エミネムの最新作に見る革新と回帰:『The Death of Slim Shady (Coup De Grâce)』
ミシガン州デトロイト出身のラッパー、Eminem(エミネム)は、これまでに全世界で2億2000万枚以上のアルバムとシングルを売り上げ、2000年代にはアメリカで最も売れたアーティストとして名を馳せ、2010年代も3位にランクインするなど、現在に至るまでラップシーンをリードし続けています。
2020年、エミネムがサプライズリリースしたアルバム『Music to Be Murdered By』は、発売初週に全米アルバムチャートで1位を獲得しました。この結果、エミネムは10作連続で全米アルバムチャート1位を獲得した初のアーティストとなり、同チャートで1位を10作以上獲得した6人のアーティストのうちの1人となりました。
そして、2024年7月に、エミネムは約4年ぶりとなるアルバム『The Death of Slim Shady (Coup De Grâce)』をリリースしました。今回の記事では、この最新作に焦点を当て、その魅力について詳しく探っていきます。
レーベル : Aftermath Entertainment, Interscope Records & Shady Records
リリース日 : 2024年7月12日
名前 : Eminem
本名 : Marshall Bruce Mathers III
年齢 : 51歳
出身地 : ミシガン州デトロイト
20年ぶりの首位獲得で完全復活!:『Houdini』の影響と背景
この新アルバムについて、エミネムは2024年4月にアルバムをリリースすることをアナウンスし、2024年半ばのリリースを予告しました。その翌月には、アルバムからの最初のシングル『Houdini』がリリースされました。
このシングルは、エミネムの代表曲『Lose Yourself』の作詞を手掛けたプロデューサー、Luis Restoとの共同プロデュースによる作品です。
Eminem - Houdini
『Houdini』というタイトルは、死をも恐れぬスタントで有名なアメリカ人マジシャン、ハリー・フーディーニにちなんで名付けられています。エミネムは過去にもシングル『Role Model』(1999)のミュージックビデオでフーディーニのマジックを再現しており、彼の存在がエミネムに大きなインスピレーションを与えていることがうかがえます。
Eminem - Role Model (1999)
さらに興味深いことに、ハリー・フーディーニはミシガン州デトロイトで52歳で亡くなっており、デトロイトはエミネムの故郷でもあります。エミネム自身も2024年10月に52歳になる予定であり、こうした共通点も注目すべき点です。
この曲で、エミネムは自身のヒットソング『Without Me』(2002年)のフレーズと、Steve Miller Bandの『Abracadabra』(1982年)のビートをサンプリングしています。曲の冒頭では、エミネムのマネージャーであるポール・ローゼンバーグがアルバムを聴いているシーンから始まり、エミネムが再び帰ってきたことを伝えています。エミネムは過去に直面した困難や薬物依存の時代を乗り越え、再び成功を収めた自らの経験を振り返りながら今の自分を描いています。
エミネムはこの曲で、リリカルな技術を駆使し、自信に満ちたパフォーマンスを披露しています。彼は自身の成功と人気の上昇を強調し、社会や検閲に対する反抗心を表現しています。また、過去と現在の自分のギャップや影響力を描写し、ユーモアと皮肉を交えて周囲の人々や状況について語ります。最後には、どんな困難があっても自分は変わらず、再び舞台に戻ってきたことを宣言しています。
Eminem - Without Me (2002)
Steve Miller Band - Abracadabra (1982)
エミネムの『Houdini』のミュージックビデオは、過去に『Not Afraid』、『Rap God』、『The Monster』を手掛けたリッチ・リーが監督を務めています。このビデオには50 Cent、スヌープ・ドッグ、Royce da 5′9″、The Alchemistといった多くのアーティストがカメオ出演しており、エミネムの子供たちも登場しています。公開後、YouTubeで1億回以上の再生回数を記録しました。
また、このシングルは全米シングルチャートで2位を獲得し、世界12カ国のチャートで首位に輝きました。特にイギリスでは、ジュース・ワールドとのコラボ曲『Godzilla』以来の首位となり、ソロ曲としては2005年2月の『Like Toy Soldiers』以来、約20年ぶりの1位を達成しました。
エミネムの創作プロセスと初期作品の影響
エミネムは、2022年のインタビューで、創作意欲がわかないときや新たなインスピレーションを求めるときに、デビュー初期の3枚のアルバムに立ち返ることがあると述べています。
新アルバム『The Death of Slim Shady (Coup De Grâce)』のアートワークでは、1999年に発表したアルバム『The Slim Shady LP』で使用されたフォントや色使いが参照されており、過去のプロジェクトが、新アルバムに踏襲されています。
収録曲について
全19曲が収録された今作は、エミネムと同じミシガン州出身のBig SeanやBabyTron、さらに彼の作品でお馴染みのシンガーSkylar Grey、フィリピン系アメリカ人のEz Mil、JID、Jelly Rollなど、多彩なアーティストが参加しています。エミネムはこのアルバムがコンセプトアルバムであるため、曲を順番通りに聴かないとその意味が分からないかもしれないとXで話しています。
『Renaissance』
