スタートアップ資金調達ニュースの受け取り方
はじめに
2024年に入り、センセーショナルなスタートアップ資金調達ニュースが増えたと感じます。
2020年のスタートアップバブルがある程度落ち着き、将来性が高い企業に投資が集中した結果として、大型の調達も生まれやすくなっているように思います。
「N億円調達!!」というニュースを一見すると、さぞかしうまくいっている事業であろうと思われる方も多くいると思いますが、実際は多くの解釈の余地があるものでもあります。
スタートアップの従業員の方々や、スタートアップへの転職検討をされている方々にとって、これら調達ニュースの解釈の仕方を、いくつかの観点で書ければと思います。
資金調達 = 成長性を担保とした借金である
資金調達(VC からの第三者割当増資)はその金額の大きさからも、外部からはとても華々しく映ります。
よく言われるスタートアップ企業の資金調達は、種別としてはエクイティファイナンスに類する資金調達方法であり、自社の株式を発行し、それを VC に購入してもらうことで一定の現金を得る流れとなります。
未上場企業ですと、会社の株価は、公的には認められていないものです。それに対して一定のロジックで投資家が査定をし、その株価を元にして、今後の事業の可能性に賭けて、先行的に投資をしているのがベンチャーキャピタルの視点になります。
ここで重要なポイントがあります。ベンチャーキャピタルは何をもってこれだけのリスクを取り、今後の可能性に賭けるのでしょうか?
それは"圧倒的な事業の成長性"です。
つまり、スタートアップの資金調達とは、その事業の圧倒的な成長性を担保に現金を借りているのである、という見方ができます。
借りたお金は返さなければいけません。
エクイティファイナンスによる資金調達は現金でそのまま返却する必要はありません。しかしながら、上述の通り VC サイドはその事業の成長性を担保にお金を貸しているので、投資を受けた企業側は “事業の成長性” でもって返済をしなければいけません。
つまり資金調達をするスタートアップ企業は常に圧倒的な事業成長をしなければならないのです。
かつ、調達金額が大きいほど、求められる成長期待値は大きいです。
特にスタートアップへ転職を検討されている人にとっては、
“多額の資金調達をしている会社なので安泰だ” ではなく、”多額の資金調達をしている会社なので、急成長が至上命題だ” と捉えられると、入社前後のフィット & ギャップも抑えられるのではないかと思います。
事業の急成長が強いられている環境ならではの得られる経験も非常に多くあります。そのようなシビアな環境を求めている人にとっては、よりよい環境と言えるのではないでしょうか。
参考
どれほどの”成長性”を返済すべきなのか
資金調達の金額は、その事業の評価額と、それに基づきどれくらいのエクイティをやり取りするかによって決定しますので、一概にいくらの調達であればどれくらいの事業規模かを説明することは難しいです。
しかしある程度の傾向はあります。
以下の資料によると、資金調達のフェーズは以下の規模感に分かれます。
資金調達の金額によって、おおよそその会社の事業フェーズがわかり、求められる成長速度も逆算できます。
例えば、シードからシリーズAの期間で求められる成長度合いを考えてみます。
と見積もったとします。
シードからシリーズAの期間までに、10倍の事業成長、または +9000万円 の事業成長が求められます。
同様に、シリーズC からシリーズDの期間で求められる成長度合いを考えてみます。
と見積もったとします。
アーリーフェーズとは異なり、1年ではなくおおよそ3年ほどのランウェイがあるとします。仮に3年でこの成長を狙うとした場合、5.3倍の事業成長(3年間で割り戻すと、年次2倍少々)、または +65億円 の事業成長(3年間で割り戻すと、年次+20億円ほど)が求められます。
まとめると、例えば ”30億円の資金調達” をしている企業は、”年次+20億円以上の売上成長”が求められる熾烈な環境であると言えます。
アーリーフェーズの+9000万円という金額規模だけを見ると、乗り切れるイメージが付く方も多いかと思いますが、それと比較するとレイターステージがいかに強烈な成長を期待されているかが分かると思います。
※ 実際には、アーリーフェーズはいわゆる PMF の発見が至上命題なので、これはこれでとても難しい問題です。
一口に大型資金調達といっても、これだけの成長担保と引き換えに行われているのだという感覚がお分かりいただけるかと思います。
資金調達は、しなくてもいい
VC からの資金調達は、あくまで資金調達方法の一つでしかなく、デットファイナンス等をはじめとして様々な会社経営方針や資金調達の方法があります。
以下の記事によると、企業の資金調達方法はこのような種類があります。
どのやり方が良い・悪いはないのですが、個人的には自己資本経営で黒字経営を継続し続けられている会社や、年次確実に20%成長を続けている会社等は、経営者という目線ではとても尊敬しています。この不確実な市況環境において長期に渡り再現性を持って利益と成長をもたらしているからです。
これはとても難しいことでありますので、それを実現できている経営者は非常に力があると言えます。
一方、破壊的で不可逆な変化を世の中にもたらすには、非連続な先行投資が必要なことも事実です。
昨今のフリマ市場の隆盛も、スタートアップの資金調達の巧拙が一定寄与した代表的な事例ではないかと思います。また、スタートアップ投資がなければ実現しなかった世界観だと思います。
つまり、VC からの資金調達、ハイグロースを志すスタートアップは、イノベーションによって不可逆な変化を起こし、世の中を一変させるホームランをあえて狙っている存在であると言えます。
スタートアップ企業であっても、そのような熾烈な環境だけでなく、経営方針として堅実な成長維持や健全な黒字経営など、様々な方針の会社があります。
正しく会社の方針を理解した上で、ご自身の活躍の場所を選択できると、より良い人生の選択になると思います。
だがしかし、世間のスタートアップへの期待は高まっている
ここまで資金調達の現実的な捉え方をいくつか記載しましたが、前提、ハイグローススタートアップに向けた資金調達環境は年々発展傾向にあります。
こちらのレポートのように、日本国内のスタートアップの資金調達額はこの10年で大きく増えました。
これだけの金額がスタートアップ企業に投じられていることは、それだけ新興企業の成長性が世間から期待されていることでもあり、ハイグロースな事業創出を志す人たちにとっては大きな追い風となっていると思います。
スタートアップで働くということは、見方としては、ピーク時で年間約1兆円が投じられている業界で働くこととも捉えられます。こう見ると、身を投じるリスクが低い業界になってきているとも言えるのではないでしょうか。
また、昨今、国内に留まらず、海外の VC がスタートアップ企業に投資をしている事例も増えてきています。
海外の VC やファンドからの調達を受ける日本企業が増えることは、国産の事業が国際的にも存在感を発揮してきていることの現れです。
グローバルに対しても交渉力がある国産スタートアップが増えることは、日本の未来にとって非常に明るいことだと思います。
国内のスタートアップのリターンが、海外の VC に還元されうることのもどかしさはありつつ、日本発の事業が国際的にも大きなチャレンジができることが証明されてきている昨今だと感じています。
まとめ
ここまで色々な観点を記載しましたが、とはいえ資金調達ニュースはとても喜ばしいものです。
資金調達によるインパクトを正しく解釈し、適切にスタートアップに関わることができれば、より良い成長機会を得ることができるのではないでしょうか。
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