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UKラップの新たな扉を開く─Central Cee『CAN’T RUSH GREATNESS』の真価
イギリスのラップシーンが今、世界を熱狂させているのをご存じでしょうか。その中心にいるのが、ロンドン出身のラッパー、Central Cee(セントラル・シー)。わずか数年の間に怒涛の勢いでシーンを駆け上がり、さらにファッション業界までも巻き込みながら快進撃を続けています。UKドリルの本場ロンドンから、今やグローバルなステージへと進化を遂げた若き才能は、どのようにして世界を魅了してきたのでしょうか。
ロンドンのストリートから始まった情熱
セントラル・シー(本名:Oakley Neil Caesar-Su)は、イギリス・ロンドン出身。幼少期をロンドンで過ごし、両親の離婚後は母と兄弟と共に暮らすなかで音楽への熱を培ってきました。10代で音楽制作を始め、2014年から“Central Cee”として本格的に活動をスタート。ライブパフォーマンスや自主制作のEPで徐々に注目を集め、2020年にUKドリルへ路線変更すると、シングル「Day in the Life」や「Loading」の大ヒットで一躍脚光を浴びます。
同年に発表した初のミックステープ『Wild West』はUKアルバムチャート2位を獲得し、さらにオーディエンスの裾野を拡大。2022年の2作目『23』ではUKアルバムチャート1位を記録し、音楽だけでなくファッション業界でも大きな存在感を示しました。2023年には自身のストリートウェアブランド「Syna World」を立ち上げ、2024年にはNikeやパリ・サンジェルマンとのコラボレーションを展開。音楽とファッションの両面で、時代の先端を切り開いています。
そして2025年1月、満を持してデビューアルバム『CAN’T RUSH GREATNESS』をリリース。まさに「急いでも偉大にはなれない」という意味を象徴するこのタイトルは、数々のヒットソングを生み出してきたセントラル・シーがついに到達した“集大成”ともいえる仕上がりです。彼の成長の軌跡と最新作の魅力を、ここからさらに深掘りしていきましょう。
レーベル : Columbia Records, CC4L
リリース日 : 2025年1月22日
名前 : Central Cee
本名 : Oakley Neil Caesar-Su
年齢 : 26歳
出身地 : イギリス、ロンドン
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2019年の転機─ドリルへシフトし大ブレイク
2019年、セントラル・シーはマネージャーとなるYBeeezと出会い、大きな変化を迎えます。それまでオートチューンを駆使した楽曲を中心に活動していた彼でしたが、ここでUKドリルへ本格的に転向することを決意。
2020年6月にリリースされたシングル「Day in the Life」が爆発的ヒットとなり、続く「Molly」「Loading」も相次いで成功を収めました。
特に「Loading」と、翌2021年2月にリリースした「Commitment Issues」はUKシングルチャートでトップ20入りを果たし、一気に彼の名を広めるきっかけになりました。
デビュー・ミックステープ『Wild West』の大躍進
2021年3月に発表されたデビュー・ミックステープ『Wild West』では、収録された14曲すべてがセントラル・シー自身のソロ曲。UKアルバムチャート2位、UK R&Bアルバムチャートでは1位を獲得し、名実ともにトップアーティストの仲間入りを果たしました。
彼はインディペンデントアーティストとしての強い意志を語っており、このミックステープにはフィーチャリングゲストを一切起用しなかったこと自体が「主張」だと位置づけています。
「俺がインディペンデントアーティストで、このテープにフィーチャリングアーティストが参加していないという事実自体が、ひとつの主張であると思う。自分がベストを尽くして、自分ができる限りの最高の音楽をまとめあげたという自負がある。これまで俺を聴いてくれた人たちに評価してもらえれば、商業的成功なんてあまり気にしていないよ」
2021年9月のシングル「Obsessed with You」はUKシングルチャート4位を記録。このヒットを牽引する形で、2022年2月リリースの2作目『23』が自身初のUKアルバムチャート1位を獲得。シングル「Doja」もUKシングルチャート2位と大成功を収め、同年にはUKラッパーとして初めてSpotifyで年間10億ストリームを達成するという快挙を成し遂げました。
大物アーティストとのコラボとグローバル化
Daveとのコラボ「Sprinter」が大記録を樹立
2023年にはDaveとのコラボシングル「Sprinter」でUKシングルチャート1位を獲得。リリース初週で1340万回のストリーミングを記録し、イギリスのラップシングルとして史上最大のストリーミング数を打ち立てました。同年、ヒップホップメディア誌XXLの「2023年Freshman Class」に選出され、さらにColumbia Recordsとの契約も発表。Drakeとのコラボシングル「On the Radar Freestyle」は、ついに全米シングルチャートに進出する足がかりとなりました。
世界進出を加速させたコラボの数々
2024年以降も、J. コールのミックステープ『Might Delete Later』への参加や、Lil Baby・Asake・Ice Spiceとのコラボなど、国際的な音楽市場での存在感を強化し続けています。グローバルな展開を意識しながらも、彼の核となるドリルサウンドは健在です。
待望のデビューアルバム『CAN’T RUSH GREATNESS』
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このたび、満を持して発表されたアルバム『CAN’T RUSH GREATNESS』(直訳すると「急いでも偉大にはなれない」)。これまで数々のシングルヒットを生み出してきたセントラル・シーが、なぜ今このタイトルで勝負するのか。
そこには、彼が音楽活動を通じて学んできた「時間をかけることの尊さ」が込められているようです。
