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『KOTMS vol.2』に込めたデンゼル・カリーの12年の想いとは?
フロリダ州キャロルシティで生まれたDenzel Curry(デンゼル・カリー)は、小学生時代からラップバトルに挑戦し、その頃からラッパーとしての未来を描いていました。高校在学中にはすでにデビューアルバムの制作に取り組み、2011年にはミックステープ『Curry Wuz Here』をリリースします。その後、ヒップホップグループRaider Klanに加入し、2013年にはデビューアルバム『Nostalgic 64』を発表しました。
2015年、初の2枚組EP『32 Zel/Planet Shrooms』をリリース。この作品に収録された『Ultimate』は、XXXTentacionやカニエ・ウェストとのコラボレーションで知られるプロデューサー、Ronny Jが手掛けた一曲であり、Spotifyでのストリーミング回数は驚異の2億回を超え、カリーの代表曲として定着しました。
さらに、2022年には黒澤明や日本文化からインスピレーションを受けたアルバム『Melt My Eyez See Your Future』を発表。このアルバムは、彼のキャリアの中でも最も成熟した作品と称され、数々の音楽メディアでその年のベストアルバムに選ばれるほどの評価を受けました。
そして、2024年7月。カリーは待望の新作ミックステープ『King Of The Mischievous South Vol. 2』を発表しました。本記事では、その新作の魅力を掘り下げていきます。
レーベル : Concord, Concord Music Group, Loma Vista Recordings, PH Recordings, LLC
リリース日 : 2024年7月19日
名前 : Denzel Curry
本名 : Denzel Rae Don Curry
年齢 : 29歳
出身地 : フロリダ州キャロルシティ
デンゼル・カリーが振り返る『King Of The Mischievous South』シリーズの進化と影響
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新作『King Of The Mischievous South Vol. 2』は、デンゼル・カリーの初期の作品『King of the Mischievous South, Vol. 1』(2012)の続編として、ファンからの期待を背負ってリリースされました。12年という長い時を経てのリリースとなり、カリー自身も、この新作が初期のサウンドをしっかりと継承していることから、続編として発表することを決意したと語っています。タイトルが示す通り、この作品はカリーの原点に立ち返りながらも、12年間で培った経験と進化を反映させた、まさに彼のキャリアを象徴する一作です。
俺が同時に進めてた2つのプロジェクトのうち、1つは後々の展開に繋がるものだった。そして、12年かけて今の形になったもう1つのプロジェクトが、『King of the Mischievous South Vol. 2』として完成したんだ。このタイトルにしてる理由は、1作目と同じサウンドを使ってるからなんだ。
『King of the Mischievous South, Vol. 1』がリリースされたとき、デンゼル・カリーはわずか16歳。その頃を振り返り、彼は「俺はまだガキだった」と回想しています。
俺はガキだったんだ。当時、南部を代表するお気に入りのラッパーたちの真似をしようとしていたんだ。Soulja SlimやNo Limit、そして特にThree 6 Mafia。それにマイアミのカルチャーを付け加えただけさ。
シリーズ『King Of The Mischievous South』は、メンフィスを代表するラップグループ、Three 6 Mafiaから大きな影響を受けています。特に、グループの初期メンバーであり、2013年に亡くなったLord Infamousのラップスタイルが、デンゼル・カリーに多大な影響を与えたことがうかがえます。
最初の『KOTMS』(King Of The Mischievous South)は、もちろんThree 6 Mafiaの影響が大きいし、特にLord Infamousのことは本当に尊敬してたんだ。彼の魂が安らかでありますように。俺のラップスタイルは、速いフローとか、彼から学んだんだよ。それは『Walkin’』や『Clout Cobain』を聴けばわかると思う。でも、俺はマイアミ出身だから、ラップの内容は主にマイアミでの出来事についてなんだ。あと、Soulja Slim、Master P、DJ Screw、UGK、Trina、Trick Daddy、Rick Rossからもかなり影響を受けてるね。
