目瞭然ですな)。
そんな私に、とき子さんを一言で推せと!
推しの一言を考えていた夜に私、仕事でイラレでお面のデザインしてたんですけど、推しの一言のメモ書きをパソコンから離れたところに置いておいて、お面で行き詰まると推しの一言へ、推しの一言に行き詰まるとお面へ、と謎の室内徘徊をしておりました。
この渾身の推しの一言が読めるのも、ご本をご購入された方のみ!ぜひお手に取っていただければと思います。


最後の最後に、このような学ぶところの多すぎるコラボ体験を提案してくださったとき子さんに厚く熱く御礼申し上げます。
ぜひまた何か描かせてくださいよぅ!