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「これは私の最初の作品であり、私にとっては素晴らしい旅の始まりに過ぎない。」 待望のデビューアルバムが遂に! RAYE - My 21st Century Blues (2023)

前回の記事でご紹介したイギリス、ロンドン出身のシンガーRAYE(レイ)
ここでは、彼女がこの度ドロップしたアルバム「My 21st Century Blues」(2023)について解説します。

レーベル  : Human Re-Sources
リリース日 : 2023年2月3日
名前    : RAYE
本名    :    Rachel Agatha Keen
年齢    : 25歳


出身地   :    イギリス、ロンドン

リリースに至るまで

2022年6月、レイは大手レーベルを離れ、インディーズのアーティストとして初のシングル「Hard Out Here」をリリースしました。

アルバムからのファーストシングルとなったこの曲について、レイは誰かの意見を気にすることなく「自分のストーリーを語りたかった」と明かしています。

何が待ち構えているのか全く分からなかったけど、私の心は燃えていたわ。
この章では、できるだけリアルにこだわり、誰かの意見を気にすることなく、自分のストーリーを語りたかったの。
これらは、私がアーティストとしての自分を見つけるためにアウトプットする必要があって、直感的な感情なの。
「Hard Out Here」を書くことは、不気味だったけど気持ちが解放される感じもあったわ。
最初の行を書く時点では、とても小さく、取るに足らないように感じるわ。
でも、このプロセスの最後には、喜びが爆発するの。
私は本当にこのすべてを伝える必要があった。

RAYE - Hard Out Here

その2ヶ月後には、セカンドシングル「Black Mascara.」をリリース。
アルバムの中では数少ないダンサブルなビートに仕上がったこの曲は、彼女の心の中にある「ブルース」への影響を歌った曲のようです。

この曲は、私の「ブルース」に影響を与えたもう一つの物語について歌ったものよ。
アップビートのダンストラックと並行して、私が本当に愛し、信頼していた人に惑わされたというこのひどいストーリーを話しているの。
暗い気持ちになる一方で、私にとっては気持ちが解放されたわ。
「once you see my black mascara run from me to my mother's hands (私の黒いマスカラが私から母の手へ流れるのを見たら)」という歌詞は、
「もし、あなたが実際に傷ついていたら」ということを歌っているの。
でも、それで終わりにするのではなく、私のように21世紀にブルースを経験したことのある女性たちに声を届けるために、この物語には力を与える意味が込められているわ。
それが私のアルバムの本当の目的よ。
私たちの世代として経験するすべてのブルースに取り組むということ。
皮肉なことに、この曲はアルバムの中で唯一のアップビートなダンストラックだけど、今回は私の声を使って、フィルターを通さない生のストーリーを伝えたわ。

RAYE - Black Mascara.

10月には、アルバムから3枚目のシングルで、ニュージャージー州ノースバーゲン出身のシンガー070 Shakeをフィーチャーした「Escapism」をリリース。
この曲は、レイにとってインディーズとなり初めてUKチャート入りを果たし、TikTokではこの曲のハッシュタグを使った動画が6億8000万再生されるというバイラルヒットとなりました。

このヒットにより、Spotifyでは2億回以上のストリーミングを記録し、世界22カ国のチャートでトップ10に入り、UKシングルチャートでは1位を獲得。
レイは、敢えて多くの人が共感できる「Escapism (逃避)」というテーマをこの曲に選び、これがオーディエンスの心に響いたようです。

テーマとしての「Escapism」は、人生で苦難を経験したときに多くの人が共感することだと思うわ。
この気持ちから逃げるために、何でもしてしまう。
そして、会社に行き、笑顔で何も問題がないように装わなけれならないけど、そうではないの。
特に女性は、常に勇ましい顔をして、笑顔で、礼儀正しく、気難しくならないようにしなければならないと思うの。
でも、その一方で、暗いことも抱えているわけで、それを乗り越えていかなければならないわ。
私は軽く恋をしていたの。なんて言うんだろう?
ずっと一緒にいるわけじゃないけど、逃避的な気持ちの一部、みたいな感じ。
悲しいかな、それは必ずしも良いことではないの。
私は24時間一緒にいる人がいたわ。私は決して1人ではなかった。
自分の考えを処理するのが怖くて、1人になれなかったの。
でもそれが終わったとき、そしてトラウマや抱えていたものが重なったとき、私は完全にスパイラルに陥ってしまったわ。

RAYE, 070 Shake - Escapism.

