ボーイ・ミーツ・ガール映画『閃光』|インディペンデント映画を巡る vol.5
カウンター・カルチャーのニュアンスが強い“インディペンデント映画”。低予算の中で、芸術性や作家性を重視して作られた映画は、新しい考えや想像力の源泉として、観た人の記憶に残るはずだ。
今回はインディペンデント映画の中から、光のように掴めない、幸せな瞬間を描いた石橋夕帆監督の映画『閃光』を紹介。
あらすじ
元カノが結婚する事を知った夜、和也は公園で月華(ユェファ)という台湾人の女と出会う。
孤独な男の部屋を「閃光」のように彼女が通り過ぎていく
青春の終わりが見えてきた季節の、ボーイ・ミーツ・ガールのお話。だがこの映画はアパートの部屋で、ひとりの男(田中一平)が煙草をふかしている姿から始まる。これはすでに彼女が去ったあとの光景だろうか。夜の公園にいた変な女(葉媚)。男の脳裏に浮かぶワンショットから、物憂げな鼻歌が聞こえてくる――。
男の名は、カズヤ。友人が経営しているバーで、もうすぐ同じ職場の男と結婚するという元カノのかえでと呑んできたところだ。現状、カズヤはアルバイトで食いつないでいる。「マジで、そろそろちゃんとしなよ。ねっ!」と酔っ払った元カノの叱咤激励を受け、夜道で別れたあと、月明かりの下で不思議な出会いを果たす。少々たどたどしい日本語を話す、どこか浮世離れした雰囲気を漂わせた、あの彼女と。ひとつの場から、別の場へ。石橋夕帆が描く人間模様は“連鎖”する。そして一見何の変哲もない日常は幻想性のベールで覆われている。このファンタジックな多層性への昇華を本作で体現するのが、まるで自由な猫のようにカズヤの部屋に住み着いてしまったヒロインだろう。
いつも柔らかな光が印象的な石橋の映画だが(岩井俊二の影響が大きいという)、『閃光』は珍しく夜のシーンも多い。夜食のテイクアウトの牛丼を並んで食べる。花火で戯れる。やがてふたりはアナログのインスタントカメラで互いを撮り合う。データではなく、“焼いた”写真として記録される愛の生活。監督の盟友である写真家、柴崎まどか(石橋と同じ1990年生まれ)の撮影により、フォトジェニックな強度を湛えた画ばかりで恋人たちの日々が紡がれていく。 ただしこれは、期間限定の蜜月だ。「どんな娘だったの?」と友人に訊かれ、夢を見ていたように答えるカズヤ。「台湾人のキャバ嬢。まあなんつうか……可愛かったよ」。
彼女は本当に実在したのか? ひとつの「詩」として映画/物語の中を駆け抜けていったヒロインから、筆者は『ベティ・ブルー』(1986年/監督:ジャン=ジャック・ベネックス)を連想した。葉媚の存在は、カズヤと同様、映画を観る者にも「閃光」が通り抜けていったという感覚を永遠に残すだろう。
text 森直人
INFORMATION
『閃光』
監督・脚本・編集:石橋夕帆
撮影:柴崎まどか
録音:中島浩一
仕上げ:木村将人
音楽:齋藤伊慈キャスト:田中一平、葉媚、小西悠加、長尾卓磨
2018年/36分/ドラマ
ⓒ 石橋夕帆
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