ブロードウェイとR&Bの交差点 - レオン・トーマス『MUTT』が織りなす世界 (前編)
エンターテインメント界に新たな風を吹き込む、マルチな才能の持ち主たち。音楽と演技、二つの世界を自在に行き来しながら、独自の輝きを放つアーティストたちがいます。
1980年代後半、DJ Jazzy Jeff & The Fresh Princeとして登場したウィル・スミス。後に『インデペンデンス・デイ』や『メン・イン・ブラック』で俳優として世界的な名声を獲得し、エンターテインメント界の重鎮となりました。
革新的なサウンドで音楽界を席巻したコモンは、カニエ・ウェストとのコラボレーションで新境地を開拓。その後、映画『セルマ』でアカデミー賞を手にし、表現者としての幅を広げています。
才能溢れるR&Bシンガー、ジェイミー・フォックスも、映画『Ray/レイ』での圧巻の演技で主演男優賞に輝き、二つの世界で成功を収めました。
そして今、新たな才能が台頭しています。ニューヨーク・ブルックリン出身のレオン・トーマスです。子役から始まったその歩みは、アリアナ・グランデやドレイクとの作品で高い評価を受け、2024年9月には待望のセカンドアルバム『MUTT』をリリース。マルチな才能で、エンターテインメントの新時代を切り拓いています。
本稿では、俳優そして音楽家として深みを増すレオン・トーマスの魅力に迫ります。
レーベル : EZMNY Records, Motown Records
リリース日 : 2024年9月27日
名前 : Leon Thomas
本名 : Leon George Thomas III
年齢 : 31歳
出身地 : ニューヨーク、ブルックリン
音楽一家に生まれた才能!ブロードウェイでの躍進
レオン・トーマスは、ニューヨーク・ブルックリンで生まれ、音楽に囲まれて育ちました。彼の両親は、チャカ・カーンの前座を務めたバンドOne Nationのメンバーで、音楽業界での豊富な経験を持っていたため、家にはいつも音楽が溢れていました。母親は歌手であり、義父はギタリストとして活動していたため、幼い頃から音楽に深く触れる機会があったようです。
10歳という若さでブロードウェイデビューを飾ったレオン・トーマスは、2003年に『ライオン・キング』のヤング・シンバ役として観客の前に立ちました。彼は当時を振り返り、「努力して手に入れた成功の喜びを感じた瞬間だった」と語っています。
週に8回ものブロードウェイ公演をこなし、観客が音楽に心を寄せる瞬間に魅了された彼は、この世界で生きていく決意を固めました。この貴重な経験が、彼の作詞の才能を開花させ、ブロードウェイの舞台からR&Bやポップソングの制作へと活動の幅を広げる契機となりました。
その後も彼の活躍は多岐にわたり、子供向け番組『The Backyardigans』で声優を務めたほか、映画『オーガスト・ラッシュ』に出演するなど、俳優、声優としてもさまざまなエンターテインメント分野で才能を発揮し続けました。
アリアナ・グランデとの絆
2010年、レオン・トーマスはTVドラマ『ビクトリアス』に出演し、そこでまだ歌手デビュー前のアリアナ・グランデと共演を果たしました。この出会いをきっかけに、2人は音楽面での深い協力関係を築いていくことになります。
2012年、レオン・トーマスは本名のLeon Thomas III名義で初のミックステープ『Metro Hearts』をリリース。この作品では、アリアナ・グランデとともにドレイクのヒット曲『Take Care』をカバーし、その実力と表現力を存分に披露しました。
さらに、アリアナのデビューアルバム『Yours Truly』ではプロデューサーとバックコーラスを担当し、彼女の音楽活動を支えました。その縁は途切れることなく、2020年リリースのアリアナ・グランデによる6枚目のアルバム『Positions』でも、ソングライターとして2曲の制作に携わり、長年にわたる友情と信頼関係を育んでいることが窺えます。
Leon Thomas III feat Ariana Grande - Take Care
レオンはアリアナについて「彼女と一緒に作業するのは本当に楽しい」と語り、作業前に互いにリラックスしてプライベートな話をする時間が、自然とクールな楽曲制作につながっているようです。