「最初の2つのプロジェクトはミックステープで、勢いで作り上げた部分が大きかった。でも、このアルバムはもっと計画的で意図的に仕上げた作品。世間ウケを狙うよりも、人々の心に触れ、俺が“人間”だってことを実感してもらいたいんだ」
そう語る本作は、全17曲を収録し、21 Savage、Lil Durk、Lil Baby、Skepta、Daveなど超豪華アーティストが多数参加。約40組のプロデューサー陣が集結したことで、デビュー作ながら非常に多彩な音像を持った一枚に仕上がっています。
収録曲ピックアップ
『St Patrick’s』
Wu-Tang Clanの「C.R.E.A.M.」(1993年)をイントロから大胆にサンプリング。セントラル・シーが過去の貧困を乗り越えて手にした「成功と物質的豊かさ」を誇示し、自己肯定感とストリートでの生き様を重ね合わせる一曲です。
Central Cee - St Patrick’s
『GBP』
21 Savageとのコラボレーションによって誕生した本作から3枚目のシングルは、リリース直後にUK Hip Hop R&Bチャートで見事1位を獲得。
セントラル・シーが過去の苦難や犯罪を乗り越えてなお未来への希望を持つ姿勢と、暴力や挑発を赤裸々に描く21 Savageの視点が交錯することで、楽曲は強烈なリアルを帯びています。
さらに、この曲では自身の過去曲のフレーズを引用し、ロンドンのストリートでの苛酷な日々と、そこから掴み取った成功への歩みを力強く描写。ふたりがぶつけ合う体験とエネルギーが、聴き手を強く引き込みます。
Central Cee & 21 Savage - GBP
Central Cee - One By One (『GBP』の0:08〜)
Central Cee x Dave - Sprinter (『GBP』の0:15〜)
『Truth in The Lies』
Lil Durkとのコラボ曲で、Ne-Yoの代表作「So Sick」(2005年)をサンプリングしたメロディアスなビートが印象的。プロデューサーには、ドレイクのヒットソングを支えたHarley Arsenaultが名を連ねています。
恋愛に伴う痛みや混乱が赤裸々に描かれながら、金銭的成功こそが拠りどころになるというリアルな思いが滲み出る一曲。Lil Durkとの絶妙な掛け合いによって、愛と欲望が交錯するラップの妙が存分に楽しめます。
Central Cee feat. Lil Durk - Truth in The Lies
Ne-Yo - So Sick
『BAND4BAND』
Lil Babyとのコラボ曲で、2024年5月にアルバムから先陣を切るリードシングルとしてリリース。公開直後からTikTokで94万本以上の動画が投稿され、瞬く間にバイラルヒットへと躍進しました。その勢いを受け、全米シングルチャートではイギリスのラップ曲史上最高位となる18位を記録し、さらに世界各国のチャートにもランクイン。Spotifyではすでに3億回以上のストリーミング数を誇り、セントラル・シーを代表する楽曲のひとつとしての地位を確立しています。
サウンド面ではUKドリルらしさを前面に押し出し、セントラル・シーとLil Babyが互いの成功と富を誇示しながら、ストリートで培った強さとライフスタイルを力強くラップ。「M for M」「band for band」といったフレーズが、競い合う高揚感をさらに盛り上げる一曲です。
Central Cee feat. Lil Baby - BAND4BAND
自己表現を重視するアーティストの“次の一手”
セントラル・シーは、「かつては目標が見えずに無駄な努力をしていると感じていた」時期を経て、明確なビジョンを手に入れたと語ります。
「以前は、ほとんど風に向かって小便をしているようなものだった。でも今は、ちゃんと狙いを定められるようになったし、目標が見えてきた。実現するかもしれないと思えるし、何をすればいいのかが分かった。以前はただ希望や信念に頼るだけだったけどね」
さらに、彼は新アルバムの中でこれまでの楽曲や他のアーティストのリリックをサンプリングし、独自のスタイルをさらに洗練させています。
2020年の「Day in the Life」のリリックを引用した「Up North」
Ice Spiceの2024年のシングル『Think U the Shit (Fart)』を取り入れた「No Introduction」
Skeptaの「Bullet From a Gun」を引用した「Limitless」
…と、あらゆる影響源を自分の音楽に溶け込ませ、自身の音楽的個性を際立たせています。
ドリルミュージックをめぐる議論とCentral Ceeの立場
また、ドリルミュージックに対しては「暴力を助長する」という批判がある一方、セントラル・シーは反論を口にすることなく、「自分自身とコミュニティにとってポジティブな影響がある」と強調しています。
「この音楽が俺の小さなコミュニティに与えている恩恵をとてもよく理解しているよ。俺が成功するだけで、たくさんの扉が開かれて、周りの人たちにとって良い機会がさらに増えるんだ。それは次第に広がっていく」
彼自身の成功がコミュニティ全体のチャンスを広げる波及効果につながっている点を、彼は誇りに思っているのです。
おわりに─“偉大さ”を焦らず追求し続ける彼の未来
イギリスのドリルシーンから世界規模のラップスターへと成長を遂げたセントラル・シー。そのデビューアルバム『CAN’T RUSH GREATNESS』は、彼が時間と経験を重ねることで手にした音楽的成熟を象徴する作品です。
ドリルに根ざしたリアルなストリート感覚と、自己肯定を貫く歌詞が詰め込まれたこのアルバムは、国際的なリスナーの耳を強く惹きつけています。
「急いでも偉大にはなれない」というアルバムタイトルにあるように、彼は焦らず、自分のペースで世界の音楽シーンを登り詰めていくことでしょう。これまで培ってきた信念、コミュニティとの結びつき、そして自己表現を重視する姿勢こそが、セントラル・シーのさらなる進化を約束しているのです。次の作品でどんな新境地を切り開くのか――その動向から目が離せません。
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