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ラプソディーの音楽が心に響く理由:ニューアルバム『Please Don’t Cry』を通じて

ヒップホップは長い間、男性主導のジャンルとして発展してきました。しかし、1990年代にローリン・ヒルが女性ラッパーとして初めて全米アルバムチャートで1位を獲得するという歴史的な偉業を成し遂げました。
これを皮切りに、リル・キムダ・ブラットミッシー・エリオット、フォクシー・ブラウンといった女性ラッパーたちが次々と登場し、シーンに大きな影響を与えました。彼女たちの活躍は多くの女性アーティストにインスピレーションを与え、2010年代にはニッキー・ミナージュカーディ・Bが全米アルバムチャートの首位を飾り、女性ラッパーとしての地位を確立しました。

そのような経緯を経て、現ヒップホップシーンにおいて、女性ラッパーは重要な位置を占めています。そして最近、特に注目されているのが、ノースカロライナ州スノーヒル出身のラッパー、Rapsody(ラプソディー)です。

ラプソディーは2000年代後半にキャリアをスタートし、その力強いリリックと独自のスタイルで注目を集めました。2017年にリリースされた2枚目のアルバム『Laila's Wisdom』は、グラミー賞の「最優秀ラップ・アルバム賞」と「最優秀ラップ・ソング賞」にノミネートされ、批評家から高い評価を受けました。

そして、2024年5月にリリースされた彼女の4枚目のアルバム『Please Don’t Cry』は、さらなる進化を遂げた作品となりました。本記事では、ラプソディーのこれまでのキャリアと最新作に焦点を当て、その魅力と成果に迫ります。

レーベル  : Jamla Records, Roc Nation, We Each Other
リリース日 : 2024年5月17日
名前    : Rapsody
本名    :    Marlanna Evans
年齢    :    41歳
出身地   :    ノースカロライナ州スノーヒル

ラプソディのここまでの道のり

ラプソディは、JAY-ZMos DefLauryn HillMC Lyteなどのアーティストに影響を受け、大学生の頃にヒップホップグループH2Oに加わりました。2004年、当時JAY-ZDestiny's Childなどの手掛けていたプロデューサー9th Wonderと出会い、ラプソディのバースに感銘を受けた彼は、9th WonderのレーベルIt's A Wonderful World Music Groupと契約を結びます。

2010年には、DJ PremierMac MillerBig Daddy Kaneらが参加したデビューミックステープ『Return of the B-Girl』をリリースし、翌年には2枚目のミックステープ『Thank H.E.R Now』(2011)を発表しました。そして、同年にはケンドリック・ラマーが参加した3枚目のミックステープ『For Everything』をリリースし、徐々に業界での名声を築いていきました。

2012年には、待望のデビューアルバム『The Idea of Beautiful』を発表し、その後も精力的にEPやミックステープをリリースし続けました。これらの積極的な活動により、Anderson .PaakTalib KweliMusiq Soulchildなどの著名アーティストからも認められ、彼らの作品にもゲスト参加するなど、ラプソディーのラップスキルは広く賞賛されることとなりました。

ラプソディーが特に注目されたのは、ケンドリック・ラマーの2015年リリースのアルバム『To Pimp a Butterfly』への参加です。このアルバムで、彼女は『Complexion (A Zulu Love)』という楽曲にゲストとして参加しました。『To Pimp a Butterfly』は、リリース後すぐに全米チャートの首位を獲得し、グラミー賞では7部門にノミネートされるという輝かしい成果を収めました。さらに、2020年にはローリング・ストーン誌による「史上最高のアルバム500枚」において19位にランクインし、その音楽的評価は揺るぎないものとなりました。

このアルバムの成功を受けて、ラプソディーJAY-ZのレーベルRoc Nationと契約し、2017年には彼女の祖母の名前から取ったセカンドアルバム『Laila's Wisdom』をリリースしました。これには再びケンドリック・ラマーがゲスト参加しており、このアルバムもグラミー賞で2部門にノミネートされ、高い評価を受けました。

