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ガンナとの決別とヤング・サグ釈放——激動の先にリル・ベイビーが示す未来とは——新作『WHAM』を紐解く

今回ご紹介するLil Baby(リル・ベイビー)は、ジョージア州アトランタ出身のラッパー。2017年のミックステープ『Harder than Hard』『Too Hard』で注目を集め、2018年にはデビューアルバム『Harder Than Ever』をリリース。全米アルバムチャートで3位を記録し、ドレイクとの「Yes Indeed」や、ガンナとの「Drip Too Hard」といったヒット曲を生み出しました。

2020年のセカンドアルバム『My Turn』では、全米アルバムチャートで5週連続1位を獲得。そこからのデラックス版に収録された「The Bigger Picture」は、ジョージ・フロイドの抗議運動をテーマにした社会的メッセージが高く評価され、グラミー賞にノミネートされています。さらに、同年のApple Music Awardsでは「Artist of the Year」に選ばれ、音楽業界内外から大きな注目を浴びました。

その後も、リル・ダークとのコラボアルバム『The Voice of the Heroes』(2021年)や『It’s Only Me』(2022年)で連続1位を記録。2023年には自身のレーベル「Glass Window Entertainment」を設立し、新たなアーティストの発掘にも力を入れています。

そして2025年1月、通算4枚目のアルバム『WHAM』をリリース。豪華なゲスト陣とトラップビートを駆使した楽曲を多数収録し、その音楽の幅をさらに拡大させています。


レーベル  : Motown Records, Quality Control, Universal Music Group
リリース日 : 2025年1月3日
名前    : Lil Baby
本名    :    Dominique Armani Jones
年齢    : 30歳
出身地   :    ジョージア州アトランタ



リル・ベイビーの冷徹な言葉とガンナとの断絶

2022年、ヤング・サグガンナを含むYSL Records関係者28人がRICO法(組織犯罪取締法)で逮捕されました。特にガンナが司法取引によって減刑を受け、“スニッチ”と批判されたことが大きな波紋を呼びます。リル・ダーク21サヴェージなど、多くのアーティストがこれに言及。リル・ベイビーも批判派だと噂され、2人の関係は一気に注目されました。


ガンナとの決別

2人の関係は、リル・ベイビーのキャリア初期にさかのぼります。ガンナは、彼がラッパーとして成長するうえで重要なメンター役を務め、デビューミックステープ『Perfect Timing』にゲスト参加。その後のデビューアルバム『Harder Than Ever』(2018年)にも共演し、同年にはリル・ベイビーガンナのコラボミックステープ『Drip Harder』を発表しました。

ここに収録された「Drip Too Hard」は、リル・ベイビーが全米シングルチャートのトップ5に入った初の楽曲であり、セカンドアルバム『My Turn』や3枚目の『It’s Only Me』で連続1位を獲得していくきっかけともなった重要な作品です。

しかし2024年のインタビューで、ファンから続編を期待されていた『Drip Harder』について聞かれた際、リル・ベイビーは「俺たちの関係はもうない」と冷たく答えます。その後ネット上では「リル・ベイビーガンナなしではヒットを作れない」といった声も上がりましたが、当人は「インターネットは何でも言うからな。俺がどれだけヒット曲持ってると思ってる? そんなの意味ないだろ」と一蹴しました。

さらに、2023年に発表したシングル「350」では「そのことについて何も言わないなんて、お前は裏切り者だ」とラップ。ファンの間ではこれがガンナへの痛烈な批判と受け取られましたが、リル・ベイビーは「特定の誰かを指してるわけじゃない」と否定しました。しかし同年12月のライブでは、「Drip Too Hard」を途中で止め、「裏切り者なんてくそくらえ。この曲は止めろ」と発言し、彼のガンナに対する複雑な感情が浮き彫りとなりました。

Young Thugの釈放

2024年11月、Young Thugが釈放された際、彼はリルベイビーに対して「Wham、こいつらネズミどもに一発かましてやろうぜ、ピーター」とツイートし、新たなコラボレーションを示唆しました。これに対し、リルベイビーは「お前がいなくて寂しかったぜ、兄弟!無事に帰って来てくれて感謝してる。家族のもとに健康で戻ってこれて本当に良かった。億万長者になれよ!」と心からの祝福を送りました。

