二大巨頭が再び結集:フューチャー&メトロ・ブーミンのニューアルバムの全貌『WE DON’T TRUST YOU』
アトランタ出身のラッパー、フューチャー(Future)は、オートチューンを駆使する独自のスタイルで数々のヒット曲をクラブシーンに送り出してきました。彼はこれまでに9枚のソロアルバムをリリースし、そのうち7枚が全米アルバムチャートで1位を獲得しています。また、Juice WRLD、Young Thug、Lil Uzi Vertといった多くのアーティストとのコラボレーション作品も発表しています。フューチャーはアトランタのラップシーンを牽引し続け、現代ラップ界の重要な存在としてその名を不動のものにしています。
ミズーリ州セントルイス出身のプロデューサーMetro Boomin(メトロ・ブーミン)は、アトランタを拠点とするラッパーYoung ThugやGucci Maneなどの楽曲を手掛け、Migosのシングル『Bad and Boujee』(2016)やThe Weekndの『Heartless』(2019)は、全米シングルチャートで1位を獲得しました。
プロデューサーとしての成功に加えて、メトロ・ブーミンは自身の名義で発表した2枚のアルバムが全米アルバムチャートで首位を獲得しました。
また、盟友21 Savageとのコラボアルバムやミックステープもリリースし、21 Savageの音楽キャリアにおいて不可欠な役割を果たしています。
2010年代に、ラップシーンを大いに沸かせたこの2人が、2024年3月にコラボアルバム『WE DON’T TRUST YOU』をリリースしました。今回の記事では、この最新作に焦点を当て、その魅力を詳しく探っていきます。
レーベル : Boominati Worldwide, Epic Records, Freebandz, Republic Records & Wilburn Holding Co.
リリース日 : 2024年3月22日
名前 : Future & Metro Boomin
本名 : Future / Nayvadius DeMun Wilburn
Metro Boomin / Leland Tyler Wayne
年齢 : Future / 40歳
Metro Boomin / 30歳
出身地 : Future / ジョージア州アトランタ
Metro Boomin / ミズーリ州セントルイス
メトロ・ブーミンとフューチャー:アトランタの音楽シーンでの躍進
新アルバムの詳細に入る前に、まずはメトロ・ブーミンのこれまでの経歴と彼と他のアーティストとの関係について簡単に触れておきましょう。メトロ・ブーミンは、13歳の時にビート制作を始め、自身の才能を広げるため、自作のビートにラップを乗せてもらえるアーティストを探すべく、ソーシャルメディアを利用してMCや音楽業界の関係者と積極的に連絡を取り始めました。
やがて、アトランタのラッパーであるOJ Da Juicemanがメトロ・ブーミンに興味を持ち、一緒にトラックを作るために彼をアトランタに招待しました。母親に付き添われながら、若きプロデューサーは毎週末アトランタへと足を運び、そこで才能あるミュージシャンたちとのコラボレーションを始めました。彼はアトランタのコミュニティーの大きさに驚きながらも、自らもその一員として活動できることに喜びを感じていたようです。
このアトランタでの活動が重要な転機となり、高校生の頃のメトロ・ブーミンはフューチャーと出会う機会を得ました。この出会いは後に大きな成果を生むこととなり、フューチャーが2013年に発表したシングル『Karate Chop』の制作につながりました
2015年、フューチャーがリリースしたキャリア第三弾のアルバム『DS2』は、アメリカ全土のチャートで1位を獲得し、その成功の大部分はプロデューサー、メトロ・ブーミンの手腕によるものでした。同じ年、メトロ・ブーミンはドレイクと共にミックステープ『What a Time to Be Alive』を制作し、これもまた全米アルバムチャートでトップに躍り出ました。このミックステープからの楽曲『Jumpman』は特に注目を集め、テイラー・スイフトが出演したApple Musicのコマーシャルで使用されるほどの影響力を持っていました。