Rapsody feat. Kendrick Lamar, Lance Skiiiwalker - Power

2019年には、3枚目のアルバム『Eve』をリリース。このアルバムでは、ミシェル・オバマオプラ・ウィンフリーマーリー・エヴァーズアリーヤなど、影響力のある黒人女性の名前が収録曲のタイトルとして用いられています。さらに、多くの収録曲が往年の名曲をサンプリングしており、先人たちへのリスペクトが感じられる作品となっています。

Rapsody feat. PJ Morton - Afeni

ソウルの追求:ラプソディーの新アルバムに込められた想い

ラプソディのアルバム制作は、2020年のパンデミック中に開始されました。この期間中、彼女は異なるテーマを持つ3枚のアルバムを同時に制作していました。その中から選ばれたのが、前作から約5年ぶりとなるアルバム『Please Don’t Cry』です。このアルバムは、360曲の中から厳選された楽曲で構成されており、ラプソディの音楽的探求と進化を象徴する作品となっています。

2020年の3月から3枚のアルバムに取りかかったの。アルバムを作ることは決まっていたけど、どのアルバムにするかはまだ決まっていなかった。どの方向性に進むべきか考えていたわ。パンデミックが長引くにつれて、自分自身のいくつかの部分を癒し、成長させる必要があることに気付いたの。
他の2枚のアルバムにもワクワクしていたけど、まず私を知ってもらうまでは世に出せなかった。最初の週末に2日間で12曲作った時は本当に良い感じだったわ。でも、その時も他のアルバムの制作を続けていたの。『Please Don't Cry』に全力を注ぐようになったのはその夏から。『Please Don't Cry』に収録された最も古い曲は「Stand Tall」で、それは最初の週末に作った12曲の一つだったの。

新しいアルバムの制作過程では、ラプソディーはヒップホップのルーツであるジャズ、ソウル、ブルースに立ち返り、その影響を作品に反映させることを重視しました。彼女は子供の頃からソウルミュージックに囲まれて育ち、その影響を大切にしており、新しいアルバムでは、ラッパーよりも多くのシンガーをフィーチャーし、ソウルの要素を強く取り入れることを目指したようです。

アルバム制作中は、Lauryn Hillの「Unplugged」をCDで聴きながら、一人でドライブしてたの。Dinah Washingtonもよく聴いてたわ。知っての通り、ジャズ、ソウル、ブルースはヒップホップの礎よね。ラップはそれらのジャンルをサンプリングして生まれたの。私の音楽は、そのストーリーを語り、私たちがどこから来たのかを思い出させたいの。だから、そういう周波数に再びつながることが大切だと思ってるわ。私はたくさんのソウルミュージックに囲まれて育ったの。Luther Vandross、Tina Turner、Patti LaBelleなど。母はその音楽に合わせて料理や掃除をして、父は芝を刈ってたの。私が生まれるずっと前から、リズム・アンド・ブルースが体に染み込んでた。新しいアルバムでは、そのルーツに再びつながることが重要だったわ。だから、たくさんのラッパーをフィーチャーするのではなく、多くのシンガーを起用してソウルの要素を取り入れたかったの。

収録曲について

新作『Please Don’t Cry』は、360曲のストックから選び抜かれた全22曲が収録されており、これまでのラプソディーの作品の中でも最も多くの楽曲が含まれています。Lil WayneErykah BaduNicole BusAlex Isley、DIXSONなど、多くのシンガーが参加しており、彼女が語るようにシンガーの存在感が際立つアルバムとなっています。

彼女はこのアルバムについて、「自分のために作り、自分のストーリーをシェアすることを誇りに思っている」と述べています。また、彼女は自分の成長や経験を語ることで他の人々の助けになると信じています。

このアルバムは自分のために作ったの。みんなに曲を届けて、こんなストーリーをシェアしてるって伝えたの。それが本当に誇りに思えることなのよ。ある人から、セリフや曲を削除してほしいって頼まれたこともあったけど、断ったの。だって、これは私の物語だから。名前は言わないけど、私はみんなのことを守りたかったのよ。私がやったことは、決して誰かを傷つけようとか、そういう意図じゃないの。すべては私自身のことで、私の成長の物語なの。それをシェアすることで、他の人たちの助けになればって思ってるの。

