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血液型と病気(6)新型コロナと血液型

 A型のひとは、新型コロナの感染・重症化・死亡リスクが高く、O型が低かったことが、多くの研究から分かってきました。  論文によって数値にバラつきがありますが、感染リスクはO型を1とすると、A型で1.2から1.8倍、B型で1.1から1.5倍といったところです。またAB型はA型と同程度とされています。重症化(酸素吸入や人工呼吸器が必要な状態)や死亡のリスクも、だいたい同じような数字になっています。  感染リスクも重症化リスクも、ほとんど差はないとする論文も散見されますが、O型のほ

    • 医学コラム(6)ウジ虫と糖尿病

       水木しげるは、ニューブリテン島で爆撃にあい、右腕を負傷。切断した傷口にウジがわき、それをみた軍医は「フーム、今日一日もつかな」と言ったそうです。すでにマラリアにも罹っていたので、助かるとは思えません。しかし驚異的な回復力で生き延び、復員したのでした。  なぜ水木しげるが生き延びられたのでしょうか。マラリアについては分かりませんが、傷に対しては、実はウジ虫が良かったのではないかと思われます。  化膿した傷口を放っておくと、敗血症から死に至る確率が跳ね上がります。しかしウジがわ

      • 医療費の話(5)国民皆保険

         日本は「国民皆保険」制度をとっています。つまり、国民(と日本に住んでいる外国人)全員がなんらかの公的な医療保険に加入することが、法律によって義務付けられています。  よく知られているのが「健康保険」です。会社員のほぼ全員が、これに加入しています。自営業や、会社を退職したひとは「国民健康保険」に入っているはずです。これとは別に、公務員は各種「共済組合」に加入しています。ただし共済組合は、基本的には健康保険と同じと考えて構いません。また75歳の誕生日を迎えると、全員が「後期高齢

        • 血液型と病気(5)Rh不適合妊娠

           Rh不適合妊娠は、ABO不適合妊娠よりも深刻です。よく知られているように、Rh式血液型にはRh(+)とRh(ー)の2種類があります。その違いは、赤血球表面にD抗原と呼ばれる物質があるかどうかで、それはRhD遺伝子の有無によって決まります。  不適合妊娠が生じるのは、母親がRh(ー)で胎児がRh(+)の場合、しかも第2子以降に限られています。不妊や流産のリスクが高まりますし、出産に漕ぎつけても、重い黄疸が起きる場合もあります。  Rh不適合妊娠は、D抗原とそれに対する抗体(抗

        血液型と病気(6)新型コロナと血液型

          医学コラム(5)HPVワクチン

           HPVワクチンは、2013年に定期接種が開始されたものの、その直後から様々な副反応が取り沙汰され、わずか2カ月で事実上の中断を余儀なくされました。しかし2022年4月から、定期接種が再開され、今日に至っています。  HPVとは、ヒト・パピローマ・ウイルスと呼ばれるウイルスです。200種類以上の型に分類されますが、そのうちの10数種類が子宮頸がんの原因になります。セックスでうつるので、男女を問わず生涯に何度も感染するのですが、大抵は免疫の力で消滅します。しかしなかには持続感染

          医学コラム(5)HPVワクチン

          医療費の話(4)特別の料金

           大学病院をはじめとする大病院を安易に受診すると「特別の料金」、正式には「選定療養費」を請求されるので、気をつけましょう。  大学病院や大病院は、本来は重症患者の診療を担うはず。加えて医療従事者の働き方改革もあって、軽症患者には来てもらいたくないというのが本音です。しかし日本では、患者は医療機関を自由に選ぶことができますし、医療機関側はそれを断ることができません。  一方、欧米諸国の多くは、ホームドクター制を取っています。病気になったら、まずホームドクターを受診します。そして

          医療費の話(4)特別の料金

          血液型と病気(4)ABO不適合妊娠

           A型のひとの血液中には抗B抗体、B型の血液には抗A抗体、O型はその両方を持っています。そのため輸血の際に組み合わせを間違えると「ABO不適合輸血」となり、溶血(抗体の攻撃を受けて赤血球が溶けてしまう現象)やその他のトラブルが生じてしまいます。  しかしここで気になるのが妊娠です。  たとえばO型の女性がA型の子(この場合、遺伝子的にはAO型になります)を妊娠したとしましょう。母体と胎児は胎盤で隔てられているので、双方の赤血球が混ざることはありません。しかし母親は抗A抗体を持

          血液型と病気(4)ABO不適合妊娠

          医学コラム(4)ボツリヌス毒素

           ボツリヌス菌が作り出す毒素は、生物界で最強と言われており、そのため20世紀には、各国が細菌兵器としての開発を目論んでいたほどです。  ただボツリヌス菌自体は、どこにでもいる土壌菌の一種に過ぎません。しかし、たまたま食物中で繁殖し、それを知らずに人間が食べると、食中毒を起こすことがあります。ボツリヌス毒素は神経毒の一種で、神経から筋肉への刺激をブロックします。ブロックされた先の筋肉は、緊張を失って弛緩します。そのため食べた量によっては、運動障害が生じたり、呼吸困難から死に至る