2016年にメトロ・ブーミンは、フューチャーとザ・ウィークエンドとのコラボレーションシングル『Low Life』を手掛けるとともに、フューチャーの代表曲とも言える『Mask Off』のプロデュースも行いました。特に『Mask Off』は、そのキャッチーなフルートサンプルと共に大きな話題を呼び、フューチャーのソロキャリアにおいて初めて全米チャートのトップ5入りを果たすほどの大ヒットとなりました。これらの楽曲は、メトロ・ブーミンのプロデューサーとしての地位を不動のものにし、彼の才能が幅広いリスナーに認識されるきっかけとなりました。
しかしながら、2017年にフューチャーが発表したアルバム『Hndrxx』以降、彼をリードアーティストとしたメトロ・ブーミンがプロデュースした曲は見られませんでした。その代わり、メトロ・ブーミン名義でリリースされたアルバム『Heroes & Villains』にフューチャーはゲストアーティストとして参加しています。この間に、メトロ・ブーミンは21 SavageやBig Sean、Navなどとのコラボプロジェクトや、自身のアルバムの制作に注力するなど、ラップ界の一流プロデューサーとしての地位を強化するための多忙な活動を展開していました。
収録曲について
新作は、全17曲が収録されており、ゲストにはケンドリック・ラマー、トラヴィス・スコット、ザ・ウィークエンド、プレイボーイ・カーティ、リック・ロスなど、今のラップシーンを象徴する豪華なアーティストが顔を並べています。
『We Don't Trust You』
アルバムのオープニングを飾る『We Don't Trust You』は、アルバムタイトルにもなっている曲で、The Undisputed Truthの『Smiling Faces Sometimes』(1971)からのサンプリングが用いられており、周囲に広がるフェイクや憎しみ、そして信頼がないという環境が描写されています。フューチャーは、自己保護や忍耐を示しながらも、成功と誠実さを追求しています。曲中では不信感や疑念が強調され、裏切りや不誠実な行動に対する準備がされていることが示唆されています。
アルバムのオープニングトラックでありタイトル曲でもある『We Don't Trust You』は、1971年のThe Undisputed Truthによる『Smiling Faces Sometimes』からのサンプリングを特徴としています。この曲は、周りに広がる偽りや憎悪、信頼の欠如といった厳しい環境を描き出しており、フューチャーは自己防衛と忍耐を保ちながらも、成功と誠実さを求め続けています。曲の中で、不信感や疑念が強調され、裏切りや不誠実な行動に対して常に警戒し、準備を整えている様子が表現されています。
Future, Metro Boomin - We Don't Trust You
The Undisputed Truth - Smiling Faces Sometimes (1971)
『Type Shit』
アルバム4曲目『Type Shit』は、トラヴィス・スコットとプレイボーイ・カーティが参加した注目の曲です。YouTubeで公開されたミュージックビデオは公開から10日で1000万再生を記録し、全米シングルチャートでも早くも2位を獲得するなど、今作の中でも特に注目を集めています。
この曲では、3人のラッパーがそれぞれのライフスタイルや成功、豪華な暮らし、ドラッグについて語っており、彼らの生活を祝福する内容となっています。しかし、高級品や金銭的な成功を讃える一方で、暴力や女性蔑視といったネガティブなテーマも含まれているため、その内容には賛否が分かれるかもしれません。
Future, Metro Boomin, Travis Scott, Playboi Carti - Type Shit
『Like That』
6曲目『Like That』はケンドリック・ラマーとのコラボ曲で、イントロで1988年のRodney O and Joe Cooleyによる『Everlasting Bass』をサンプリングしています。この曲は、ドレイクの最新アルバム『For All the Dogs』に収録された『First Person Shooter』との関連性でも話題を呼んでいます。『First Person Shooter』では、J・コールがドレイク、自身、そしてケンドリック・ラマーをラップ界の「ビッグスリー」として賞賛しました。
しかし、『Like That』ではケンドリック・ラマーが自らをラップ界のトップと主張し、ドレイクとの競争関係をプリンスとマイケル・ジャクソンの確執に例えるなど、歌詞が大きな注目を集めました。これらの挑発的な歌詞が話題を呼び、全世界で9,000万回以上のストリーミングを記録し、グローバルチャートおよび全米シングルチャートで1位を獲得する大ヒットとなりました。
