![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/161941422/rectangle_large_type_2_d9b83d6d1acbff950d6669c4e83e4938.jpeg?width=1200)
digzymeメンバーの希少価値の高さに迫る!彦有さんが目指す“WET &DRY二刀流の人材育成“と『夏休みの課外学習プログラム』!?
株式会社digzymeの社員インタビューコンテンツ『digzyme Deep Dive』。
今回もインフォマティクススペシャリストの鈴木 彦有 さんへのインタビューです。
前編、中編とインタビューを進めてきましたが、生命科学、情報科学、両方にとても詳しい彦有さん。後編ではまず、大学時代のお話を伺いました。
(※記事中の組織名・役職等はすべて取材時のものです。なお、鈴木彦有さんは社内で下のお名前で呼ばれているので、今回の記事内でも呼称を『彦有さん』とさせていただいております。)
ーー大学ではどのようなことを専門になされていたのでしょうか?
改めてお聞きしても良いですか。
学生時代は、東京工業大学(現・東京科学大学)の岡田典弘先生(東京工業大学名誉教授)と二階堂雅人先生(東京科学大学准教授)のもとで、進化についての研究を行っていました。
具体的には生物の遺伝子やタンパク質といった分子レベルのデータを使って、異なる生物間で遺伝子の進化的な系統関係を調べたり、そこから発展して遺伝子がどのように進化するか、また祖先の生物が持っていた遺伝子の機能を考察したりしていました。
僕が配属された当時、岡田研究室では東アフリカの三大湖(ビクトリア湖、マラウィ湖、タンガニイカ湖)に生息するカワスズメ科の淡水魚(シクリッド)に着目していたのですが、この魚は形態的・生態的に多様性に富んでおり、それぞれの湖に固有の種が数多く生息していることから生物進化や種分化(生物の種が分かれていくこと)を考える上でのモデルとして世界的にも研究対象になっていました。シクリッドが種分化を繰り返しながら莫大な多様性を獲得するに至った過程について、遺伝子から説明しようというチャレンジな研究が、研究室の内外で精力的に進められていたんですね。
この頃、同じく岡田研にいらっしゃった寺井洋平先生(総合研究大学院大学准教授)らのチームが行ったシクリッドの視覚関連遺伝子に関する研究などから、感覚に関係した遺伝子が先に進化することで種分化が促進されるという感覚駆動(sensory drive)仮説が提唱されており、これを受けて視覚以外の他の感覚についても感覚駆動仮説を検証しようと、二階堂先生のチームでは嗅覚に着目した研究を進めていました。
僕はそのなかでも特に、外界にある様々な匂いの物質をキャッチしてその刺激を細胞に伝えている嗅覚受容体遺伝子に着目し、その進化について調べていましたね。
魚の鼻の穴を切り開くと、嗅房(olfactory rosette)と呼ばれるひだが沢山ある花びらのような構造体を肉眼でも見ることができるのですが、実はそこに匂いを感じる嗅神経細胞が多数集まっていて、魚が水の中の匂いを感じるための器官となっています。
これらの嗅神経細胞は一つ一つが別々の嗅覚受容体遺伝子を発現していると考えられているのですが、多数の嗅覚受容体遺伝子を分子系統学的に分類し、系統ごとに発現している嗅神経細胞を可視化したり、嗅覚受容体遺伝子以外にも嗅神経細胞に発現する嗅覚マーカータンパク質を使って、それらが発現している嗅神経細胞を可視化するといったWET実験に取り組んでいました。
そういったことに取り組むうちに、シクリッドに関する研究テーマからは少し離れて嗅覚受容体遺伝子や嗅覚関連遺伝子そのものの進化を調べていく方向に研究がシフトしていった感じです。
いくつか研究成果を紹介させていただきますと、ゲノムデータの解析から多くの脊椎動物は1つしか持たない嗅覚マーカータンパク質の遺伝子を真骨魚類は2つ持つことを二階堂先生が発見していたのですが、僕がその2つの遺伝子の発現を細かく調べたところ、それぞれ発現している嗅神経細胞が異なっており、さらに1つは嗅神経細胞以外に目の中の網膜の水平細胞にも発現していることが明らかになりました。
