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血液型と病気(5)Rh不適合妊娠

 Rh不適合妊娠は、ABO不適合妊娠よりも深刻です。よく知られているように、Rh式血液型にはRh(+)とRh(ー)の2種類があります。その違いは、赤血球表面にD抗原と呼ばれる物質があるかどうかで、それはRhD遺伝子の有無によって決まります。
 不適合妊娠が生じるのは、母親がRh(ー)で胎児がRh(+)の場合、しかも第2子以降に限られています。不妊や流産のリスクが高まりますし、出産に漕ぎつけても、重い黄疸が起きる場合もあります。
 Rh不適合妊娠は、D抗原とそれに対する抗体(抗D抗体)の免疫反応によって起こります。母体の抗D抗体が胎盤を通して胎児に流れ込み、赤血球を破壊してしまうのです。
 ただしRh(ー)のひとには、自然抗体としての抗D抗体は存在しません。抗D抗体は、第1子の妊娠をきっかけに作られます。
 母親と胎児は胎盤によってつながっていますが、赤血球は胎盤を通れないので、胎児の赤血球が母親側に入り込むことはありません。しかしそのバリアが完璧でないため、しばしば赤血球のリークが生じるのです。とくに妊娠29週目以降にリークが起こりやすくなります。胎児のRh(+)の赤血球が、Rh(ー)の母親に混入するとわけというわけです。
 すると母親の体内で免疫機構が働いて、抗D抗体が作られ始めるのです。ただし抗体が十分にできて胎児を攻撃するより前に、出産を迎えるため、第1子に大きなトラブルは起こりません。また胎盤からの赤血球のリークがなくても、出産時に胎児の血液が母体に流れ込むため、出産後にはほぼ必ず、抗D抗体ができてしまいます。そのため2人目の不適合妊娠では、抗D抗体が胎盤を通して胎児に送り込まれ、流産しやすくなるのです。
 しかし1970年代から「抗Dヒト免疫グロブリン製剤」が使われるようになって、Rh不適合妊娠のリスクはかなり減りました。これは胎児から母体に入ってくるD抗原を、母体の免疫機構が働き始める前に除去してしまう薬です。不適合妊娠の妊婦に対して、ます第28週あたりで打ちます。さらに出産後、数日以内に2回目を打つのです。それによって母体に抗D抗体が作られなくなるため、2人目以降も安心して妊娠できるようになります。
 不適合妊娠は、父親がRh(+)で母親がRh(ー)の場合のみ、起こります。ただし起こらないことがあります。
 人間は染色体を2セットずつ持っているため、RhD遺伝子に関して(++)、(+ー)、(ーー)の3通りの組み合わせが考えられます。父親が(++)で母親が(ーー)なら、子供は(+ー)になりますが、この場合、RhD遺伝子が1本あるので、その働きで血液型はRh(+)になります。
 しかし父親が(+ー)で母親が(ーー)の場合は、子供は2分の1の確率で(ーー)、つまりRh(ー)になるのです。母子ともにRh(ー)ですから、不適合妊娠にはならないわけです。


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