Mother of Vinegarはお酢を産んだのか?motherの同音異義語とは?

mother of vinegarという英語をご存知でしょうか。そのまま翻訳すると「お酢の母親」ということになると思いますが、「酢母」が一般的な訳のようです。「酢母」とは日本国語大辞典によると「酢酸菌に同じ」とあり、要するにエタノールをお酢に変える菌のことを言うのだそうです。

本題はここのmotherというが「母親」のことなのかという点です。実は諸説あるので一概には言えませんが、OED (Oxford English Dictionary)はこのmotherを「母親」とは別の見出しに分類しています。それによるとこのmotherはDregs, sediment; scum; mould; esp. the lees or sediment of wine; the scum rising to the surface of fermenting liquors. つまりワインやリキュールの発酵時のカスのことを言う語なのだそうです。

この表現の語源もなかなか興味深いです。OEDはまず「母親」という意味の語の特殊な用法ではないかとし、同様の用法がロマンス諸語にも見られるとしています。中世ラテン語にも「ワインのカス」という意味で用いられているらしいほか(DMLBS mater12)、フランス語、イタリア語、スペイン語にもその用法があるようです。

しかし、「母親」と「残りかす」では意味が逆ではないかという疑問もあります。その点に関してはOEDは The transition of sense is difficult to explain; but most probably the scum or dregs of distilled waters and the like was regarded as being a portion of the ‘mother’ or original crude substance which had remained mixed with the refined product, from which in course of time it separated itself. (The term may possibly have belonged originally to the vocabulary of alchemy.)と「残りかす」の方が「生み出す側」だと認識されたためだと説明し、もともと錬金術に関連する語ではないかとしています。実際、中世ラテン語にmater metallorum 「水銀」という表現があったようです。(DMLBS mater15)

一方、もう一つ紹介されている語源も興味深いものがあります。それは中オランダ語のmodder「汚れ、澱」に由来するというものです。意味としてはこちらの方がしっくりくるような気もしますし、wiktionaryはこちらを推しているようです。この場合motherという形になったのはたまたまであり、「母親」とは関係のない語であるということになります。

それではmother of vinegarという表現のmotherは「母親」を表すmotherの同音意義語と言っていいのでしょうか?これはなかなか難しい問題です。

後者のオランダ語起源説を採るのであれば、語源も意味も違うので同音異義語と言って差し支えないでしょう。問題は前者の説の場合です。語源が同じだとした場合にはどこまでが同じ語でどこからが同音意義語になるのでしょうか?

本日は残念ながらそろそろ脳みそが働かなくなってきたので疑問提起だけして筆を置きたいと思います。もう一つの疑問は日本語の酵母の「〜母」というのも同じ用法なのかという点です。多分そうだとは思いますが、どのような経緯で借用翻訳されたのかなども書いてるうちに気になり始めましたので今後調べたいと思います。(次は近いうちに更新したいと思います…)


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