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人気雑誌の媒体資料に学ぶ、独自性と差別化の表現力

マーケティングの仕事に携わっていると、「ユーザープロファイル」をまとめる機会が定期的にやってきます。自社の「ユーザープロファイル」は、サービスの顔となる重要データであり、会社概要や媒体資料の目玉コンテンツでもあります。

ところが、いざ自社のデータ分析を始めてみると、「性年代以外の特色が無い…?」「思ったような特徴が出ない!」という事態に陥ることが少なくありません。いかにデータ作成・資料作成が自分の仕事であっても何ともしがたい事態です。

さらに直近のコロナ禍では、事業サイドで「売上実績の急成長」をアピールしづらくなっており、なおさら「ユーザープロファイル」にかかる期待は高く、担当者には「『独自性』と『差別化』を出す表現力」を磨くことが求められています。

そこで参考にしたいのが、「雑誌の媒体資料」です。雑誌は読者のターゲットセグメントが細かく、誌面では同じような物品を取り扱いながらも、他誌との違いを強調する工夫に優れています。その成果が詰まっているのが媒体資料なのです。

中でも、独自性と差別化の表現力を兼ね備えているのが、『mina』『婦人画報』『JJ』です。この記事では、各誌が広告ターゲットとしての読者及び誌面コンテンツをどのように魅力的に紹介しているか、三者三様の手法を解説していきます。

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▼ 『mina』

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★コンセプトでライフスタイル像を規定する

『mina』というと、カジュアル・ストリート路線を得意とするファッション誌の印象が強い方が多いかもしれませんが、実はここ2年くらいでガラッと様変わりしていて、「ファッション+ライフスタイル誌」にリニューアルしています。

このことを先日Twitterでつぶやいたら、「むかし読んでたけど知らなかった!」「今の感じにすごく共感できる!」など、いろいろな方から反応をいただきました。他にも有名な雑誌がある中、中身が注目されていることがわかります。

高い注目を集めている理由は、媒体資料を見ると明らかです。

『mina』媒体資料
https://yuzutsu.com/mina-docs/

『mina』は、「コンセプトでライフスタイル像を規定する」ことに優れています。コンセプトを支えている要素を順に見ていきましょう。

①Over26歳
・Around25歳→見た目重視、トレンド重視
・Over26歳→ライフスタイル重視、こだわり重視

mina1-2_Over26歳

女性ファッション誌は、年齢セグメントの刻みが細かいことでよく知られています。20代向けの雑誌では、25歳・27~28歳を読者設定にしていることが多く、そんな中で、『mina』は(Over)26歳設定なので、かなり異色の存在です。

他誌とは上下わずか1歳の差なのですが、単にエアポケットを狙っているのではなく、資料では「26歳こそ外面も内面も大きく変化する齢」と説明されており、前述のTwitter上でもこのヨミの的確さに多くの共感が集まっていました。

②週末女子
・ウォーミングアップの金曜夜
・アクティブにすごす土曜日
・チャージの日曜日

mina1-3_コンテンツ

『mina』は生活シーンを週末に定めています。「週末こそがこだわりを出せる場面」であることを突き止め、読者が「お金と時間をかける対象」を定義しています。ファッションの企画なら、「土曜日の着こなし・日曜日の着こなし」のように。

生活シーンを限定する設定は編集的に不利です。「着回し」や「通勤着」といった20代向けの定番企画が成り立たなくなります。でもこの制限こそ、徹底的に週末の生活を深堀りして見せる源になっていて、誌面に独特の個性をもたらしています。

③読者像
・優先順位は食・住・衣。
・肌にいい、体にいい、にはお金をかける。
・土日は、1日チャージ、1日アクティブ。

mina1-4_ペルソナ

読者像のページからは、読者のライフスタイルへの判断基準がシンプルに伝わってきます。本誌を見ると、巻頭はファッション誌の見え方をしているのに、途中から食の情報(飲食店・食雑貨・料理)が充実してくるあたりは、この優先順位を見ると納得です。


上記を踏まえてあらためて誌面を見直すと、漂ってくるのは良い意味での「生活感」です。『mina』の写真カットには、ベランダで過ごしたり近所にお出かけするカットが頻繁に出てきます。それでもオシャレに見えるのは、「こだわり」があるから。

『mina』では毎号「mina総研」というアンケートコーナーをレギュラー記事化しているくらい、リサーチにとても力を入れています。奇をてらわず、26歳女性のライフスタイルを丁寧に見続けることで、独自性と差別化の表現力を生み出しているのです。

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▼ 『婦人画報』

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★アンケートから読者の特異ステータスを導き出す

企業で媒体資料がつくられる時、できるだけ「ハイエンドなユーザープロファイル」をつくって尖らせようとする習性があります。極端な状況を言えば、「医者層にリーチできる」「車・ゴルフ会員権を売れる」のような、ステータスを明らかにする試みです。

しかしこの方向性は、最終的に没個性につながります。アプローチできるリーチ層が狭く先細るうえ、「高いものが売れればOK」という思想により、取り扱う商材がどんどん狭まっていくからです。この状況を回避するには、どんな試みが有効なのでしょうか?

