
ファレルとカニエの制作方法の違いによる苦労を明かす・・・ Pusha T - It’s Almost Dry (2022)

前回の記事で解説したラップデュオClipse(クリプス)のメンバーPusha T(プシャ・T)は、Kanye West(カニエ・ウェスト)率いるレーベルG.O.O.D. Musicとソロ契約後、3枚のアルバムをリリースしました。
その中でも2018年に発表した「Daytona」は、Drake(ドレイク)とのビーフが話題となるなか、批評家から高い評価を受けてグラミー賞の「最優秀ラップアルバム」にノミネートされました。
そんな業界の重鎮となる彼が、約4年振りにニューアルバム「It’s Almost Dry」(2022)をドロップ。
エグゼクティブプロデューサーにカニエとPharrell Williams(ファレル・ウィリアムス)を迎えた今作は、プシャ・Tにとって初の全米チャート1位を獲得したアルバムとなりました。
ここでは、このアルバムについて解説します。
レーベル : Def Jam Recordings, G.O.O.D. Music, The Island Def Jam Music Group, Universal Music Group
リリース日 : 2022年4月22日
名前 : Pusha T
本名 : Pusha T / Terrence LeVarr Thornton
年齢 : 44歳
出身地 : バージニア州バージニアビーチ
リリースに至るまで

2022年1月にプシャ・Tは、ニューヨーク出身のシンガーLana Del Rey(ラナ・デル・レイ)がコカインの山で顔を隠しているように見える画像を投稿。
ラナ・デル・レイはキャリアを通じて曲中でコカインについて言及することで知られており、彼は自分と彼女が音楽の中で似たテーマを歌っていると考えて画像を投稿したと明かしています。

その後、プシャ・TはInstagramに契約書の一部を映した写真を投稿。
この投稿と共に「Thanx “Yezos…”」の言葉が添えられていますが、これはカニエとアマゾン創業者のJeff Bezos(ジェフ・ベゾス)の名前をもじったものと思われます。
これに関して、Victor Victor WorldwideのCEO Steven Victorは、"Yezos" というニックネームは実は以前から存在していたことを明かしています。
カニエ(Ye)は最も裕福な黒人だ...(Pushaが)始めた当時、ジェフ・ベゾス
は最も裕福な白人だったから、彼がYezosと呼び始めたのは、彼が最も裕福な黒人だからだ。
ラナ・デル・レイの画像と契約書の写真が投稿され、楽曲リリースの期待が高まる中、2月にはアルバムからのリードシングル「Diet Coke」(2022)が公開され、MVにはカニエも出演。
曲名についてプシャ・Tは、「クラックのコードネームなんだ」と語りました。
『Diet Coke』は曲の名前としては邪道だった。
クラックのコードネームなんだ。
ニュースではクラックと呼ばれていたが、俺はダイエットコークと呼んでいた。
それは「Hell Hath No Fury(Clipseのセカンドアルバム)」でも触れたものね。
カニエと88-Keysがビートを担当し、『Hell Hath No Fury』はカニエのお気に入りのアルバムのひとつで、The Neptunesがプロデュースしたものなんだ。
だから彼はそれをやったんだ。
彼はただバースが好きで、俺に1000小節も韻を踏ませたいだけなんだ。
彼は、"それをくれ "という感じで、そ自分の好きなように形にしたいんだ。
そのおかげで本当に良い曲になったと思うよ。
Pusha T - Diet Coke (2022)
アルバムのレコーディングについて明かす

