Nasの魔法のトリロジー:『Magic 3』の全貌を解剖!
ニューヨーク、クイーンズ区を代表するラッパー、Nas(ナズ)は、キャリアを通じて16枚のアルバムをリリースしてきました。彼は2018年までに13回グラミー賞にノミネートされるなどの実績を持ちながら、長らく受賞の喜びを知らなかったため、「無冠の帝王」との異名を持っていました。
その状況が変わったのは、ヒットメーカーとして知られるHit-Boy(ヒット・ボーイ)をエグゼクティブプロデューサーに迎えた2020年のアルバム「King's Disease」のリリース時でした。このアルバムで彼は待望のグラミー賞を獲得。その勢いを持って、2021年には「King's Disease II」、2022年には「King's Disease III」を立て続けにリリースしました。さらに、2021年の終わりには、ヒット・ボーイとの共同プロジェクト「Magic」シリーズもスタートさせました。
今回の記事では、ナズの最新アルバム「Magic 3」(2023)にスポットを当て、各収録曲の背景や解説を深堀りしていきます。
レーベル : Mass Appeal
リリース日 : 2023年9月14日
名前 : Nas
本名 : Nasir bin Olu Dara Jones
年齢 : 50歳
出身地 : ニューヨーク
ヒップホップの黎明期からの感謝:Nasのスピーチと50周年コンサート
前作「Magic 2」のリリースの翌月、ナズはロサンゼルスで開催されたBillboard主催のイベント「2023 R&B/Hip-Hop Power Players」に出席しました。このイベントは、R&B・Hip Hopの分野で活躍したアーティストを称え、さらにヒップホップの生誕50周年を祝う特別なイベントでした。このイベントには、Lil Wayne、Ice Spice、Offset、Nav、Coi Leray、Armani Whiteなどのラッパーから、Mario、LA Reid、Metro Boominなどシンガーからプロデューサーまで多くの関係者が参加しました。
ステージに登壇し、スピーチを行ったナズは、賞を受けるためではなく、音楽芸術への情熱に導かれ、これまで音楽に没頭してきたことを強調しました。
また、ナズの言葉にあるように、このイベントの数日後には、ヒップホップの誕生50周年を祝うためのイベント「Hip Hop 50 Live」がヤンキースタジアムで開催されました。
何万人もの人々がヤンキースタジアムに詰めかけ、ヒップホップの創設者であるとされるDJ Kool Hercも出席し、Slick Rick、Doug E. Fresh、Run-DMCなどのレジェンドがパフォーマンスを披露。さらには、Fat Joe、Lil Kim、Eve、Ashanti、Wu-Tang Clanのメンバーなどもライブを披露し、T.I.、Lil Wayne、Snoop Doggなど、各都市を象徴するラッパーたちも出演し、熱狂的なイベントになりました。
「Magic」シリーズと「King's Disease」とは?
前述のグラミー受賞アルバム「King's Disease」は、注目のゲストアーティスト陣で充実しています。若手から中堅のラッパー、例えばBig SeanやDon Toliverだけでなく、90年代にナズ、Foxy Brown、AZ、Cormegaが結成したラップグループThe Firmも出演し、老若男女に訴える多様なアーティスト陣が印象的でした。
「Magic」シリーズの幕開けとなる「Magic」(2021)は、アルバム「King's Disease II」(2021)からわずか4ヶ月後に登場しました。この「Magic」では、A$AP RockyとDJ Premierのみがゲストとして参加し、全曲がナズとヒット・ボーイによるプロデュースで成り立っています。
続編の「Magic 2」は、2023年7月にリリースされ、ゲストアーティストとして50 Centと21 Savageのみを招き、このアルバムでも全曲がナズとヒット・ボーイのプロデュースによるものです。
そして、「King's Disease」シリーズのフィナーレとも言える「King's Disease III」は、ナズのキャリアで初めてゲストアーティストを迎えない作品として、全米チャートで10位にランクインしました。これにより、ナズは16回目のトップ10入りを果たし、ジェイ・Zと並ぶ最多トップ10入り記録を保持するラップ・アーティストとしての地位を確立しました。
収録曲について
このような経緯を経てリリースされた新作「Magic 3」は、ナズとヒット・ボーイがエグゼクティブプロデューサーを務め、ゲストにはLil Wayneのみが参加し、全15曲が収録されています。
「Fever」
アルバムの冒頭を飾る「Fever」では、ナズがフックでラップし、「ニューヨークの狼よ、これが予言だ/これは運命なんだ、常に進化し続けるんだ」と歌っています。さらに、コーラス部分では「Represent, represent」と繰り返され、ナズのデビューアルバム「Illmatic」(1994)に収録されている曲「Represent」がサンプリングされており、イントロではBit 'A Sweetの「Speak Softly」もサンプリングされています。
Nas - Fever
Nas - Represent (1994)
Bit 'A Sweet - Speak Softly (1968)
「Superhero Status」