アルバムのオープニングを飾る『Renaissance』では、エミネムが自分の実力と独自のスタイルを誇示しつつ、社会や批判者への挑戦と苛立ちを力強く表現しています。曲の後半では、彼はヘイター(批判者)の視点に立ち、現代の音楽シーンに対する不満を率直に述べています。ヘイターたちは常に何かしらの欠点を見つけ出し、批判することに終始していると語ります。
例えば、「ケンドリック・ラマーのアルバムは良かったが、ヒット曲がなかった」「ジョイナー・ルーカスのアルバムはダサかった」といった批判が挙げられています。これは、偉大なアーティストが常に批判される運命にあることを示唆しています。最後に、エミネムは自分が真に評価されるのは死後のことだと語り、現代社会の批判文化に対する苛立ちを表現しています。
Eminem - Renaissance
『Fuel』
9曲目『Fuel』は、アトランタ出身のラッパーJIDとのコラボレーションであり、両者の視点からそれぞれの経験や成長について語られています。JIDは自身のコミュニティでの暴力や犯罪について触れ、仲間たちとの強い絆や困難を乗り越える方法を描写しています。一方、エミネムはラップ界で築いてきた地位や過去のバトル、困難を振り返り、他のラッパーへの挑戦と自身のスキルを強調しています。
また、エミネムは曲中でディディに触れ、性的暴行疑惑などの社会的な問題についても言及しています。この曲は、エミネムの挑発的なスタイルを反映しており、彼の鋭いリリックと技巧が光る作品となっています
Eminem feat. JID - Fuel
『Temporary』
15曲目『Temporary』は、エミネムのヒットシングル『Love the Way You Lie』で作詞提供を行ったほか、『I Need a Doctor』など多くのエミネムの楽曲でコラボレーションしているSkylar Greyとの曲です。Skylar Greyは、この曲が完成するまでひどいスランプに陥り、何も良いアイデアを思いつけなかったと述べています。しかし、突然『Temporary』という曲ができ上がり、これが1年の努力の成果だと感じていると語っています。
この曲は、エミネムが娘ヘイリー・ジェイドに向けた愛と励ましのメッセージを表現しています。彼の死後もヘイリーが強く生きていけるように願い、困難な時でも家族を大切にし、強くあり続けることを助言しています。
コーラスはSkylar Greyが担当し、歌詞では心の痛みが一時的なものであり、時間が経てば癒えることを示唆しています。曲の冒頭には、幼少期のヘイリーとエミネムの会話の録音が使われており、全体を通じてエミネムの娘への深い愛情と家族の絆の大切さが強調されています。
Eminem feat. Skylar Grey - Temporary
『Somebody Save Me』
アルバムのエンディングトラック『Somebody Save Me』は、シンガーのJelly Rollとのコラボ曲で、Jelly Rollが2020年に発表したシングル『Save Me』をサンプリングしています。Jelly Rollは幼少期からエミネムの大ファンであり、エミネムの音楽に深く共感してきました。エミネムが彼の曲『Save Me』を新しいアルバムでサンプリングするという知らせを受け、感動して涙を流したと自身のインスタグラムで明かしています。
『Somebody Save Me』は、彼の過去の薬物依存とそれが家族に与えた影響について深く掘り下げた内容です。この曲では、エミネムが娘や家族に対して深い後悔と謝罪の言葉を述べ、自分が父親としての役割を果たせなかったことに対する苦しみを表現しています。
歌詞には、彼が娘たちの重要な人生の瞬間に立ち会えなかったこと、薬物を優先して家族を傷つけたことに対する後悔が込められています。また、彼の弟や甥たちにも謝罪し、家族への愛情と絶望の間で揺れ動く心情が描かれています。特に、ジェリーロールが担当するコーラス部分では、薬物依存からの救いを求める切実な願いが込められています。
Eminem feat. Jelly Roll - Somebody Save Me
Jelly Roll - Save Me (2020)
おわりに
エミネムのニューアルバム『The Death of Slim Shady (Coup De Grâce)』は、全米アルバムチャートで初登場1位を獲得し、彼にとって11枚目の首位となりました。また、このアルバムは2024年で最も売れたラップアルバムであり、テイラー・スウィフトの『The Tortured Poets Department』に次いで今年2番目に売れたアルバムとなりました。
特に注目すべきはリードシングル『Houdini』で、この曲はエミネムの復活を象徴する楽曲です。彼のキャリア初期の作品への回帰と成熟した表現が絶妙に組み合わさっており、アルバム全体の人気に大きく貢献しました。
『The Death of Slim Shady (Coup De Grâce)』は、エミネムがこれまで積み重ねてきた経験と新たな挑戦に立ち向かう姿勢を示しており、彼のオルターエゴであるスリム・シェイディーとの内面的な闘いが描かれています。このアルバムは、彼のリリカルな技巧と鋭い社会批評が光る作品であり、エミネムの音楽の魅力を再確認する絶好の機会です。
また、『Temporary』や『Somebody Save Me』といった楽曲では、エミネムの深い内面が露わにされています。それらの楽曲を聴くことで、彼の心の奥底に触れ、エミネムというアーティストの真髄を味わうことができるでしょう。
そして、彼の音楽が持つ力をぜひその耳で確かめてください。新たな感動が、あなたを待っているはずです。
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