Rod Waveの魂の叫び『Last Rap』喪失と再生の記録
心揺さぶる歌声と誠実な言葉で、ヒップホップシーンに新たな風を吹き込み続ける音楽家がいます。
南部の温かな陽光に育まれたフロリダ州セントピーターズバーグ 出身の Rod Wave (ロッド・ウェイブ)。彼が生み出す音楽は、今や多くのリスナーの心を捉えて離さない存在となっています。
わずか数年の間に5枚のアルバムを世に送り出した彼の軌跡は、まさに驚異的です。その中でも『SoulFly』(2021年)、『Beautiful Mind』(2022年)、そして『Nostalgia』(2023年)の3作品がすべて、全米アルバムチャートで初登場1位を獲得しました。また、これらのアルバムはアメリカレコード協会(RIAA)からプラチナ認定を受けるという快挙を達成しています。
ロッド・ウェイブは、そのソウルフルな歌声と感情豊かな歌詞で多くの音楽評論家から高い評価を受けています。過去3年間で毎年ソロアルバムを発表し、すべての作品がチャートのトップに立つという偉業を成し遂げた彼は、テイラー・スウィフトと肩を並べる唯一のアーティストとして注目されています。
2023年にリリースした『Nostalgia』では、収録された全18曲が全米シングルチャートに同時にランクイン。ソニーミュージックが手がけたプロジェクトの中でも、特筆すべき成功を収めました。
そして2024年10月、待望の6枚目となるアルバム『Last Rap』が遂に姿を現しました。本稿では、新作に込められた彼の想いと、その音楽的背景に迫っていきます。
レーベル : Alamo Records
リリース日 : 2024年10月11日
名前 : Rod Wave
本名 : Rodarius Marcell Green
年齢 : 26歳
出身地 : フロリダ州セントピーターズバーグ
運命の転機:ロッド・ウェイブ、音楽と人生の苦悩を描く
メロウなビート上で展開される心震わすような歌声で、多くの人々の心を掴んできたロッド・ウェイブ。3作連続で全米アルバムチャート1位を獲得するなど、その実力は既に揺るぎないものとなっています。
しかし、新作『Last Rap』の発表を前に、彼は人生における重大な試練と向き合うことになりました。「このプロジェクトは本当に辛い」という彼の言葉には、これまでの日々に潜む深い影が垣間見えます。
2024年4月、地元フロリダ州セントピーターズバーグで発生した銃撃事件に関連して、違法な武器所持の疑いで逮捕される事態に。事件では4人が負傷し、使用された車両が彼の名義で登録されていたと報じられました。しかし、弁護側の主張と証拠不十分により、同日釈放となっています。
さらに同年5月、双子の娘を持つパートナーとの破局という私生活での大きな転機を迎えます。この出来事を機に、彼は音楽性の変革を決意。プロデューサーたちに向けて「悲しいビート」ではなく、Futureスタイルの新鮮なサウンドを求める姿勢を示しました。
この呼びかけに応えたのが、Futureとの共作で知られる敏腕プロデューサーMetro Boomin。彼の「レッツゴー」という返信は、ロッド・ウェイブの新たな挑戦への期待を一層高めることとなりました。
苦悩を糧に、より力強い表現を追求する彼の姿に、多くのファンが熱い視線を注いでいます。
背中に刻まれた思い:ロッド・ウェイブと叔父の絆
ロッド・ウェイブの最新作『Last Rap』。そのジャケットには、ステージで背を向ける彼の姿が印象的に描かれています。着用するTシャツには、自身の横顔と共に、大切な人物の肖像が浮かび上がります。それは、彼の叔父であり長年のマネージャーを務めてきたデレック "ディー" レーン。
ディーは、音楽の道を歩み始めた若き日のロッドを導いた人物でした。自身が立ち上げたレーベル**「ヒットハウス・エンターテインメント」**で彼を迎え入れ、豊富な業界経験を活かしながら、一歩一歩、確かな足跡を刻んでいく手助けをしてきました。
その深い絆は、ロッドが自身のインスタグラムに綴った言葉からも伝わってきます。音楽家としての道のりだけでなく、人生の岐路に立つ度に、常に温かな導きの手を差し伸べてくれた叔父への感謝の想い。それは、新作に込められた重要なメッセージの一つとなっているのです。
アートワークに描かれた後ろ姿には、大切な存在を失った悲しみと、その教えを胸に新たな一歩を踏み出す決意が、静かに映し出されているかのようです。
日々重ねる経験が、時として人を大きく変える――。
ロッド・ウェイブは、幾多の試練を越えてきた今、かつての自分を振り返り、その変貌に驚きを隠せないようです。昨日とは違う今日があり、また新しい発見が待つ明日がある。そんな日常の積み重ねが、彼を少しずつ、しかし確実に成長させているのだと語ります。
まるで自身の楽曲のように、人生もまた、一音一音を重ねながら紡がれていく物語なのかもしれません。
収録曲について
心を揺さぶる試練を経て誕生したロッド・ウェイブの新作『Last Rap』。恋人との別れ、そして長年の師との永遠の別れ。その深い痛みを昇華するように、全23曲の物語が綴られています。
作品には、盟友であるリル・ベイビー、リル・ヨッティ、ライロ・ロドリゲスらが参加。彼らの存在が、アルバム全体を通じて描かれる苦悩と成長の軌跡に、さらなる深みを与えています。
まるで日記のように、率直に、そして力強く。彼の人生の転換点となった出来事たちが、音楽という形で昇華されています。
『Last Rap』