それまで嗅神経細胞のみに固有の発現を示すと思われていた遺伝子が、実は網膜の神経細胞でも使われていることがわかったのは面白いと思います。
また、シーラカンスのゲノムデータの解析に取り組んだ際、従来は陸上動物型と考えられていた嗅覚受容体遺伝子のいくつかの系統群について、実はシーラカンスやポリプテルスといったいわゆる「古代魚」と呼ばれる古いタイプの魚類にも数十個程度は存在することや、古代魚を含めた脊椎動物全般が保持している未知のⅠ型フェロモン受容体遺伝子(ancV1R)を発見したりもしました。
ancV1Rの発見については論文が出版された際、東工大のプレスリリースでも公表させて頂きまして、自分の中で特に思い入れのある研究です。
![](https://assets.st-note.com/img/1731659064-WMkADdlsvCmNKUF6wbP0qupB.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1731659145-2pLaXMOHPNg3StvcskinRb5B.jpg?width=1200)
そんななか、あるときから次世代シーケンサー(数千億から1兆にまでのぼるDNAの塩基配列を短時間で解読する装置)から出力されるデータを用いた解析も行うようになりました。それにはいくつかきっかけがあったのですが。
もともと僕がいた岡田研はゲノムや個々の遺伝子の 配列を調べる解析を用いることが多く、バイオインフォマティクスを独学で学んで研究に使っている助教の先生やポスドクの先輩も何人かいらっしゃったので、じゃあ僕もちょっとやってみよう、と。
ーー独学で。
はい。コンピュータのプログラミングは、小さい頃に『BASIC』を遊びで触っていた経験もあったので、文法が似ているプログラミング言語のPerlを使い始めました。今ではあまり使われなくなってしまった言語ですが、当時はWebアプリケーション開発でもよく使われていて、文字列処理を得意とする言語ということもあり、塩基やアミノ酸の配列データ主に扱うバイオインフォマティクスにはうってつけでした。
そういうことをしているうちに、研究室では「バイオインフォマティクスができる学生」として認識されていきました。
その後、長谷部光泰先生(基礎生物学研究所教授)を代表とする「複合適応形質進化の遺伝子基盤解明」(2010年度から2015年度まで)という文部科学省の新学術領域研究公募テーマに岡田研が提案した課題が採択されまして、その際「バイオインフォマティクスができる学生」として岡田先生や二階堂先生の推薦もあって、ありがたいことに僕も参加させて頂けることになりました。
このプロジェクトは、当時普及し始めていた次世代シーケンサーを積極的に用いてゲノムやトランスクリプトームといったバイオのビッグデータを実際に取得して活用することで、あらゆる生物の複雑な進化現象の一端を解き明かそうというチャレンジングなテーマに挑戦するものでした。
それとともに、僕のような若手研究者に次世代シーケンサーのデータを扱うノウハウも含めたバイオインフォマティクスの技術を教授するといった教育的な側面もあったと思います。
実際、このプロジェクトに参加させて頂いたおかげで、これらの経験やスキルを積むことができましたし、それが前職そしてdigzymeの仕事でも活かされていると思います。
ーーなるほど。詳しく教えていただきありがとうございます。
WET,DRY両方に深く関わってこられた彦有さんですが、digzymeのなかでは今後どのようなことにチャレンジしていきたいですか?
まさに、WET &DRY二刀流の人材育成ですね。
WET側がDRYを知ることで研究の速度が向上したり、DRY側がWETを知っていることで生命科学の現場に合った開発ができるようになると期待されます。
実は前職でも、バイオインフォマティクスの解析技術のハンズオンセミナーに講師として呼ばれて、企業やアカデミアの方に向けての技術解説をしていた経験があるので。
digzymeでも社内セミナーのようなものができたらいいなというイメージを持っています。
ーー社内セミナー、いいですね!
