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デニーズに入ったらお客様アンケートが最高だった話

2020年の年末にデニーズを利用したところ、レシートに「メニューアンケートにご協力ください」との記載があることに気づきました。ふつうの感覚だと「こういうのやる人いるのかな?」と廃棄スルーするかもしれませんが、そこは私の職業病です笑。

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このメニューアンケートの出来が最高でした!飲食店が行うお客様アンケートを成功させる、ただひとつの重要なポイントを見事に押さえているのです。それは何かと言えば――「アンケートの設計段階でお客様の状況を理解している」ことなのです。

「お客様を理解するために→アンケートを実施するのでは?(設計段階ではわかりようもないのだから)」と思ったかもしれません。実はこれ、順序が逆なのです。アンケートでは、「設計段階から」ある程度お客様の状況を理解していることが重要です。

飲食店が行うアンケートは、ほとんどのケースで「味・値段・接客」の評価を総合的に問う内容から出来ています。一見、お客様の状況を踏まえた設計のように見えますが、このような紋切り型の質問で埋まる項目には、ほとんどお客様理解が入っていません。

テンプレートで固めた質問の結果がどうなるかというと、「安さ・速さ・旨さ」の改善を"示唆"するデータが出てきます。皆が吉野家を目指しているわけではないので、これではデータを持て余してしまい、惰性で何となく定期的に取りためる運用に落ち着いてゆきます。

これに対してデニーズのものは、お客様理解をふんだんに盛り込んだ内容になっています。アンケートを成功させるカギを握る「お客様理解」とは何なのか?この記事ではデニーズのメニューアンケートを通じて学んでいきましょう。

※ちなみにレジ横には、いわゆる一般的なお客様アンケートハガキも存在していますが、今回取り上げるのは「メニューアンケート」の方になります。

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▼ デニーズ式の選択肢設計(注文理由)

デニーズのアンケート全体は、「おすすめフェア」と「ゴディバコラボスイーツ」のそれぞれについて、「注文有無→種類→注文理由→満足度→非注文理由」を問う内容で構成されています。

質問の並びはいたってベーシックなものですが、注目したいのが、「注文理由」と「非注文理由」の「選択肢設計」です。この2つにお客様理解がよく表れています。順に見ていきましょう。

おすすめフェアの「注文理由」

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フェアの注文理由

●おすすめフェアの「注文理由」(解説)
A「見た目に魅力を感じた」/「値段が手頃だから」/「パスタが好きだから」/「SNSにのせたいから」
→飲食店アンケートでは一般的な注文理由
B「以前食べて美味しかったから」/「組み合わせて食べたかったから」/「セットがあったから」
→日常生活での利用・複数品目オーダーが多いファミレス業態らしい注文理由
C「季節感を感じたから」/「新しいメニューだから」/「魚介類の素材に惹かれた」
→食の意識が高めの人を想定している(であろう)注文理由

メニューの注文理由には様々な要素が考えられます。多くのアンケートではAにあるような一般的な項目群だけで構成されています。しかしデニーズではB・Cにあるように、ファミレスらしい客の利用法や、カフェを上回るレストラン利用としての価値を問う選択肢を設けています。

これは設計時点で客にとってのお店の利用価値を理解していることの現れに他なりません。「ファミレスならでは、自店ならでは」の注文理由を追求しているので、回答データが画一的になる可能性は低く、データをもとにさらなるお客様理解に励むことができます。

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▼ デニーズ式の選択肢設計(非注文理由)

ゴディバコラボスイーツの「非注文理由」

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4.ゴディバ非注文理由

●ゴディバコラボスイーツの「非注文理由」(解説)
A「チョコスイーツが魅力的でない」
→飲食店アンケートでは一般的な非注文理由
B「料理の価格が高いから」/「デザートの価格が高いから」
→ファミレス業態ならではのトータルでのオーダーに重きを置いた非注文理由
C「料理でおなかいっぱい」/「他のデザートを頼んだから」
→直接的にゴディバスイーツの可否を問う以外の外的要因に基づく非注文理由

メニューの非注文理由を探るにあたり、店が推しているメニューについて、Aや総合的なBのように、単に「興味が無い」「価格が高い」という結論を見出しても無意味です。なぜなら、ゴディバとの取り組みを行う限り、「チョコは嫌い」「高級ブランドへの憧れは無い」という人も一定数見込まれる中で行うものだからです。

