血液型と病気(3)抗血液型抗体
血液型を決めているのは、赤血球の表面を覆っている「血液型糖鎖」、別名「血液型抗原」です。しかしわざわざ「抗原」というからには、何か特別な理由があるのでしょうか。
実は血液中には、今回のタイトルでもある「抗血液型抗体」が溶け込んでいるのです。血液は固形成分(赤血球、白血球、血小板)と液体成分(血漿)に分けることができますが、抗体は血漿中に溶けています。そして血液型がA型のひとは「抗B抗体」、B型のひとは「抗A抗体」、O型のひとはその両方を持っているのです。一方、AB型のひとは、どちらの抗体も持っていません。
この抗体があるため、A型のひとにB型の赤血球を輸血すると、抗原抗体反応が生じて、せっかく入れたB型赤血球が破壊されてしまいます(溶血反応)。同様にB型のひとにA型の赤血球を輸血すると、やはり抗原抗体反応が起こってしまいます。しかしA型(B型)のひとにA型(B型)の赤血球を輸血しても溶血は起こりません。
O型の赤血球には、A抗原もB抗原もないので、A型・B型のひとに輸血しても問題ありません。逆にO型のひとにA型・B型(もちろんAB型も)の赤血球を輸血すると、溶血反応が起こってしまいます。またAB型のひとは、抗A抗体も抗B抗体も持っていないため、すべての血液型を受け入れることができます。
しかしなぜ抗血液型抗体が存在するのか、実はよく分かっていないのです。一般に、抗体は自分以外の異物が体内に入ってきて、はじめて作られるものです。しかも普通は2~3週間かかります。コロナやインフルエンザのワクチンを打って、抗体がある程度十分にできるまで、そのくらいの期間を要します。
ですから、たとえばA型のひとにB型赤血球を輸血したとして、その2~3週間後に抗B抗体ができたというのなら、話は分かります。ところが血液型に関しては、なぜか全員が、自分の血液型以外に対する抗体を持っているのです。そこで「自然にできた」という意味で「自然抗体」という呼び名が与えられています。
しかし最近は、抗血液型抗体は主に「腸内細菌」の刺激によって作られる、という仮説が有力視されています。実は腸内細菌の多くは、その表面にA型・B型血液型糖鎖と同じ(よく似た)糖鎖を持っていることが知られています。その刺激を受けて、血中に自分以外の血液型の抗体が自然に作られるというのです。実際、新生児には抗血液型抗体がありませんが、3~6カ月経つとできてくるのです。