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「未来のヒップホップを担う!XXLフレッシュマン・クラス2024発表」
1997年に創刊されたアメリカのヒップホップ雑誌『XXL』は、日々のヒップホップニュースやオリジナルコンテンツを提供する人気のウェブサイトも運営しており、25年以上にわたって多くのヒップホップファンに様々な情報を提供しています。
さらに、『XXL』はミックステープや限定DVDなど、多くの特別プロジェクトもリリースしてきました。その中でも特に注目すべきは、2007年から毎年開催されている「フレッシュマン・クラス」です。このプロジェクトでは、10~12人の注目すべきアーティストが選出され、彼ら全員が雑誌の表紙を飾ります。
「フレッシュマン・クラス」では、一般にはまだ認知されていないラッパーやアンダーグラウンドで活動しているアーティストがピックアップされます。昨年選出されたGloRillaは、その後Cardi BやMegan Thee Stallionと共演し、Lola BrookeとFridayyはデビューアルバムをリリースしました。また、イギリスから唯一選出されたラッパーCentral Ceeは、すでに絶大な人気を誇っていましたが、アメリカのオーディエンスにもその人気の高さを改めて示すことができました。
そして今回、2024年版の「フレッシュマン・クラス」が発表されました。選ばれた11人のアーティストの中から、特に注目すべき6人をご紹介します。
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Lay Bankz
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ペンシルベニア州フィラデルフィア出身の女性アーティストLay Bankz (本名: Layia Watkins)は、10歳の頃にキャリアをスタートさせ、15歳で最初のシングル『Passion』をリリース。その後、2022年にはArtist Partner Groupと契約を結びました。
ジャージークラブ調のシングル『Left Cheek (Doo Doo Blick)』や『Na Na Na』はTikTokでバイラルヒットとなり、大きな話題を呼びました。また、CiaraやNLE Choppaと共演し、2023年にはデビューEP『Now You See Me』をリリースしました。
2024年には、待望のデビューアルバム『After 7』を発表。このアルバムからのリードシングル『Tell Ur Girlfriend』は、Ginuwineのシングル『Pony』を彷彿とさせる楽曲で、TikTokで160万本以上の動画に使用されるバイラルヒットとなりました。さらに、TikTokビルボードチャートで3週連続首位を獲得し、彼女にとって初の全米シングルチャート入りを果たしました。
彼女はラップと歌の両方で才能を見せ、若い世代に向けた楽曲やSNSでヒット曲を連発しています。20歳を迎えたばかりの今後の展開に注目です。
Lay Bankz - Tell Ur Girlfriend
Maiya the Don
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Maiya the Don (本名: Maiya Early)は、ニューヨークのブルックリンで生まれました。ラップが好きだった彼女は、幼少期からよく兄とラップバトルをしていたと言います。
その後、TikTokで美容関連のコンテンツをアップしていたところ、2022年にはフォロワーが50万人を超え、これを機に、ラッパーとしての楽曲制作やリリースにシフトしました。
2022年に発表したシングル『Telfy』は、Sisqóのヒットシングル『Thong Song』(1999)をドリル調にアレンジしたサンプリングで注目を集めました。翌年には、2021年の「フレッシュマン・クラス」に選出されたFlo Milliと、2023年の選出者であるLola Brookeと共にコラボシングル『Conceited (Remix)』をリリースしました。
2023年には、デビューミックステープ『Hot Commodity』をリリースし、その中にはマライア・キャリーやメアリー・J. ブライジ、リル・キムなどの往年のヒット曲をサンプリングした楽曲が多数収録されています。
同じニューヨーク出身のLola Brookeに負けじと、フィメールラッパーとしてニューヨークドリルシーンをリードする1人として、Maiya the Donのこれからの活躍に期待が寄せられています。
Maiya The Don - Telfy
BigXthaPlug
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テキサス州ダラス出身のラッパーBigXthaPlug (本名: Xavier Landum)は、2019年頃にラッパーとしてのキャリアをスタートさせましたが、2022年には銃やマリファナの不法所持で逮捕されました。
正気を保つために書き始めたんだ。あそこはまともな人がいる場所じゃない。俺はただ何かをして心を保つ必要があった。それが俺をしっかりさせ、地に足をつけさせる方法のひとつだったんだ。そのおかげで自分のボキャブラリーが増えた気がするよ。
彼は独房の中で曲を書き続け、本格的にラッパーとしての道を歩むことを決意しました。2022年にはシングル『Texas』をリリースし、これが彼のデビューアルバム『Amar』(2023)のリードシングルとなりました。『Texas』はYouTubeでは4000万再生を超え、Spotifyでは1億回以上のストリーミングを記録しています。
さらに、彼が2023年に発表した3枚目のEP『The Biggest』からシングルとしてカットされた『Mmhmm』は、The Whispersの『And the Beat Goes On』(1979)を大胆にサンプリングしたナンバーで、彼自身初めての全米チャート入りを果たしました。また、2023年には自身のレーベル600 Entertainmentを設立し、ラッパーのRo$amaとYung Hoodと契約を結びました。彼のフロウはKevin Gatesを彷彿とさせ、テキサス州から新たなムーブメントを巻き起こすことが期待されています。
BigXthaPlug - Mmhmm
The Whispers - And The Beat Goes On
Hunxho