解決のヒントをくれるのが『婦人画報』です。本誌の見出しには、「高級宿・避暑旅・クルージング・着物・歌舞伎」など上級志向の話題が並び、一見お金持ちのためだけの狭い内容に見えますが、媒体資料を見ると、広く通じる世界観の工夫が見て取れます。

『婦人画報』媒体資料
https://www.hearst.co.jp/brands/fujingaho/media_kit_print

『婦人画報』では、アンケートを元にした読者プロファイルを公開しています。媒体資料に自社調べのアンケートデータを掲載する手法はよく使われますが、『婦人画報』の媒体資料は、読者ステータスがよく工夫されています。

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まず目につくのは、世帯年収・資産総額・配偶者の職業・別荘所有率・輸入者所有率などの「経済的ステータス」を表す定番項目です。

・世帯年収平均(1483万円)
・お小遣い平均(82,000円)
・オール電化住宅(20.2%)
・別荘・リゾートマンション所有(15.3%)
・輸入車所有(30.6%)

でもこの情報だけだと、営業用のデータとしては良くても、いかにも「お金持ち」の感じが出て、少し鼻につく印象を与えてしまいます。そこで注目したいのが、「社交性・教養・伝統美」と結びつく次のような項目です。

・趣味や余暇:歌舞伎鑑賞、茶道、フラワーアレンジメント
・きもの予算100万円以上(20.3%)パーティーに招待される機会が多い
・オーダージュエリー注文経験(9.4%)母娘で使用できる直しの依頼も

これらの情報は、単なる経済的ステータスではなく、「意思のある消費」を表し、洗練された印象をもたらします。これにより資料中に「知的でアクティブ」と表現される通り、他誌では真似できない『婦人画報』の独自性が引き出されています。

冒頭に指摘した「ただのお金持ち見え」を避けるには、経済的ステータスのファクトだけに頼らず、お客様・ユーザー本位の価値観や志向性をリサーチすることが重要です。そうすれば、リーチを広く保ち、永くリピートもされる提案ができます。

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▼ 『JJ』

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★決めたトレンドワードを軸にコンテンツを展開する

SNS・動画を絡めたメディアパワーをウリにしていきたい場合は、どうするとよいでしょうか。通常の媒体資料では、「フォロワー数・チャンネル登録者数・投稿インプレッション」など、ユーザーのアクティブ状況・発信力をアピールするのが一般的です。

この点、雑誌はもともと広告収入の獲得に力を入れており、近年は他のウェブメディアと変わらぬSNSパワーをアピールしています。そんな中、ひと際存在感を放っているのが『JJ』です。最新媒体資料を通じて、独自性・差別化の表現を見ていきましょう。

『JJ』媒体資料
https://www3.kobunsha.com/ad/jj/baitai/index.html

『JJ』の媒体資料冒頭には、読者調査を元にしたキーワードがズラリと並びます。

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このうち、「筋トレ」「スニーカー」「韓国」などは近年の傾向で、ここ1~2年の誌面によく出てくるキーワードです。一方、「美人っぽい」「女子大生」「育ちがいい」などのキーワードは、今のママ世代にも通じる『JJ』伝統のキーワードです。

これを基にした本誌特集は次のようなラインナップに。

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選別されたトレンドワードを軸に、読者の興味関心を可視化した企画になっていることがわかります。

SNS展開も同様で、各SNSアカウントで使われるハッシュタグは、トレンドを盛りつつ「JJらしさ」が感じられるようなワーディングになっています。

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ポイントは、すべてのトレンドに乗っているわけではないこと。読者ベースの企画は共感を得やすい一方、委ねすぎると流行に同質化していきます。すると、メディアとしてのアイデンティティは見えづらくなるリスクを負います。

『JJ』では、「カワイイより美人っぽい」に代表されるように、「『Aである』と同時に、『Bではない』」というスタンスをハッキリさせています。私たちが誌面から「いかにもJJ!」という独自の空気を感じるのはこうした理由からです。

さらに最近注目したいのが、公式YouTubeチャンネルの存在です。
https://www.youtube.com/channel/UC3dH_0X6Uwu5Yy3tZLEm_aQ/featured

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YouTubeチャンネルでは、「新作コスメ&ファッションレビュー」「専属モデルによるメイク解説動画」など、いかにも動画らしいコンテンツが公開されています。これもやはり、コスメ・メイクといった強化キーワードに沿った展開です。

実は雑誌の公式チャンネルは、「撮影のオフショット」をメインとする「本誌のおまけ的な存在」になっていることがほとんどなのですが、『JJ』はモデルをライバーのように出演して見せるなど、動画媒体に合わせた切り口がユニークです。

この結果、2020年7月末開設~1ヵ月でチャンネル登録者数は約1万人。数年前から開設している他誌でもこの数字には遠く及ばないことから、決めたトレンドワードを軸にコンテンツを展開する『JJ』の勢い・スピード感が伝わって来きます。

残念ながら月刊での定期刊行は終了という発表が出ましたが、本当に伝統に加えて個性のある素晴らしい雑誌でした。SNSは続くようなので、今後も注目したいです。

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▼ まとめ


<人気雑誌の媒体資料に学ぶ、独自性と差別化の表現力>

『mina』→コンセプトでライフスタイル像を規定する
『婦人画報』→アンケートから読者の特異ステータスを導き出す
『JJ』→決めたトレンドワードを軸にコンテンツを展開する

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菅原大介|リサーチャー
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