青春ロードムービー『脱脱脱脱17』|インディペンデント映画を巡る vol.1
カウンター・カルチャーのニュアンスが強い“インディペンデント映画”。低予算の中で、芸術性や作家性を重視して作られた映画は、新しい考えや想像力の源泉として、観た人の記憶に残るはずだ。
今回はインディペンデント映画の中から、常識をも脱ぎ捨てる、“17歳”の逃避行を描いた松本花奈監督の映画『脱脱脱脱17』を紹介。
あらすじ
ノブオは、ある事情で高校生活17年目を迎えていた。彼の日課は毎日学校の屋上から手を掲げ、空を引き裂くような声で、応援歌を叫ぶこと。この学校唯一の応援団部の部員だった。クラスメートのリカコは嘘泣きと歌う事が特技。自分の涙と歌声さえあれば人生上手くやっていけると思っていた。嘘泣きの原因を作ったのは母だった。ある日、リカコは母と喧嘩して家出をする。目的は幼い時に別れた父を探す事。ノブオはひょんな事からその家出に着いていく事になり、あてもなく旅に出る。もがく青春の渦中にいる2人は果たして永遠の17歳を卒業する事はできるのか…!?
しなやかに脱皮する、フレッシュな若者たち
現役大学生兼女優兼映画監督と、キラキラした多才ぶりで注目を集める、松本花奈監督が17歳の時にメガホンをとった本作(脚本、編集も担当)。“脱脱脱脱”と書いて“ダダダダ”と読ませるタイトルから、その才能が迸っている。昨年公開されたオムニバス映画『21世紀の女の子』(19/企画・プロデュース/山戸結希)の目玉となった『愛はどこにも消えない』でも、失恋という悲しい体験さえも「私は私がいちばん好き」と自己愛への気づきに変えてゆく、若きヒロイン(橋本愛)の逞しさをみずみずしく描いていたが、長編デビューとなった本作には、松本監督の創作の原点のようなものが散りばめられている。
うそ泣きと歌の得意な17歳の女子高生・リカコ(「the peggies」の北澤ゆうほがナチュラルに好演)は、ある日、母親との暮らしから脱走、もとい家出する。随分前に出て行った父親に会いに行こうと思い立ち、とある事情で高校生活17年目に突入した、34歳の同級生ノブオ(鈴木理学)を道連れにして。 父親の手紙に記されていた住所にあったのは、ストリップ劇場だった。うそ泣きなんて通用しない劇場のステージに立つことになったリカコは、脱衣の途中で客席で騒ぐ父親と最悪な再会をする。
うそ泣きは悲しみから母を救うため、歌は父との思い出を甘やかに保つため、自分のためには何も持ち得ぬまま、17歳になったリカコには、圧倒的に自己愛が足りない。自己肯定力の低い彼女は、自分を応援してくれる他者の存在をうまく想像できない。奇妙なおっさんのノブオにも、応援する相手が居ることを羨みつつ、自分は一方通行の片思いが好きなのだと悪びれる程度にはひねくれてしまった。そんな彼女が、旅を終えて「私のこと、応援して」とノブオに頼んだ時、溺れそうに息苦しかった過去からするりと脱却できたのだと思う。ある日突然、子供が泳げるようになるみたいに。プールを泳ぎ切った後「ノブオの応援で、私いちばんになれたよ」と微笑んだリカコの表情は、晴ればれとしていた。
そこからラストへ向かうスピーディな展開は、松本監督の真骨頂だ。制服のスカートをひらりと翻した、さくら先生への軽やかな反撃も、屋上からエールを贈る白ハチマキ姿のリカコも、しなやかな変化で輝かせる。変化とは、自分の存在が儚いのではなく、無我夢中で新しいなにかを受け容れられる強さなのだと思い知る。
編のメリットを活かして、リカコだけでなく、全力でリカコを肯定したノブオや、旅先で出会った17歳の少女マリアの変化まできちんと描かれているところも素晴らしい。登場する若者がみな、前を向いていて、楽しそうだ。青春とは、素直に影響し合って、どんどん脱皮できる時間なのかもしれない。ラストシーンで、学校を出て行くノブオの、アクセルがかかっていく疾走感にドキドキした。人生は続く。二度と戻ってこない時間や感情を胸に、進め、進め、進めー! 松本監督の繊細でフレッシュな才能に脱帽。
text 石村加奈
INFORMATION
『脱脱脱脱17』
監督・脚本:松本花奈
主題歌「青春なんかに泣かされて」the peggies
企画:直井卓俊 プロデューサー:上野遼平
撮影・カラコレ:林大智
照明:陸浦康公
録音:浅井隆 美術:藤本カルビ
キャスト:鈴木理学、北澤ゆうほ、祷キララ、佐倉萌、朱松真吾、三坂知絵子、正垣那々花、東久美子、大和孔太、鈴木築詩、安田弥央
2016年/108分/青春ロードムービー
ⓒ2016「脱脱脱脱17」製作委員会
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