          医学コラム(4)ボツリヌス毒素

          医療費の話(3)時間外等加算と夜間・早朝加算

           再診料は75点で、初診料(291点)と比べて、かなり安く設定されています。でも手元に最近もらった「診療明細書」があったら、試しに見てください。再診料が76点になっていませんか? つまり1点(10円)多いのです。  実はこの1点は「明細書発行体制等加算」と呼ばれる項目で、診療明細書を出してくれるクリニックが、再診料に上乗せできる項目となっています。「診療明細書代」と思えばいいでしょう。患者負担(3割)に直すと、3円です。  それよりも初診料・再診料で気にしなければいけないのが

          医療費の話(3)時間外等加算と夜間・早朝加算

          血液型と病気(3)抗血液型抗体

           血液型を決めているのは、赤血球の表面を覆っている「血液型糖鎖」、別名「血液型抗原」です。しかしわざわざ「抗原」というからには、何か特別な理由があるのでしょうか。  実は血液中には、今回のタイトルでもある「抗血液型抗体」が溶け込んでいるのです。血液は固形成分(赤血球、白血球、血小板)と液体成分(血漿)に分けることができますが、抗体は血漿中に溶けています。そして血液型がA型のひとは「抗B抗体」、B型のひとは「抗A抗体」、O型のひとはその両方を持っているのです。一方、AB型のひと

          血液型と病気(3)抗血液型抗体

          医学コラム(3)蜂刺傷

           近所のホームセンターのいちばん目立つ棚に「蜂コロリ」「蜂スプレー」など、蜂対策商品が山と積まれていました。ついこの前までは、同じ棚をムカデ対策商品が占めていましたから、お盆を境に、季節が一歩進んだということでしょう。  刺す蜂の代表はスズメバチ、次いでミツバチ、アシナガバチです。なかでも最大最強なのがオオスズメバチ。しかし山野を好むため、都市近郊で見かけることは滅多にありません。  身近にいるのはキイロスズメバチやモンスズメバチです。捨てられた残飯、道端に落ちている菓子やパ

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          医療費の話(2)初診料

           基本診療料には初診料、再診料、入院料などが入ります。このなかで我々にとって最も馴染み深いのが初診料です。病気や怪我で、初めて病院に行くと、必ず付いてくる医療費です。  初めてでなくても、最後の受診からある程度経過すると、初診扱いになることがあります。医療機関によって違うことがありますが、目安としては「3カ月」とされています。  医療費は「保険点数」と呼ばれる点数によって算出されます。通常の保険診療であれば、保険点数「1点10円」として計算されます。初診料は291点、つまり2

          医療費の話(2)初診料

          医学コラム(2)手足口病

          医学コラムの2回目です。だいたい週1回のペースで書いていこうと思っています。 「手足口病が大流行」「大人も感染リスク」といったニュースが大々的に流れたのが7月上旬。しかし8月に入ると、そんな話はパッタリと途絶えてしまいました。どうなったのでしょうか。  手足口病(てあしくちびょう)、英語の「hand, foot and mouth disease:HFMD」のまんまです。子供が夏に罹る病気の代表格で、手の平や足の裏、口内、さらには肘、膝、お尻などに小さな赤い発疹が出現します

          医学コラム(2)手足口病

          血液型と病気(2)血液型の正体

          このコラムでは、血液型と病気について、だいたい週1回のペースで書いていこうと思っています。今回は2回目です。  血液型を決めているのは、赤血球の表面に結合している糖鎖(とうさ)と呼ばれる物質です。A型糖鎖(A抗原とも呼ばれる)、B型糖鎖(B抗原)、H型糖鎖(H抗原)の3種類があります。  まず基本となるのがH抗原で、ガラクトース、N-アセチルグルコサミン、ガラクトース、フコースの順番で、4個の単糖からできています。これにNアセチルガラクトサミンという単糖が結合すると、A抗原

          血液型と病気(2)血液型の正体

          医療費の話(1)医療費の項目

          このコラムでは、病院で払う医療費に関して、できるだけ分かりやすく解説していきます。だいたい週1回のペースで書いていこうと思います。  医療費は、実際に一人の患者に対して行われた診療行為(医療の項目)の単価の積み上げによって計算します。日本では診療行為の一つ一つに単価が決められているので、医療費はその合計ということになります。ただし単価は2年に一度改定されます。また細かい規則が無数に設けられているため、人力で正確な金額を計算するのは、ほとんど不可能です。そのためほとんどの病院

          医療費の話(1)医療費の項目

          血液型と病気(1)血液型の発見

          このコラムでは、血液型と病気について、だいたい週1回のペースで書いていこうと思います。  血液型は1901年に、オーストリアの病理学者だったカール・ラントシュタイナー(Karl Landsteiner)によって発見されました。このひとはウィーンの病理解剖研究所に勤めていたのですが、自分と助手たちの血液を採取し、試験管のなかで混ぜ合わせるという単純な実験を繰り返し行っていました。そして血液には3つのグループがあることに気づき、それらをA型、B型、C型と名付けたのでした。  こ

          血液型と病気(1)血液型の発見