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医療費の話(5)国民皆保険

 日本は「国民皆保険」制度をとっています。つまり、国民(と日本に住んでいる外国人)全員がなんらかの公的な医療保険に加入することが、法律によって義務付けられています。
 よく知られているのが「健康保険」です。会社員のほぼ全員が、これに加入しています。自営業や、会社を退職したひとは「国民健康保険」に入っているはずです。これとは別に、公務員は各種「共済組合」に加入しています。ただし共済組合は、基本的には健康保険と同じと考えて構いません。また75歳の誕生日を迎えると、全員が「後期高齢者医療制度」に異動することになっています。
 つまり国民皆保険制度は、健康保険、国民健康保険、後期高齢者医療制度の3つでできているのです。
 一般に保険とは、裕福な胴元(保険者と呼びます)が、大勢の参加希望者(被保険者)から一定の金銭を集めてプールします。そして被保険者がトラブル(この場合は病気やケガ)を被った場合に、プールした金の中から経済的支援を行うという仕組みです。
 しかし医療保険の場合は、国民全員がどれかの保険に加入しなければなりません。そのため「強制保険」とも呼ばれています。
 その保険者ですが、国が定めたものなので、本来は国であるべきです。しかし実際には、健康保険は多数の健康保険組合(健保組合)が、国民健康保険は市町村(および東京23区)が、後期高齢者医療は「後期高齢者医療広域連合」と呼ばれる組織が保険者になっています。
 健保組合は全国で約1300あり、主に大企業単位や、複数の中堅企業の連合体で組織されています。保険の胴元になるためには、それ相応の加入者が必要です。加入者が少ないと、そのうちの何人かが同時に重病に罹ったら、たちまち貯えが枯渇してしまいます。そのため中小企業は自前の健保組合を組織できず、政府が作った公益法人「全国健康保険協会(協会けんぽ)」に加入することになっています。
 医療保険は、病人が少なくて、しかも十分な保険料を払える健康な加入者が大勢いて、はじめて成立するものです。
 健保組合も協会けんぽも、現役世代(およびその扶養家族)が加入しており、十分な保険料を集めることができ、しかも出費が少ない(病人が少ない)ため、それだけなら医療保険本来の姿を維持することができます。
 一方、国民健康保険の保険者は市町村ですが、加入者の大半は退職者で占められています。だいたい60歳以上75歳未満の、主な収入が年金という人たちです。高い保険料を徴収することができず、しかも病人が後を絶ちません。そのため国民健康保険は、保険としての仕組みが財政的に成り立たなくなっています。後期高齢者医療制度になると、もっと成り立たないことは、誰の目にも明らかでしょう。
 それをどうするかが日本の医療が抱える大問題であり、世代間の格差や摩擦の原因のひとつにもなっているわけです。


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