『DND (It’s Not Personal)』

5曲目の『DND (It’s Not Personal)』は、シンガーBee-Bとのコラボレーションで、曲の冒頭からMonica『Don't Take It Personal (Just One of Dem Days)』(1995)を巧みにサンプリングしています。この楽曲では、彼女たちは自分の時間を何よりも大切にし、自分自身にご褒美を与えることの喜びを描いています。

楽曲の歌詞には、彼女たちが自分の選んだ場所でリラックスし、外部の干渉から解放される姿が描かれています。彼女たちは、自分の気持ちや欲求を大切にし、他人の期待に縛られずに自分自身を優先する姿勢を強調しています。このメッセージは、自己ケアと自己愛を重視する現代のリスナーに強く訴えかけるものです。

また、この楽曲はYouTubeチャンネルの登録者が750万人を超える人気の音楽パフォーマンスプラットフォーム、ColorsxStudiosでライブパフォーマンスも公開されています。ColorsxStudiosでのライブ映像では、彼女たちの表現力豊かなパフォーマンスが視聴者に直接伝わり、一層の感動を与えています。

Rapsody - DND (It’s Not Personal)

Monica - Don't Take It Personal (Just One of Dem Days) (1995)

『3:AM』

9曲目『3:AM』は、ベテランシンガーErykah Baduとのコラボレーション曲です。この楽曲では、コミュニケーションの重要性や、互いを受け入れ支え合うことの美しさが繊細に描かれています。相手の存在がどれほど自分を変え、癒し、そして成長させることができるかが強調されています。また、二人の関係は喜びや笑い、信頼と支えに満ち溢れ、互いを深く理解し、尊重し合う姿が感動的に描かれています。

ラプソディーはこの曲について語る際、最初のバースは自分のストック曲から引用したものであり、愛に関する部分は自身の恋愛経験に基づいていると述べています。

「3: AM」の歌詞の最終版にたどり着くまでには、いくつかのプロセスがあったの。実は、最初のバースは別の曲から引用したんだ。でも、愛について語るときは、本当の感情から引き出したかったの。私がしていた恋愛や、そのときの気持ちについてリアルに考えていたんだ。すごく生々しくて、リアルな感じ。それがただ、自然に溢れ出てきたの。その歌詞を「3: AM」のビートに乗せて歌ったら、すごくフィットしたんだ。最後のバースは、実際には語りかけるように話しているんだけど、恋に落ちてから恋が冷めるまでの旅、その全体像を話したかったの。経験に感謝できるし、自分の気持ちにも感謝できるとき、時には自分を優先し、手放すことが必要なときもあるの。それがまさにこの曲のアプローチなんだ。最後の詩はすごくエモーショナルで、まるで第二の思春期みたいな感じ。

Rapsody feat. feat. Erykah Badu - 3:AM 

『Raw』

17曲目『Raw』は、Lil WayneNiko Brimとのコラボ曲で、この曲では、Lil WayneRapsodyが「ありのままの自分」であることを強調しています。偽らず、本物の自分を受け入れ、他人の期待や社会の圧力に屈せずに自信を持って生きることをテーマにしています。

曲を作るときに「君を圧倒してやるぞ」なんて考えてないの。そんな気持ちで音楽に取り組んでるわけじゃないわ。私はただ、自分自身と競い合っているだけ。アーティストにはすごく尊敬の念を抱いていて、いつでも最高の自分を見せたいって思ってるの。それが誰だろうと関係ないのよ。もし私がバースを提供するなら、最高の自分を出したいの。その意味では、相手と競ってるわけじゃないの。そのためにバトルがあるんだ。何でも受け入れるわ。

でも「Raw」では16小節のバースしかやらなかった。このビートはすごくユニークだったし、フックもあったからね。私の意図は、純粋に楽しんで、誰かをラップで打ち負かすことじゃなくて、何か「Raw」なものを作ることだったの。アルバムにはたくさんの素晴らしい瞬間があったから、ちょっとリラックスして楽しみたかったのよ。Wayneがバースを送ってくれたとき、本当にインスパイアされたの。私が書いたバースもそのままでも素晴らしかったけど、彼のバースにすごく触発されて、彼のレベルに負けないようにしたかったの。それで、自分のバースを書き直したのよ。