アルバムについて語る

待望のアルバムのリリースについて、レイは「とても興奮しているわ」と明かし、自分のビジョンに対して妥協することなく作り上げたこのプロジェクトに、最もやりがいに感じたようです。

とても興奮しているわ。
夢のような話だと思う部分もあるし、明日誰かが起きて「あと2年頑張るんだ」と言うかもしれない、わかるかな?
自分のビジョンに対して全く妥協することなく作り上げたアルバムであることをとても誇りに思っているんだ。
人生で初めて自分のキャリアを完全にコントロールすることができたし、この音楽を完全にコントロールすることができたんだ。
それが何よりの収穫よ。
これは私の最初の作品であり、私にとっては素晴らしい旅の始まりに過ぎない。
それがわかっているから、とても興奮しているんだ。

そう明かした今作は、15曲が収録されており、前述の070 ShakeやイギリスのシンガーMahaliaがゲストとして参加しています。

アルバム発売前日に発表したシングル「Ice Cream Man.」は、4年前から未発表曲として温められていたもので、リリース前に行われていたツアーでは「Ice Cream」という曲名でライブで披露していました。
また、この曲を含む数曲は、このアルバムのために歌詞を書き直し、再レコーディングされたようです。

完全に録り直したわ。本当に特別なものにしていったんだ。
最後には、激しい感情を処理するための音楽空間が用意されているの。
皮肉なことに、当時と今のギャップは、私がいろいろなことを経験してきたことを表しているんだ。
そして、2バース目を完全に変えたんだ。
そこに新しいストーリーを追加したよ。
若い頃に経験したことは、話すのが恥ずかしいし、将来にも影響する。
処理することがたくさんあったけど、神に感謝し、許しというものを本当に信じているわ。
だって、もし自分に起こったことを許せなかったら、私はとてもとても辛い女になっていたからね。

RAYE - Ice Cream Man.

7曲目の「The Thrill Is Gone.」は、ブルースの巨匠B.B. キングの代表曲「The Thrill is Gone」(1969)と同じタイトルで、彼女はかつてTwitterでブルースから強い影響を受けていることを示唆する写真を投稿していたことがあります。

そのような背景もあり、変則的なジャジーなビートを見事に自分のものにしたこの曲は、彼女の歌唱力が試されるとともに、レイの潜在能力を最大限に引き出すものとなりました。

RAYE - The Thrill Is Gone.

B.B. King - The Thrill Is Gone

13曲目の「Worth It.」は、アルバム全体の重いビートを相殺するかのように、彼女が優しく歌い上げたミッドテンポのトラックが心地よい1曲に。

RAYE - Worth It.

アルバムにおける、このような様々なビートへのチャレンジは、ガーナ系スイス人の母とヨークシャー出身のイギリス人の父を持つことが背景にあり、自分が常に属しているカルチャーを尊重したいという思いがあるようです。
そのためには、ルールや制約から解放されたインディーズのアーティストとしてリリースする必要があったと明かしています。

音楽的な制約があって、このアルバムは何度も何年も作ろうとしていたの。
また、私は混血の女性であるから、1つのことだけに絞れないと思っていたわ。
私はいくつかの血統とカルチャーを持っていて、育てられた。
特にファーストアルバムでは、私という人間を表現するためにひとつのサウンドを選ぶように求められたけど、それは不可能だと感じているわ。
だから、自由でなければならなかったんだと思う。
ルールがないことが必要だったの。

おわりに

今作は、これまでのダンスポップとは一線を画し、よりシリアスでレイのファンを驚かせる作品に仕上がりました。
これらは、彼女が本来表現したかったサウンドであり、「これこそが真の芸術性である」と本人は語っています。

みんな私のことをよく知らないのよ。
私が過去にリリースしてきた音楽は、必ずしも私について多くを語ってはいないものだから。
その結果、大成功を収めた曲もあるけど、みんなが私のことを知り、個人的なレベルで私とつながるとは限らないという、興味深い状況に置かれることになったの。
このアルバムは非常に個人的なもので、私が経験したすべてのブルースや出来事の蓋を開けたものよ。
聴くのが難しい曲もあれば、非常に正直な曲もある。
でも、それこそが真の芸術性であり、率直で傷つきやすいということなんだ。
Jax Jonesの「You Don't Know Me」は、ちょっと私を呪ったような曲ね。
この曲は私のこれまでの作品の中で最も正直なもので、とても誇りに思っているんだ。

また、このアルバムは早くもUKインディペンデントチャート1位、UKアルバムチャート2位を獲得していますが、彼女の中ではチャートの順位がゴールではなく、質の高い音楽を提供することが自分の役割だと考えているようです。

私のゴールはもうチャートではないの。
自分がどう感じているか、どんなことを経験してきたか、自分にとって人生とは何かということを正直に語る、質の高い音楽をリリースしたいんだ。
私があらゆることを経験していたとき、この曲を繰り返し再生して、ただ自分に言い聞かせたわ。
「いや、違う。私はこれを持っている。私はワルな女よ」ってね。

10代の頃から業界に身を置き、多くのヒット曲を生み出し、裏方としてライターとしても引っ張りだこのレイ
しかし、このアルバムを聴くと、彼女のこれまでの作品がいかに大衆向けであったかを知り、いかに彼女が音楽を探求してきたかがわかる気がします。

彼女の世界観にどっぷり浸かれるアルバム、おすすめです。

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