血液型と病気(4)ABO不適合妊娠
A型のひとの血液中には抗B抗体、B型の血液には抗A抗体、O型はその両方を持っています。そのため輸血の際に組み合わせを間違えると「ABO不適合輸血」となり、溶血(抗体の攻撃を受けて赤血球が溶けてしまう現象)やその他のトラブルが生じてしまいます。
しかしここで気になるのが妊娠です。
たとえばO型の女性がA型の子(この場合、遺伝子的にはAO型になります)を妊娠したとしましょう。母体と胎児は胎盤で隔てられているので、双方の赤血球が混ざることはありません。しかし母親は抗A抗体を持っています。抗体はタンパク質分子なので、胎盤を通過して、胎児に流れ込むのです。それが胎児の赤血球を攻撃するため、胎児側で溶血が起こってしまいます。輸血と逆方向ですが、理屈は同じです。
これが「ABO不適合妊娠」で、実際に胎児が貧血気味(新生児溶血性貧血)になることが知られています。該当するのは、次の組み合わせです。
母親 胎児
O型 A型、B型
A型 B型、AB型
B型 A型、AB型
ただし母親がO型の場合がとくに多く、A型やB型なら、ほとんど心配は要りません。なおO型の母親にAB型の胎児が宿ることはありません。またA型やB型の母親にO型の子ができることはありますが(たとえば母親がAO型で父親がOO型)、O型の子の赤血球にはA抗原もB抗原もないので問題ありません。
逆に胎児の血液が母体に流れ込んで、母体側でも溶血が起こるのでは、と思うかもしれません。しかし胎児には、まだ抗A抗体や抗B抗体はありません。生まれて数カ月経たないと出てこないので、母親側に問題が生じることはありません。
ABO不適合妊娠で、胎児に深刻な問題が生じることは少ないですが、なかには重症化して、黄疸(新生児溶血性黄疸)の症状が現れることもあります。全新生児の0.1パーセント未満と言われています。
これは赤血球が破壊されてできる「ビリルビン」と呼ばれる黄色い色素によるもので、放っておくと発育障害などを引き起こす可能性があります。そのためすぐに保育器に入れられて、治療が施されます。
20世紀には、胎児の健康に影響があるという理由から、ABO不適合妊娠が不妊の原因のひとつではないか、と考えられていました。しかし世界中で多くの研究が行われた結果、少なくとも「不妊の重要な原因ではない」ことが確かめられています。実際、ABO不適合妊娠が直接の原因と思われる流産や不妊は、ほとんど確認されていません。また母親のつわりの原因ではないか、というひともいますが、それを裏付けるような医学的根拠はありません。
いずれにせよABO不適合妊娠と分かれば、産科医たちは慎重に経過を見守ります。これから子供を持ちたいというひとは、血液型の組み合わせを、あまり心配する必要はないでしょう。