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医学コラム(5)HPVワクチン

 HPVワクチンは、2013年に定期接種が開始されたものの、その直後から様々な副反応が取り沙汰され、わずか2カ月で事実上の中断を余儀なくされました。しかし2022年4月から、定期接種が再開され、今日に至っています。
 HPVとは、ヒト・パピローマ・ウイルスと呼ばれるウイルスです。200種類以上の型に分類されますが、そのうちの10数種類が子宮頸がんの原因になります。セックスでうつるので、男女を問わず生涯に何度も感染するのですが、大抵は免疫の力で消滅します。しかしなかには持続感染に移行して、10年から20年以上をかけて、子宮頸がんを生じさせるのです。
 HPVワクチンは、その感染を予防するためのものです。日本では2009年に承認されて多くの自治体で接種が始まり、2013年には国の正式な定期接種として位置づけられるようになりました。対象は小学校6年生から高校1年生の女子(海外では9歳から16歳が多い)。セックスデビュー前に打って、免疫力を付けておくことが肝心です。
 2013年当時、数十カ国で接種が行われていましたが、副反応が問題になったのは日本だけでした。いまでは100ヶ国以上で使われていますが、日本のようなことは一切生じていません。また日本国内の研究でも、安全性に問題がないことが実証されてきました。そうした結果を踏まえて、2022年の再開に至ったわけです。
 現在、定期接種で使われているワクチンは次の3種類で、公費扱い(無料)となっています。

 2価ワクチン(サーバリックス)
 4価ワクチン(ガーダシル)
 9価ワクチン(シルガード9)

 サーバリックスは、とくに発がん性の強い16型と18型をターゲットにしたものです。これに6型と16型をプラスしたのが、ガーダシルです。この2つは、男性の尖圭コンジローマ(ペニスのイボ)の原因です。がん化はしませんが、次第に大きくなってきますし、痛みや痒みが出てくることがあります。またシルガード9は、対象となる型を9種類に増やしたもので、子宮頸がんを9割以上も減らせると言われています。
 日本の子宮頸がんの新規患者数は、年間1万~1万1000人、40歳未満に限っても約2000人です。それを9割減らせるのなら、打ったほうが得でしょう。ちなみに2009年から2013年の間にワクチンを打った女性(現在20代前半から30代後半)では、子宮頸がん患者がほとんど出ていないことも確認されています。
 2013年から2022年の間に、接種を逃したひとに対して、政府の救済措置があります。「1997年4月2日~2008年4月1日生まれの女性」に限り、ワクチンを無料で接種しているのです。しかし接種率は、いまのところ10パーセント前後とか。救済措置の期限は来年3月まで。いまが思案のしどころです。


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