はい。IDEを作ったのも布石になっています。
もちろんIDEを使用するだけではあまりノウハウにはなりませんが、今後はWETの新人さんが入社したタイミングで、ファーストステップとしての『IDEを用いた解析をやってみよう!』というようなセミナーも開けたらな、と。
このあたりはCTOの中村さんとも相談して進めていけたらなと考えています。
ーーDRYの技術者にバイオ出身者が多いdigzymeだからこそできる教育ですね。そういった意味でも人材の揃い方は希少価値が高いですよね。
そうなんです。
digzymeはむしろ、純粋な情報科学の人は採用していないんです。
なぜならそれだと『酵素』の開発はできないから。
渡来さん、中村さん、。田村さん、僕、みんなバイオに関係する分野をバックグラウンドとしており、バイオ側から情報科学の知識を仕入れていった経験があります。
WETの皆さんはもちろん、今バイオの領域にいらっしゃるわけですから、
僕らのようにバイオ側から情報科学を取り込むという方向性に進むことが可能ですし、その育成ができるのがdigzymeだと思っています。
ーーなるほど。
本来こういった人材育成は日本の国策としても必要なので、業界全体で解決すべき内容だと僕は考えています。
ですが、現実的に、WET出身者がDRYの技術を学ぶのって結構大変なんですよね。
一番の理由は、必要に迫られる機会が少ないからだと感じており、それこそdigzymeのように『バイオと情報科学両方がわかっていないと、開発が進まない環境』にでもいない限りなかなか難しいはずです。
ーー環境に左右されやすい?
といった側面もあります。
むしろ実験中心の研究室だと、実験もせずにパソコンに向かってカタカタしているだけだと遊んでいると見なされるというような話も聞いたことがありますし。
でも実際は、情報科学の人があえてバイオを勉強しないのはわかるんですけど、バイオの人は本当は情報科学とは切り離せないんですよ。
次世代シーケンサーで大量に配列を読むことが当たり前の時代になったので
いつまでもそれを避けているというのは、バイオの研究において
ディスアドバンテージでしかないんです。
DRY部分は共同研究先にお任せすればいいという考えもありますが、そうするとバイオインフォマティクスができる先生方がとても忙しくなってしまうので(笑)
アカデミアでも本当は、各研究室でその生物を研究している方が自らDRY解析もできた方がいいと思っているのですが、これについては先ほどもお話しした進学術領域研究でコアメンバーだった先生方も当時から同じような理想を掲げておられたと思いますし、CEOの渡来さんも同じ意見だと思います。
ーー実現したら、未来を切り開くことができる技術革新の担い手が増えそうです。digzymeを起点に広がる希望が見えてきたところで、
残り2つだけ、質問をさせてください!まず余暇の過ごし方や趣味などがあれば教えて欲しいです。
余暇は家族と過ごしていることが多いです。
今年の夏は有給を使って、息子が通っている小学校の『夏休みの課外学習プログラム』に参加しました。
ーー彦有さんは、お父さんですものね!『夏休みの課外学習プログラム』どんなものだったのでしょうか?
地域の方や保護者の方が、学校教育外のことを子供達に教えるプログラムだったのですが、僕は『はじめてのバイオインフォマティクス』という演題で講座を開きました。
振り返ると内容が高校生向けくらいになってしまったような気もしますが(笑)これもある意味人材育成をしたいということに対する、自分なりの行動です。
ーー休暇中も技術者教育について考えて行動なさること、尊敬です。。。
そんな彦有さんですが、ここ最近の趣味や癒しがあれば教えてください!
最近は、世界的VTuberのがうる・ぐらさん(サメちゃん)の過去動画を見て癒されつつ、ネイティブの英語の発音を聞く機会を増やそうとしています。流暢に日本語を喋っていることも多い方なのですが。
ーー調べてみたら、英語圏のvtuberさんなんですね!私もみてみます。
最後に、digzymeに応募を考えている未来の仲間に一言あれば、お願いします。
自身の探究心と他者への貢献の意志を両方持ちながら、仕事のできる環境があります。
いかがでしたでしょうか?
学生時代の研究のことや、人材育成に関していきいきと語る彦有さんに
インタビュアーもとても元気を頂けました。
digzymeは、純粋な好奇心が健全な社会を持続させられるような世の中を目指しています!
ぜひ公式ホームページもチェックしてみてくださいね。
次回は、インフォマティクススペシャリスト
田村康一さんのインタビューの更新を予定しております。お楽しみに!