Future, Metro Boomin, Kendrick Lamar - Like That
Rodney O and Joe Cooley - Everlasting Bass (1988)
『Everyday Hustle』
アルバムの13曲目『Everyday Hustle』はリック・ロスがフィーチャリングされており、イントロでAlfreda Brockingtonの1969年の楽曲『I'll Wait for You』をサンプリングしています。このサンプリングされたループ・ボーカルは曲全体に渡って心地よいビートを生み出しており、曲の後半においてはビートが変化し、BPMも大きく変わる点が特徴です。これらの変化を通じて、メトロ・ブーミンの音楽制作における才能や彼の独自の音楽性が見事に表現されています。
歌詞では、タイトルが示す通り、メイクマネー、成功への渇望、そしてストリートでの生存をテーマにしています。フューチャーとリック・ロスは、自分たちの生活やストリートカルチャーにおけるリアルな経験をもとに、成功への道で直面する困難や現実との葛藤を表現しています。彼らの歌詞からは、日々の努力と苦闘を経ての成長や成功を切望する姿勢が伝わってきます。これらの歌詞は、彼らの心情や生活への深い洞察を提供し、聴き手に強い感情的共感を呼び起こすことでしょう。
Future, Metro Boomin, Rick Ross - Everyday Hustle
Alfreda Brockington - I'll Wait for You (1969)
『Seen It All』
15曲目『Seen It All』では、Mobb Deepの『Quiet Storm』(1999)がサンプリングされており、曲の最後にはbのProdigyが新しい音楽やトレンドへの自身の見解を述べています。この部分では、個人的な好みや経験に基づいて他人の意見を拒絶する姿勢が表現されています。このトラックでは、成功と苦労、ストリートライフの現実に焦点が当てられており、成功を収めるために必要な努力や、それによって失われるものが何かについて考察されています。歌詞は、自身の地位や成功を象徴する贅沢なアイテムや経験を語る一方で、過去のストリートでの生活や経験した苦労を回顧する内容となっています。
Future, Metro Boomin - Seen it All
Mobb Deep - Quiet Storm (1999)
おわりに
キャリアの初期から交流を持ち、それぞれラッパーとプロデューサーとしてキャリアを築いてきたフューチャーとメトロ・ブーミン。現在彼らが音楽シーンのトップに立つ中で、コラボアルバムをリリースするというニュースは、長年のファンにとっては待ちに待った喜ばしい出来事であり、感慨深いものがあります。このコラボレーションは、彼らの長い友情と相互の尊敬を示すものであり、その絆は音楽の枠を超えていることを感じさせます。
さらに、今回の作品には数多くのサンプリングソースが使用されており、特に注目すべきは、過去の21 Savageとのコラボアルバム『SAVAGE MODE II』で使われたRodney O and Joe Cooleyのクラシックなビートが再びフィーチャーされている点です。これは、彼らが真のヒップホップ愛好家であり、ヒップホップの歴史への敬意を表していることを強く示しています。
このアルバムは、発売初週に3億2000万回以上のストリーミングを記録し、2024年にリリースされたアルバムの中で最も多くストリーミングされた作品となりました。また、全米アルバムチャートで1位を獲得し、世界10カ国以上でトップ5入りするなど、国際的にも大成功を収めました。この成功には、ドレイクやJ・コールとの確執も含め、世界中のリスナーからの注目が一役買っています。
フューチャーとメトロ・ブーミンがこのコラボレーションを選んだ理由は、単に成功を求めるだけでなく、彼らが音楽的なルーツと現在の地位を尊重しつつ、さらに進化を遂げようとする挑戦でもありました。このアルバムは、彼らの才能と情熱が融合し、新たな創造的な火花を生み出しました。その結果としての記録的なストリーミング数やチャートでの成功は、彼らの音楽が世界中のリスナーに強く響く力を持っていることの証であり、今後も彼らが生み出す音楽が世界を魅了し続けることでしょう。
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