ここでは、品目としてのスイーツを提案するにあたり、Bは客単価、Cは注文量の観点から、「店はトータルでどんな体験を提供すれば客に喜ばれるか(ちょうどいいのか)」を検証する選択肢構成になっています。食前あるいは食後のお客様の状況を想像し、それに合った選択肢を用意して、店での飲食体験全体を捉えようとしています。


このように、デニーズのアンケートには、「食べる前・食べた後のお客様の状況」が反映されており、その点において「お客様理解が深い」つくりになっています。この設計であれば、調査対象のメニューはもちろん、レストランサービス全体について改善示唆を得ることができるでしょう。

アンケートは極論すると誰でもつくることができます。会社の新人や調査会社に丸投げすることもできます。ただ、お客様特性を知っているのは、日々の運営に携わるスタッフ自身です。アンケートはテンプレートではなく、常に案件ごとにオーダーメイドでつくる必要性がここにあります。

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▼ デニーズの体験デザイン

デニーズのアンケートにはもうひとつ見どころがあります。注文有無を尋ねる手前で、「おすすめフェアの印象」を全員に尋ねているところです。これで「何かを食べた・食べなかった」体験だけでなく、広くフェア自体の印象も集めることができます。

フェアの印象

日頃アンケートの設計に携わっている人からすると、「当たり前の作成手順」のように感じるかもしれません。ただここもきちんと、「お客様に店で体験してもらう出来事に沿って質問が用意されている」ところがポイントです。どういうことかというと…

●デニーズの店舗オペレーション
・入店~着席まで→「おすすめフェア」と「ゴディバコラボスイーツ」の壁面ポスター・タペストリーを見ながら店内を移動する。
・着席時→テーブルには「おすすめフェア」と「ゴディバコラボスイーツ」のメニュー表がセットされている。(グランドメニューはテーブル横に立て掛けられている)
・オーダー時→必要に応じて「おすすめフェア」と「ゴディバコラボスイーツ」について接客スタッフから説明を受けられる。(店のおすすめを尋ねる客も少なくない)

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アンケートの質問は、こうした一連の店舗オペレーションと連動する設計になっています。「フェアの印象」は、文字通り誰でも答えられるわけではなく、フェア内容を目にしている人だけが回答資格を持ちます。来店客全員への質問が成り立つのは、上記のような店舗内での体験設計によるものです。

残念ながら多くの飲食店アンケートではこのようになっておらず、「食べたものとその感想」だけを直接的に尋ねて終わっています。飲食体験全体の中でも「喫食行為」だけを取り出して尋ねているので、「回答者の個別性が高く、使えないデータ」と見なされる要因になっているのです。

前項で解説した選択肢設計同様、日頃のお客様理解を通じて、「実際の体験」と「調査の質問」を断絶させない設計が可能になります。それには、事業会社のスタッフと調査会社のスタッフの知恵と情報の出し合いが必要であり、双方の専門性によって調査票が高められていきます。

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▼ 飲食業界のビジネス特性

せっかくなのでファミレスに限らず、飲食業界でお客様アンケートを行う時のコツについても触れておきましょう。以下、レストラン・カフェ・専門店・居酒屋・料亭・バー・飲食メディアなどの運営に携わる皆さんにとって何か参考になる情報があれば幸いです。

もともとアンケートをつくるうえでは、業界のビジネス特性を把握しているほど的を得た設計が可能になります。そして業界の特性とは、他業界との比較により初めて知ることができます。あらためて飲食業界のビジネス特性をまとめると、以下のようになります。

飲食業界のビジネス特性
①常に新しいお客様を集客し続ける必要がある
②閑散期・閑散時間帯へのケアが必要

①常に新しいお客様を集客し続ける必要がある

飲食業界は新規のお客様を獲得し続けなければいけない宿命を持っています。この条件はどのサービス業も同じではありますが、飲食は特に下記のような競争を強いられています。

・お客様の食べたいものは日々変わる。
・店の数が多く、店の種類も様々。お客様にとって代替選択肢が豊富。
・エリアで店の知名度が上がるまでに時間がかかる。
・場合によっては立地ですべて決まってしまう。

②閑散期・閑散時間帯へのケアが必要

飲食業界は、高頻度で常時ニーズがある代わりに、閑散期・閑散時間帯が発生しやすいことも特徴です。特に立地の影響を受ける形で、平日・休日、あるいは、日中・夜間で客の入りが芳しくない時間帯が生じます。