前述したように、カニエとファレル・ウィリアムスがエグゼクティブプロデューサーを務めており、クリプスの結成を後押しした、ファレルとの当時の制作風景について次のように回想しています。
ファレルと仕事をするとき、彼は作曲のことばかり考えているよ。
彼は曲の製法や構成にこだわるんだ。
ケーデンス、フロー、粘着性のあるフック、ブリッジなど、その構成のあらゆる部分に強さを求め、ビートはある方法で、フローとメロディーはある方法でと求めてくる。
彼は "コンポジション "という言葉を使っている。
彼が「一生ミックステープのラッパーでいてほしくない」と俺に言った当時、俺は、彼と同じミックステープを聴き、同じLOXのフリースタイルを聴き、一日中あてもなく車を乗り回す姿を想像して、それが煩わしく思えたんだ。
当時、彼のGSレクサスが使われていたんだけど、そこに俺らの憧れ、素晴らしさを見出していたんだ。
だから、彼にそう言われたとき、俺は嫌だった。
彼がまだ俺らのやっていることの中に、礎となる偉大さを見出しているのかどうか、わからなかったから。
またパンデミック中もファレルの家とカニエの元を行き来しながら制作を続けていたことを明かしています。
パンデミックの間、俺と家族はファレルの家に滞在していたんだ。
毎朝6時に起きて、音楽制作をしながら、ジョーカーを見る。
もしその音楽が邪悪に感じられなかったり、そのキャラクターがなかったら使わなかったんだ。
それから、カリフォルニアのYeのとこに持っていったよ。
そこでこの2人のプロデューサーの役割分担が見えてきた。
ファレルは作曲をやっていたが、Yeはもっとストリートの強いヒップホップに沿った構成を望んでいたんだ。
両者の体裁を整えてから、行ったり来たりしていたよ。
ファレルの新作をYeに聴かせるんだ。
そうすると、彼は私に何か褒めちぎるし、その逆もまた然りって感じ。
今年全米No.1を獲得した中で曲数は2番目に少なかった?!
このような環境で制作した今作には、Jay-Z、Kid Cudi、Lil Uzi Vert、Malice、Nigo、Don Toliverがゲスト参加した全12曲が収録。
また5月7日付けの全米アルバムチャートでは、首位デビューを果たしたことが発表され、初週売上枚数の83%はストリーミング配信によるものだそうです。
またビルボードによると、2022年のNo.1アルバムの中で2番目に曲数の少ないアルバムとなり、最も少ないNo.1アルバムはStray Kidsの7曲入りの「Oddinary」でした。
余談となりますが、12曲以下のラップ・アルバムで最後に1位を獲得したのは J. Coleの12曲入り「The Off-Season」(2021)で、2021年5月29日のチャートでアルバム換算28万2000枚を記録しています。
また今作は、過去2年間で1位を獲得したアルバムの中で2番目に少ないアルバム換算販売枚数で、この期間中に1位を獲得したのは、 Lil Durkの「7220」で、2022年4月23日付けのチャートで4万7000枚で2週連続の1位に返り咲いた時でした。
前作「Daytona」は7曲入りで21分少々と、EPとも捉えれるほどコンパクトな作品でしたが、今回も全曲35分に凝縮されたことで、自然とストリーミング数も少なくなっているようにも感じます。
終わりに
ラップミュージック界の重鎮2人がエグゼクティブプロデューサーを務めるという過去にない贅沢な作品に仕上がりましたが、のちのインタビューでプシャ・Tは次のように明かしています。
YeはPusha Tのラップマニアで、俺のラップが全部好きで、一日中俺にラップさせて、それを俺から取り上げて編集して、自分の好きなようにやりたいんだよね。
ファレルは、バース、フック、カデンツ、フローなど、すべてのフレーズに「カチッ」とくるものを作りたがる。
彼は、曲の全体を通して、すべてが粘着質で、ずっと心に残るようなものにしたいんだ。
ファレルと一緒にいると大変だけど、彼にとっても大変なんだ。
大物2人が関わったことで、多くのオーディエンスのアルバムへの期待感が高まりましたが、当の本人は制作方法の違いに苦労した様子が伺えますね。
そんな背景もあり、ニューアルバム「It's Almost Dry」では、楽曲クレジットやプロダクションを随時確認することで、新たな発見を楽しんでいただけるかと思います。必聴です!!
こちらで紹介した楽曲のDJプロモーション音源はこちら⬇️⬇️⬇️
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