The Rascalsとしての成功と、更なるキャリアアップ
レオン・トーマスは、アリアナ・グランデの作品に携わる中でプロデュース力を磨き、プロデューサーのクリストファー・リディック=タインズと共にザ・ラスカルズというデュオを結成しました。
彼らはドレイク、エラ・メイ、クリス・ブラウン、ケラーニ、タイ・ダラー・サインなど、錚々たるアーティストの楽曲制作を手掛けました。2019年にはリック・ロスのシングル『Gold Roses』でグラミー賞にノミネートされるという快挙も達成しています。
さらに2022年には、SZAのシングル『Snooze』をプロデュース。レオン自身もバックコーラスを務めたこの曲は、全米チャート2位という輝かしい成績を収め、グラミー賞「最優秀R&Bソング」を受賞しました。興味深いことに、レオンはこの曲について、当初はSZAのアルバム用ではなく、ベイビーフェイスのアルバム『Girls Night Out』に収録予定のコラボレーション曲として制作していたと明かしています。
SZA - Snooze
タイ・ダラー・サインと契約!デビューアルバムに込めた想い
アーティストとしての深い表現力と確かな音楽性を持つレオン・トーマス。俳優としての顔を持ちながらも、その音楽への情熱は留まることを知らず、3枚のミックステープを経て、2018年には待望のデビューEP『Genesis』を世に送り出しました。全7曲中6曲を自身でプロデュースという意欲作には、BuddyやElle Varnerといった実力派アーティストも参加し、その才能の広がりを印象づけています。
Leon Thomas feat. Buddy - Favorite
転機は2022年5月に訪れます。タイ・ダラー・サインがMotown Recordsとタッグを組んで立ち上げた新レーベルEZMNY Records。その記念すべき第一号アーティストとしてレオンの名が選ばれたのです。
この出会いには、興味深い縁が隠されていました。親交のあるピアニスト兼プロデューサーがタイ・ダラー・サインのツアーに参加し、アルバム制作にも携わっていたことから、スタジオでの邂逅が実現。二人の間に生まれた即座の親近感は、やがて深い友情と相互理解へと発展していったのです。
そして2023年、待望のデビューアルバム『Electric Dusk』が完成しました。全12曲にはタイ・ダラー・サインを筆頭に、Benny the Butcher、Victoria Monétといった豪華アーティストが彩りを添えています。このアルバムに込められたのは、アーティストとしての成長と、人間としての赤裸々な感情。他者のために書く楽曲では表現できない、レオン自身の真摯な想いが詰まっています。
「華やかな世界で活動してきた私だからこそ、人間らしい素顔を見せたい」というレオンの言葉には、深い決意が感じられます。音楽に刻まれた「歪み」は、彼の成長の痕跡であり、その過程で味わった苦悩と喜びの証。このアルバムは、そんな等身大の自分を、聴く人の心に真っ直ぐに届けたいという願いから生まれた、新たな挑戦の記録なのです。
Leon Thomas - Treasure In The Hills
おわりに
そして2024年2月、さらなる飛躍の瞬間が訪れます。カニエ・ウェストとタイ・ダラー・サインによる衝撃作『Vultures 1』。その中の『Burn』において、レオン・トーマスは作詞とプロデュースを担当。その卓越したクリエイティビティは、ヒップホップシーンの重要人物たちからも熱い視線を集めています。
シンガー、ソングライター、プロデューサーとして、そのクリエイティビティは様々な形で開花し続けています。俳優としての経験、音楽への飽くなき探求心、そして確かな実績。これらが複雑に絡み合い、独自の音楽性を築き上げているのでしょう。
次回は、その集大成とも言える最新作、セカンドアルバム『MUTT』に深く迫ります。レオン・トーマスが紡ぎ出す新たな音楽の物語に、どうぞご期待ください。
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