Rapsody feat. Lil Wayne, Niko Brim - Raw

『Faith』

21曲目『Faith』は、美しいピアノの音色と早回しされたコーラスが融合した魅力的な楽曲です。この楽曲は、ロサンゼルスを拠点に活動するバンドMantragold 『Faith』(2024)をサンプリングしています。

歌詞の内容は、困難や孤独を感じる時でも信仰を持ち続けることの重要性を強調しています。信仰は希望と力の源であり、感謝の気持ちを持って毎日を新しい機会として捉えることができると歌っています。さらに、信仰を失わずに前向きに生きることで、どんな逆境にも立ち向かい、成長し続けることができるという力強いメッセージが込められています。

Rapsody feat. Mantragold - Faith

Mantragold - Faith

アルバムタイトルに込められた意味

新アルバムのタイトル『Please Don’t Cry』は、直訳すると「泣かないで」となりますが、このタイトルには深い意味が込められています。
このタイトルは、彼女が自身の感情と向き合い、癒しのプロセスを経てきたことを反映しています。ラプソディは、このアルバムを通じて自分自身を許し、受け入れ、愛することを学びました。このプロセスは、彼女にとって感情の解放と成長の旅でもありました。

彼女は、現代社会における価値観の乖離は、人々が愛を忘れてしまったことに起因すると強く信じており、彼女の考えでは、自己愛と他者への愛が、共感や許しを学ぶための基本的な土台であり、これらが欠如することで社会全体が混乱していると感じています。

さらに彼女は、愛を失うことで神とのつながりも失われると考えています。愛は心の平和と人間関係の調和をもたらし、それが社会全体の価値観を再構築する鍵であると述べています。彼女はリスナーに対し、愛の力とその重要性を再認識してもらうことを強く望んでいます。

今、モラルが崩れていることには同意するけど、そのすべては愛に根ざしているの。神について話すとき、私にとっては、愛の中に神を見つけるの。そして、自分自身を愛さなきゃ。他人を愛さなきゃ。そうすることで、共感を学べるのよ。それが思いやりを学ぶ方法。そして、許しを学ぶのもそうね。でも、すべての根源は愛なの。自分自身を愛する方法を忘れたとき、他人を愛する方法を忘れたとき、私たちは神とのつながりを失うの。神は愛だった。神は罪人を愛して、貧しい人を愛して、すべての人を愛した。そして、みんながその価値観で行動しなくなったからこそ、今の世界があるの。これからは、いつも愛をもって行動したい。そうすれば最善の決断ができるからね。旅をして、いろんな経験をして、生きるということを本当に満喫したい。成長し続けたい。私の音楽のやり方では、1,000万人には届かないかもしれないけど、10万人とか25万人には届くかもしれない。そして、9th Wonderは、彼らが一生ファンだって教えてくれた。だって、私はいつも家族のように彼らにラップしてきたからね。彼らは私の味方だし、私も彼らの味方よ。

おわりに

ニューアルバム『Please Don’t Cry』の解説はいかがでしたでしょうか。彼女が語る『愛』のテーマについては、ぜひアルバムを楽しんで貰い、感じ取っていただけると嬉しいです。
彼女の音楽は、聴く者の心に深く響き渡り、忘れかけていた『愛』の記憶を呼び覚ますことでしょう。その音楽が、新たな希望と感動をもたらし、あなたの人生を豊かに彩ることを願っています。

今作のリリースを機に、ラプソディーは新たに2枚のアルバムを制作中であることを明かしました。彼女の創作意欲はとどまるところを知らず、ファンにとって待ち遠しいニュースです。これからの活動にも大いに期待しましょう。
新しい音楽がどのような形で私たちの元に届くのか、今からワクワクが止まりませんね。

今回紹介した楽曲のDJプロモーション音源はこちら⬇️⬇️⬇️

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