収録曲について

新作『WHAM』は、“Who Hard as Me”の頭文字を取ったタイトルで、彼がこれまでに展開してきた「Hard」シリーズの4作目にして最終作とされています。アルバムには、Travis Scott21 SavageFutureYoung ThugRod WaveGloRillaなど豪華なアーティストが参加し、全15曲が収録されています。

『Dum, Dumb, and Dumber』

Young ThugFutureを迎えた豪華コラボで、プロデュースはリル・ベイビーの代表作『Yes Indeed』を手掛けたWheezyです。
これはYoung Thugにとって出所後初の公式楽曲であり、曲中では刑務所の経験やそこからの復活が語られます。3人の成功と贅沢なライフスタイルが赤裸々に描かれ、同時にストリート出身のリアルさも強調。派手さとリアリティが交錯する、印象深いトラックに仕上がっています。

Lil Baby feat. Young Thug & Future - Dum, Dumb, and Dumber

『I Promise』

こちらはKodak Black21 Savageの楽曲でも知られるSouthsideが、Wheezyとともに共同プロデュース。過去の恋愛や人間関係を振り返りながら、痛みとそれを乗り越える強さをラップしています。かつての麻薬取引から抜け出し、手に入れた成功を守りたいという決意や、裏切りへの複雑な思いがにじむ内容です。

Lil Baby - I Promise

『By Myself』

Rod Waveと、リル・ベイビーのレーベル所属アーティストRylo Rodriguezとのコラボ曲。彼らの苦悩や孤独、そして仲間への想いがリアルに描かれ、成功の裏にある犠牲や努力が色濃く表現されています。2025年1月7日にはミュージックビデオも公開され、3人の真摯な姿勢が伝わる仕上がりです。

Lil Baby feat. Rod Wave & Rylo Rodriguez - By Myself

『So Sorry』

恋人との関係で感じた裏切りと悲しみ、後悔をテーマにした1曲。贈り物や支援を惜しまなかったものの、相手の浮気や冷たい態度に傷つくリル・ベイビーの心情が細かく描かれます。愛を捨てきれず、何度もやり直しを求めながらも、疑念と整理できない感情のはざまで葛藤する姿が印象的です。

Lil Baby - So Sorry

さらなるリリースに向けて

WHAM』では、Travis Scottとの「Stuff」や、21 Savageとの「Outfit」など、派手でノリの良い楽曲が多く収録されています。高級車やジュエリー、女性や金銭的成功を誇示する内容は、若い世代を中心に大きな注目を集めている部分です。

そして彼は、すでに次のアルバム『Dominique』の制作を進めています。『WHAM』がハイテンションなライフスタイルを前面に押し出すのに対し、『Dominique』では彼自身の内面や真剣な思いをより強く打ち出す予定です。当初はダブルアルバムを構想していたそうですが、一部の曲を『WHAM』へ振り分ける形で、よりファンの期待に応える決断をしたと語っています。

2025年には、この『WHAM』に追加曲を収録したデラックス版のリリースも予定されており、引き続き精力的な活動を続ける構えです。

おわりに

WHAM』はリリース前から、ヤング・サグに関する事件やガンナとの確執、さらには豪華ゲスト陣の参加などで話題を集めてきました。フタを開けてみれば、出所後初のヤング・サグ参加曲が収録されているほか、Travis Scott21 SavageFutureといったビッグネームたちとのコラボが満載。これまでのファンの期待を裏切らない仕上がりとなっています。

プロデュース陣も、WheezyLondon on da TrackSouthsideDY Krazyなど、ヒットメーカーが揃い踏み。トラップビートをふんだんに取り入れたサウンドが、派手でエネルギッシュな雰囲気を生み出します。2025年の幕開けとともにシーンへ突き刺さる『WHAM』は、リル・ベイビーの今を映し出すと同時に、次なる挑戦への序章でもあると言えるでしょう。

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