新作ミックステープの制作秘話と豪華ゲスト陣の参加
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新作は全15曲が収録され、10組以上のアーティストがゲスト参加するなど、ミックステープでありながら非常に豪華な内容となっています。制作についてデンゼル・カリーは、収録曲のほとんどを自宅のベッドで作り上げたと明かし、さらに、同時に2つのプロジェクトを進行させる難しさについても言及しています。
制作についてだけど、曲は即興で作ったよ。いくつかはUltragroundのセッションから生まれたけど、ほとんどの曲はベッドで作ったんだ。最初の作品と同じようにね。『Hot One』は家の1階で作って、『Hit The Floor』はAirBnbの部屋で作ったね。残りの曲は実際にスタジオに行って作ったと思う。俺はただ自由に流れに任せて、自分のやりたいことをやりながら、いろいろと模索していたんだ。ひとつのプロジェクトに取り組みつつ、スタジオに呼ばれないときは、別のプロジェクトに手をつけてたんだ。苦労は尽きなかったね。
ゲストには、A$AP Rocky、A$AP Ferg、Ty Dolla $ign、またアメリカ南部出身の2 Chainz、Juicy J、Project Pat、Ski Mask the Slump God、Kenny Mason、That Mexican OTなど、男らしさが際立つアーティストたちが参加しました。デンゼル・カリーは、多くの南部出身のラッパーや影響を受けたアーティストたちが参加し、最終的にプロジェクトが成功したと感じています。
俺は、このプロジェクトに特定のラッパーをフィーチャーしたいと最初から思ってたんだ。だから、Ski Mask the Slump God、2 Chainz、Project Pat、Juicy Jみたいなアーティストが参加してくれたのは本当に大きかった。今回は、テキサス、フロリダ、カロライナとか、南部出身のアーティストを中心に集めたんだ。でも、南部以外からもA$AP FergやArmani Whiteを迎えていて、彼ら全員が同じアーティストたちから影響を受けているんだよ。
収録曲について
『HOT ONE』
4曲目『HOT ONE』は、A$AP Fergとノースカロライナ出身のフィメールラッパーTiaCorineとの曲で、2024年6月にリードシングルとしてリリースされました。この曲は、メンフィス出身のラップグループGimisum Familyの『Fear No Evil』(1994)をサンプリングしています。曲中では、デンゼル・カリーらが自分たちの成功や力、そして自信を誇示し、他者への挑発的なメッセージを送っています。
Denzel Curry feat. TiaCorine & A$AP Ferg - HOT ONE
Gimisum Family - Fear No Evil (1994)
『G’Z UP』
7曲目『G’Z UP』は、2 Chainzとテキサス出身のMike Dimesとのコラボ曲です。デンゼル・カリーが「みんなを盛り上げてくれる」と語るように、中毒性が高く、クラブで大いに盛り上がりそうなナンバーに仕上がっています。
この曲はニュージーランドでレコーディングしたんだけど、その同じセッションに、俺の友人MELODOWNが現れたんだ。 彼は俺がこの曲を作った時のスタジオセッションに来てくれたよ。 『G'Z UP』はみんなを盛り上げてくれるよ。
この曲では、自身の成功を追い求める中での強い自己主張と揺るぎない決意が際立っています。デンゼル・カリーは、他人に頼らず、成功を手にするためには全力を尽くすべきだと語ります。その一方で、2 Chainzは挑発的な姿勢で、自らのライフスタイルや優位性を力強くアピールします。そして、Mike Dimesは、成功のために手段を選ばず、周囲からの批判にも屈しない強い意志を持っていることを表現しています。
Denzel Curry feat. 2 Chainz & Mike Dimes - G'Z UP
『COLE PIMP』