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Hunxho(本名: Ibrahim Muhammad Dodo)は、ノースカロライナ州グリーンズボロで生まれ、思春期にジョージア州イーストアトランタに引っ越して育ちました。当時、彼はストリートで生計を立て、ヤング・サグやフューチャー、グッチ・メインなどの影響を受け、2017年に本格的に音楽キャリアをスタートさせました。
その後も、毎年のようにミックステープやEPを精力的にリリースし、2021年に発表したシングル『Let's Get It』が大きな注目を集め、21 Savageによるリミックスもリリースされました。この成功を受けて、Hunxhoは300 Entertainmentと契約し、2023年に待望のデビューアルバム『22』を発表しました。さらに、2024年には2 ChainzとMike WiLL Made-Itとのコラボシングルをリリースし、Lil Babyのツアーにも参加するなど、ラップシーンでの注目を浴びる存在として急速に台頭しています。
Hunxho - Let's Get It
Skilla Baby
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ミシガン州デトロイト出身のSkilla Baby(本名: Trevon Gardner)は、15歳の頃に音楽に興味を持ち始め、リル・ウェインやミーク・ミルなどに憧れていたようです。
彼は2019年にデビュープロジェクト『Push That Shit Out Skilla』をリリースし、その後も毎年新たなプロジェクトを発表しています。そして2024年4月には、Geffen Recordsから発表した『The Coldest』には、Moneybagg Yo、DaBaby、Polo G、G Herboなどのラッパーがゲストとして参加しています。
また、2023年にJack Harlowが全米チャート首位を獲得したシングル『Lovin on Me』のフックでは、「I get love in Detroit like Skilla Baby」
(俺はデトロイトでSkilla Babyみたいに愛される)というフレーズが使われ、彼の名前が曲中で言及されるほど、彼の名がラップシーンで広まっています。
さらに、Travis Scottのアルバム『Utopia』のツアーでは、Don ToliverやSheck Wesなどと共にオープニングアクトを務め、2024年には昨年のフレッシュマン・クラスに選出されたラッパーRob49と共にヘッドライナーを務めるツアーを開催するなど、ブレイク必至のラッパーとして大きな注目を集めています。
Rob49, Skilla Baby & Tay B - Mama
Cash Cobain
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ニューヨーク、ブロンクス出身のCash Cobainは、まずプロデューサーとして名を上げ、その後ラッパーとしても活躍し始めた異色の経歴を持つ人物です。幼少期から母親が聴いていたMary J. BligeやFaith Evans、Stephanie MillsなどのR&B音楽に親しんで育ちました。
母親がドラムパッドやキーボードを買ってくれたこともあり、Cash Cobainはビートメイクに目覚めました。そして、2021年にはMary J. Bligeの『Everything』を大胆にサンプリングし、ドリル調に昇華させたB-Loveeのシングル『My Everything』をプロデュースしました。この楽曲で彼はたちまち注目を集め、その後、Central CeeやLil Yachtyといったアーティストとの共演も果たしました。
2023年には、Drakeのアルバム『For All The Dogs』に収録された『Calling For You』をプロデュースしたほか、PinkPantheressとCentral Ceeのコラボシングル『Nice to meet you』を手掛けました。
2024年には、Don Toliverの最新アルバム『HARDSTONE PSYCHO』や、J. Coleとのコラボシングル『Grippy』、さらにはIce Spiceをゲストに迎えた『Fisherrr (Remix)』をリリースし、大ヒットさせました。彼自身もラッパーとして曲に参加し、多くのオーディエンスから注目を集めました。
彼のスタイルは『Sexy Drill』というサブジャンルとされ、このジャンルはCash Cobainが生みの親と言われています。『Sexy Drill』はニューヨークドリルから派生したもので、繊細でグルーヴィーなドラムと落ち着いたメロディーが特徴です。特に、クラシックなソウルやR&Bのサンプルを使用することで、ドリルの攻撃的なビートに対してソフトなコントラストを生み出しています。
Cash Cobain, Ice Spice, Bay Swag - Fisherrr (Remix)
おわりに
XXLが毎年発表する「フレッシュマン・クラス」は、ヒップホップの未来を担う若手アーティストにとっての重要な登竜門であり、彼らの才能を広く知らしめるきっかけとなっています。2024年の選出メンバーもまた、多様な背景と独自のスタイルを持つアーティストたちが集まりました。
その中でも、今年もSNSを中心とし、特にTikTokによるバイラルヒットが選考の中でも鍵になっているようです。Lay BankzやMaiya the Donなどのアーティストは、まさにその成功例と言えるでしょう。
一方で、HunxhoやSkilla Babyのようなラッパーたちは、精力的に作品を発表し続け、21 SavageやTravis Scottなどの大物アーティストにフックアップされることで注目を集めてきました。彼らはまさに実力でのし上がってきたアーティストたちです。
また、Cash Cobainは『Sexy Drill』というR&Bサンプリングを多用したサブジャンルを確立し、シーンに新たな風を吹き込んでいます。これと同様に、BigXthaPlug、Maiya the Don、Lay Bankzの楽曲もまた、サンプリングを取り入れており、往年の名曲たちが現代の音楽シーンで再び脚光を浴びています。
次回の記事では、「フレッシュマン・クラス」に選ばれた残り5名について詳しくご紹介いたします。彼らの音楽についてより深く理解するために、ぜひお見逃しなく。
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