3曲目の「Superhero Status」では、ナズは自身の能力と価値を語りつつ、他者からの認識の不足や自らがサイドラインに置かれることへの不満を表現しています。彼は自分をスーパーヒーローとして描きながら、他者の評価と自己認識の間のギャップを強調しています。この曲の冒頭部分でEddie Kendricksの「I'm on the Sideline」がサンプリングされており、それが曲の深みを一層引き立てています。
Nas - Superhero Status
Eddie Kendricks - I'm on the Sideline (1972)
「Never Die」
6曲目「Never Die」はこのアルバムで唯一Lil Wayneが参加している曲で、Lil Wayneとの共演は2011年の「Tha Carter IV」以来12年ぶりです。この曲では2人は自らの成功や影響力を歌い上げ、ファンが待ち望んでいたこのコラボの復帰に言及しています。彼らは自分たちを音楽界のアイコンとみなし、多くの困難を乗り越えた自信を表現しています。さらに音楽の進化や新世代への影響を強調し、曲の冒頭にはSmokey Robinson and The Miraclesの「Tomorrow Is Another Day」がサンプリングされています。
Nas feat. Lil Wayne - Never Die
Smokey Robinson and The Miracles - Tomorrow Is Another Day (1969)
「Sitting With My Thoughts」
10曲目の「Sitting With My Thoughts」は、故Nipsey Hussleのセリフ、「Ayy Hit, how we gon' lose with shit like this, my nigga? / ヒット、こんなことでどうやって負けるんだ、俺のダチだろ?」とセリフから始まるのが印象的な曲です。
この曲では、1バース目でナズが過去を振り返り、若い頃の無鉄砲さや家族のモチベーション、成功の裏側の困難やその中での立ち上がる強さを歌っています。2バース目では、彼が受けた他の人々のサポートや、自身の成功がどのように周りの人々に影響を与えているか、そしてラップが彼にとってどれほどの意味を持つかを歌っています。コーラス部分では、祈りや成功への願望、そして新しい世代へのメッセージが強調されています。
Nas - Sitting With My Thoughts
「Japanese Soul Bar」
14曲目の「Japanese Soul Bar」は、日本に焦点を当て、ヒップホップミュージックの愛好者に向けて語りかける内容です。
イントロでナズが日本のヒップホップファンに向けて歌いかけ、彼らのヒップホップ愛について問いかけます。1バース目では、彼の出身地や音楽業界での経験、そして成功の背景にある苦労や挑戦について触れています。彼は音楽の歴史や業界での重要人物を称え、自身の国際的な活動、特に日本での経験についても語ります。コーラス部分では、日本のソウルバーでのリラックスした時間や、音楽との関わり方、アーティストとしての取引の面白さについて言及します。アウトロでは、日本のソウルバーの特別な雰囲気やヒップホップへの敬意を強調し、ナズ自身のスタイルや成功についての質問と回答が含まれています。彼は自身をヒップホップの産物とし、古典的なスタイルから新しいスタイルまでを結ぶ存在として位置づけています。
さらに、この曲のタイトル「Japanese Soul Bar」が下北沢にある特定のソウルバーを指しているのではないかとの噂が囁かれています。
Nas - Japanese Soul Bar
プロデューサーの夢が現実に:NasとHit-Boyの音楽的結びつき
リリースから数日後、ナズとヒット・ボーイは、制作について振り返る動画を公開しました。ナズはこの中で、自分が予想以上の成果を達成し、6枚目のアルバムを完成させたことに感動し、世界の優れたプロデューサーとの協力に感謝の意を表しました。
2020年のアルバム「King's Disease」から2つのシリーズを同時に制作し、リリースした彼らは、この3年間で6枚のアルバムを発表し、その数字は驚異的です。
数年の間に、ナズの右腕として成功を収めたヒット・ボーイは、自身のInstagramで、彼が2011年に携帯電話に書いたメモを公開しました。このメモには、リアーナのシングルをプロデュースし、ナズのアルバムに3曲を提供することを目標に掲げています。そして、驚くべきことに、その後ヒット・ボーイはリアーナの楽曲に3曲参加し、ナズのアルバムを制作しました。ヒット・ボーイはこの事実について、次のように述べています。
おわりに
ナズは、キャリアを通じて16枚のアルバムをリリースし、長い間「無冠の帝王」としての孤独を味わっていました。しかし、運命のようにヒット・ボーイとの出会いが彼の音楽の航路を変えました。
彼らは「King's Disease」シリーズや「Magic」シリーズを立て続けにリリースし、ヒップホップ界に新たな伝説を築き上げ、「Magic 3」は、二人の間の不滅の絆と音楽的な魔法が融合した、時代を超える名作となりました。ヒット・ボーイは、この協力関係を「夢のような現実」と称賛し、ナズへの感謝の気持ちを熱く語りました。
このように、相性ぴったりの彼らの音楽は、ヒップホップの歴史に新たなページを刻み、数え切れないほどのファンの心を魅了しました。
彼らの今後の道のりは、新しいインスピレーションや感動的な楽曲を生み出し続け、そのメロディは、未来も変わらず響き渡ることでしょう。
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