11曲目の『COLE PIMP』は、Ty Dolla $ignとJuicy Jをフィーチャーし、Love Unlimited Orchestraの「Midnight and You」(1974)をサンプリングした楽曲です。この曲では、成功したライフスタイルとそれに伴う人間関係の複雑さがテーマとなっています。
Ty Dolla $ignは、贅沢なライフスタイルを気に入る女性との関係を描き、彼女がその生活に満足し、決して離れようとしない姿を鮮やかに描写しています。一方、Juicy Jは、自らの富と地位を誇示し、他人の期待に応えない冷徹な態度を貫きます。そしてカリーは、他の男性と比較しながらも、自分なりの方法で成功を手にする姿勢を力強く強調しています。
Denzel Curry feat. Ty Dolla $ign & Juicy J - COLE PIMP
Love Unlimited Orchestra - Midnight and You (1974)
『WISHLIST』
12曲目の『WISHLIST』は、Armani Whiteとのコラボレーションによる楽曲です。実は彼らは、2023年1月に発表されたシングル『GOATED.』でも共演しており、今回の楽曲もその流れを汲んだ作品と言えます。
俺と彼は『Goated』を作った後だったから、この曲を完成させるのは本当に簡単だったよ。彼がスタジオにやって来て「これはいいね」と言って、すぐに曲に取り掛かってくれたんだ。
この曲では、Willie Hutchの1975年の楽曲『Love Me Back』をイントロでサンプリングし、成功と金銭的豊かさを追求する重要性がテーマとなっています。デンゼル・カリーは、自身の成功を誇示しながらも、他者に対して「お金を貯めてビジネスに集中せよ」とアドバイスを送ります。彼は、女性が物質的なものを求めがちであることを理解しつつも、それを受け入れながら自らの成功とビジネスに焦点を当てるべきだと強調しています。
一方、Armani Whiteのバースでは、彼自身の経験や人間関係、そして成功を手にするために費やした努力が描かれています。彼は過去の経験やビジネスでの活動を振り返り、厳しい状況にどう対処したか、人間関係に対する見解を共有しています。
Denzel Curry feat. Armani White - WISHLIST
Willie Hutch - Love Me Back (1975)
おわりに
デンゼル・カリーの最新作は、Three 6 Mafiaの影響を強く受けた楽曲が多く収録されており、彼らの偉大さを改めて認識させる一枚に仕上がっています。また、UGKの『Int'l Players Anthem (I Choose You)』やProject Patの『Choose U』の元ネタとして知られるWillie Hutchをサンプリングするなど、南部ラップへの情熱が色濃く感じられます。ゲストアーティストも南部出身が中心で、ヒューストンの「Chopped & Screwed」を取り入れたA$AP Rockyをフィーチャーするなど、カリーの独自のセンスが光ります。
さらに、10代からラップキャリアを歩んできたカリーは、30歳を前にして若い世代に自身を知ってもらうために努力を続けています。ファンと直接会って話すことで、応援してくれる人々の存在をより実感していると語っています。
俺はただ、もっと若い世代が集まる場所で目立ちたいだけなんだ。多くの人は俺を『Ultimate』とか『Clout Cobain』、あるいは「XXL Freshman Class」のサイファーで知ってると思う。それが現実だよ。でも、時間が経つと、誰にだってキャリアの中でラッキーな瞬間が訪れるものさ。俺もこうして長くやってこれて、本当に感謝してる。今の俺に必要なのは、自分自身と真剣に向き合って、やるべきことをきっちりこなすこと。そして、もっと外に出て、自分をアピールしていくことだと思ってる。誰が俺に興味を持ってるのか、誰が俺のことを気に入ってくれてるのかなんて、実際に外に出て、人と話してみないとわからないんだよ。
デンゼル・カリーは、これまでのキャリアで培ってきたすべての経験に対し、深い感謝の念を抱いています。しかし、その感謝は単なる感謝に留まらず、彼をさらなる高みへと押し上げる原動力となっています。彼は、これからも自らの信念を貫き、妥協することなく、自分の音楽を磨き続ける決意を固めています。その音楽は、過去の巨匠たちから受け継いだ遺産を土台にしながらも、全く新しい次元へと進化し続けることでしょう。
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