アルバムの要となる2曲目『Last Rap』。その制作を手がけたのは、デビュー作からロッド・ウェイブを支え続けてきた盟友、プロデューサーのトリロ・ビーツです。楽曲は、マーベリック・シティ・ミュージックによる2021年の『Keep Praying』をサンプリングしながら、独自の世界観を演出しています。
歌詞は、大切な人を失った魂の叫びとも言えるでしょう。愛する叔父デレック "ディー" レーンとの別れ。その喪失感と深い孤独を、ロッドは赤裸々に歌い上げます。時に懐かしく、時に痛ましく語られる思い出の数々。前を向こうとする決意と、まだ手放せない想いが交錯する心の風景が、聴く者の胸を強く打ちます。
Rod Wave - Last Lap
Maverick City Music feat. Doe Jones & Ryan Ofei - Keep Praying (2021)
『25』
4曲目『25』は、テムズの2024年の名曲『Love Me JeJe』のメロディを取り入れ、新たな世界観を描き出しています。
アルバム発売直後に公開されたこのミュージックビデオは、大きな反響を呼んでいます。
25歳という節目の年を迎えたロッドは、この曲で赤裸々な自己探求の旅に出ます。過去の出来事に翻弄され、時に社交不安に苛まれながらも、新しい恋への期待を胸に秘めた姿。そこには、成長する喜びと不安が交錯する青年の等身大の姿が映し出されています。
孤独や不安を抱えながらも、確かな愛を求めて前を向く彼の姿勢は、同世代の若者たちの心に強く響くことでしょう。まるで日記のような誠実さで歌い上げられた言葉たちは、聴く者の心に寄り添い、共に歩む勇気を与えてくれます。
Rod Wave - 25
Tems - Love Me JeJe (2024)
※『25』の1:16〜
『Fall Fast in Love』
20曲目『Fall Fast in Love』は、2024年9月にアルバムからのセカンドシングルとしてリリースされました。
まるで日記を綴るような親密な歌声で、急速に芽生えた恋心と向き合う様子を描いています。過去のトラウマと新しい期待が交錯する心模様を、静かに、しかし力強く歌い上げています。
恋に落ちることへの戸惑い、不安、そして僅かな希望——。相反する感情の狭間で揺れながらも、少しずつ心を開いていく様子が、まるで映画のワンシーンのように美しく描かれています。危うさを孕んだ恋愛模様は、聴く者の胸に確かな余韻を残していきます。
リスナーの誰もが経験したことのある感情を、まるで自分自身の物語のように感じることができます。それこそが、この曲が持つ普遍的な魅力なのかもしれません。
『Passport Junkie』
21曲目『Passport Junkie』は、2024年9月にアルバムからのリードシングルとしてリリースされました。
この楽曲は、贅沢な暮らしに魅了された女性と、それを支える男性の関係を繊細に描き出しています。
タイトルが示す通り、海外旅行や上質な体験を追い求める彼女の姿が印象的で、高級ホテルでの滞在やレストランでの食事―男性は彼女の望みを叶えようと奔走しています。
しかし時とともに、かつての楽しみも彼女の心を満たさなくなっていきます。その心情の変化を丁寧に歌い上げながら、この曲は静かなメッセージを投げかけます。経済的な余裕がないならば、まずは自分自身に向き合うことから始めよう、と。
シンプルでありながら深い余韻を残す歌詞は、現代を生きる私たちの価値観を見つめ直すきっかけを与えてくれます。
Rod Wave - Passport Junkie
おわりに
静かな波紋を広げるように、ロッド・ウェイブの新作が音楽シーンに降り立ちました。
アルバムは、まるで万華鏡のように多彩な音世界を織り成しています。
Lil BabyとLil Yachtyが生々しい現実を歌い上げた『Fuck Fame』。心地よいグルーヴが漂うジャージークラブ・サウンドの『The Best』。そして、Be Charlotteの透明感溢れるコーラスとロッド・ウェイブの魂を揺さぶる歌声が交差する『Lost In Love』。これらの楽曲群は、彼の新境地を切り拓く礎となっています。
興味深いことに、アルバム制作過程ではFutureを彷彿とさせるビートを模索していたものの、最終的にサウス・ヒップホップの血脈を継ぐ『Federal Nightmares』のみが収録されることとなりました。また、SNS上で制作参加の意向を示していたMetro Boominの楽曲は今回見送られ、デラックス版での収録が期待される形となっています。
ロッド・ウェイブは自身のインスタグラムを通じて、ファンやサポーターに対する感謝の気持ちを伝えています。彼は、夢を追い続けることができたこと、家族を支えられたこと、そして成功や困難を含むすべての経験に対して感謝していると明かしています。
深い想いが刻まれた渾身の最新作『Last Rap』。
歓喜と苦悩が交錯する日々、幾度となく立ち上がった挫折の先に見出した確かな成長—。そして何より、愛する人々への想いが彼独特のソウルフルな歌声と溶け合い、聴衆の胸に鮮やかな感動の余韻を届けます。
波のように寄せては返す人生の試練を越えてきたロッド・ウェイブ。その歌声は今も進化を遂げ、私たちの心に新しい感動を描き出していきます。魂の奥底から湧き上がる音楽は、聴く者の心に寄り添い、明日への希望の光となって永遠に輝き続けることでしょう。
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