上記の①②を改善していくヒントは、デニーズのアンケートが指し示す通り、お客様の利用目的を把握し、それに合わせたメニュー提案を考えていくことがセオリーです。

「お客様の利用目的」とは、「ふだんの食事、飲み会、デート」など、生活シーンに合わせた食事の用途です。ここを理解することがまず基本になります。

しかし、「こんなシーンにお使いいただけます」とだけ無難に店の営業情報を発信していても、近くで用事のある人にしか利用してもらえず、客層が広がっていきません。利用客へのリーチを増やすには、あえて自店を選んでもらう「判断材料」の発信が重要になります。

そのカギとなるものが「メニュー提案」です。「肉・ラーメン・パフェ」など、具体的な品目を通じて、食欲を喚起する商品開発と広告・宣伝を行っていきます。

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▼ 飲食店アンケート分析のポイント

前項のような飲食業界のビジネス特性を踏まえて、アンケートの回答データが整った後は、どのような観点から分析するとよいか、私が飲食店のアンケートを分析する時にポイントを以下に記載します。

飲食店アンケート分析のポイント
①性別情報
②利用シーン
③世帯年収

①性別情報

性別情報は、他ジャンルでは徐々に情報の意味合いが薄れてはいるもの、こと飲食店アンケートにおいては、統計上かなり意味のある分類方法になっています。

たとえば、女性は、ランチ・カフェ利用が多い、女子会イベントを行うといった傾向があり、男性は、飲み会の幹事利用が多い、記念日・デート利用が多いといった傾向があります。性別情報は、生活習慣や行動特性に大きな影響を及ぼしています。

②利用シーン

利用シーンとは、前述の「飲み会・デート・食事会」などを指しており、誘う側なのか誘われる側なのか、あるいは一人利用なのか、お客様自身の「立場」を理解するのに有効です。

デニーズのアンケートでも、「以前食べて美味しかったから」「組み合わせて食べたかったから」など、ファミレスならではの注文理由を模索する選択肢項目が見られたように、利用シーンに沿って自店のジャンル特性を活かすアプローチを考えるのに役立ちます。

③世帯年収

世帯年収は、客にとっては利用する店のクラス感を決める要因になりますが、これを店を運営する側から見ると、理想的な平均客単価を類推しつつ、メニュー単価を左右する食材の質やドリンクの質を決める手がかりになります。

もちろん実際の各種単価はPOS(売上管理システム)が示す通りですが、アンケートデータは自店や自社グループに限らない、市場一般との傾向の一致や相違を知るのに便利です。

ご覧いただいたように、飲食業界はベーシックな基本属性に沿って傾向を見ていけば大丈夫です。他業界はもう少し関心・志向に応じた観点で分析する必要があるのですが、飲食業界は客の基本属性そのものが、メニュー・雰囲気・料金・立地など、店の構成要件のすべてに関わってきます。

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私は「飲食メディア」を運営する立場から調査に携わっているのですが、「飲食店+飲食メディア」を運営するfavyのしげさんの記事は、さらに当事者性を増した内容なので、併せてご覧になってみてください。

この記事の予告ツイートをしたら、グルメなマーケター・三船さんが、昨夏「夜デニセット」について、常連向けに紙アンケートがあった体験について教えてくださいました!


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▼ まとめ

1.デニーズ式の選択肢設計
・食べる前、食べた後のお客様の状況を想定して、注文理由・非注文理由の選択肢を用意する
→メニューを核にレストランサービス全体の改善示唆を得ることができる

2.デニーズの体験デザイン
・全員が共通の質問に回答できるよう、店舗内における体験を設計する
→来店客から直接の喫食メニュー以外の意見も集めて、運営に役立てる

3.飲食業界のビジネス特性
①常に新しいお客様を集客し続ける必要がある
②閑散期・閑散時間帯へのケアが必要
→お客様の「利用目的」を把握し、それに合わせた「メニュー提案」を考えていく

4.飲食店アンケート分析のポイント
①性別情報→お客様の生活習慣や行動特性を理解する
②利用シーン→お客様の立場と自社業態の特性をマッチさせる
③世帯年収→客単価・メニュー単価を決める手がかりになる

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▼ 新刊書籍発売と出演イベントのお知らせ

この記事では「アンケートをどうつくるか?」をテーマにして書きましたが、12月発売の新刊『新・箇条書き思考』では、さらに「得たデータや情報を文章(箇条書き)を使って端的にまとめるコツ」を紹介しています。

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▼書く×聴く×知る リサーチャー著者×ウェブ編集者×インハウスエディター

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菅原大介|リサーチャー
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