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シビックテックチャレンジYAMAGUCHIのその後 ~ 令和5年度実証 介護福祉・医療関係機間での情報共有のデジタル化~

 こんにちは。デジテック for YAMAGUCHI 運営事務局のたかポンです。

 前回に引き続いて、過去のシビックテックチャレンジの「その後」についてご紹介させていただきます。

 第2弾は、昨年度(令和5年度)に実証実験を行った、周防大島町介護保険課と(株)AGENの取り組みについてです。

課題の概要
~デジタル・ツールの活用で、介護医療関係機関のエンゲージメント向上!~

 介護医療関係機関は、入所の調整や利用実績の共有などの高齢者福祉に必要な情報のやり取りは、各施設が個別に電話やメール、FAX等を用いて行っていましたが、関係機関との情報連携がなかなかスムーズにいかず、入所希望者の状況把握や入所等の調整に多くの手間と時間がかかり、結果的に利用者と施設の双方に不利益が生じていました。

 この課題解決に手を挙げた企業が株式会社AGENで、ビジネス用チャットツール“LINE WORKS”を用いて地域連携ネットワークを構築する専門サービス「FiNE-LINK PLUS」によって、町内の介護医療関係者全体が容易に情報共有できる環境を整備し、数か月の実証実験を行いました。

実証実験の結果

 実証実験後に行った管理者アンケートでは、情報連携の機会が増えたと回答した人が60%、情報共有に係る手間と時間が減って業務効率が上がったと回答した人が45%となり、短い実証実験の期間ではまだ効果がわからないと回答された方もいましたが、手ごたえを感じた方も多くいました。

 なお、詳しい実証実験の内容等は、下記のHPをご覧ください。

 実証実験の成功を受けて、周防大島町では翌年度の令和6年4月から正式に導入しました。

 今回、実証実験にかかわった担当課長さんと、居宅介護やデイサービスを運営している合同会社松福の伊東さんにインタビューさせていただいたので、実装して9か月たった今の状況についてご紹介します!

インタビュー ~周防大島町介護保険課 神戸課長さん、合同会社松福 伊東さん~

写真は神戸課長さん、熱い気持ちを持った若々しい方でした!

――実証実験後すぐに導入されていますが、正式導入に至った経緯は?

(神戸課長)
 介護関係事業者がもっと情報共有や連携がしやすくなれば、入所調整の期間が短くなったり介護の質が向上して良いなと思っていたところ、この事業のことを知ったのでチャレンジしてみたのがもともとのきっかけです。
実証実験にかかわった人からは、情報連携がすごく楽になったという話を聞いていたので、町として関係者全体で取り組んでいこうと思い、町が全額経費を負担する形で正式導入することにしました。

 現在では、実証実験と同じく介護関連の施設や病院・クリニック・薬局、社協等の高齢者福祉に関する機関で、各施設ごとに1アカウント、さらにケアマネジャーは一人1アカウントを割り当て、約130アカウントで運用しています。

――具体的な利用方法を教えていただけますか?

(神戸課長)
 主な利用方法としては、①行政から事業者への連絡と②事業者間での連絡として使用しています。

 一般的なLINEと同じでグループ機能があるので、行政からのお知らせチャンネルや緊急連絡チャンネルなどの用途を絞ったグループをいくつか作って運用しています。

 今までは、通知やお知らせ等はメールで流していましたが、このアプリだと既読状況がわかるので便利ですし、日程調整やアンケートなどもテンプレートを使って容易に作成できます。しかも、こっちの方が皆さんの回答も早いです!

 緊急連絡チャンネルでは一度訓練も行いましたが、定期的に実施できれば良いなと思っています。

訓練の様子(災害が発生したと仮定して、被害状況の報告等を行った。)

――事業者間でのやり取りはどうですか?

(伊東さん)
 事業者間でのやり取りは、入所調整、利用実績の報告、介護計画の共有、空き状況の共有等多岐にわたりますが、ケアマネジャーと施設・事業所間での利用が多いように思います。

 介護保険では、ケアマネジャーが給付管理を行うため、介護事業所は毎月利用実績を報告しなければなりません。今までは書類を郵送していたため、入力・印刷・郵送作業・発送とものすごく手間と時間がかかっていました。

 今ではアプリ上で送付できるので、ものすごく楽になっていて、直接の介護やそのお手伝いに避ける間がものすごく増えました。

 また、印刷する紙代や郵送に係る費用などの経費が大幅に削減されています。

実際のやり取りの様子

――なるほど。アプリ上で個人情報を送るのは抵抗がなかったですか?

 (神戸課長)
 介護業界の性質上、個人情報のやり取りは必ず発生します。今までもメールやFAXでやり取りしていたものをアプリに変更しただけですので、それほど抵抗があるものでもないかと思います。

 ただ、町が主体となって公式に運用しているので、「個人情報にはパスワードを設定し、アプリ以外の方法でパスワードを共有する」というルールを定めています。

 なお、LINEWORKS自体は非常にセキュリティが高いのとともに、誤送信しても完全に削除が可能なので、現時点で大きな問題は発生していません。

――事務負担が軽減された以外にも導入されて何か変わったことはありますか?

(伊東さん)
 実証実験のアンケート結果にもありましたが、事業所間でのコミュニケーションの頻度がものすごく増えたように思います。

 チャットだと相手の都合をあまり考えずに連絡を送ることができるので、介護利用者の体調の変化や軽いけがの状況、その他の細かい気付きなどの些細なことまで、情報提供するようになりました。

 介護利用者ごとに関係する支援機関でグループを作っているので、そこに情報提供すればすべての関係者が情報を共有することができます。

――お聞きしているとすごく効果があるように思いますが、その要因は何でしょう?

 (伊東さん)
 私が思うには、アプリのシステムが複雑でなく、操作しやすいというのが一番の理由ではないでしょうか。

 初めて触るものだと、どうしても抵抗感があったり、操作方法側からなくなったりしますが、このアプリは普段から同じようなものを使っている人が多いので、比較的年配の方でも触ってくれている印象があります。

 あとは、町が音頭を取ってくれて町全体で一斉に導入したことも大きいと思います。施設単位で初めていたら、ここまで行くのに何年もかかると思います。

実証実験時の様子

――逆に今後の課題はありますか?

 (神戸課長)
 みなさんが使ってくれているとは言っても、やはり利用頻度には差があります。実際、ごく一部の関係機関では導入にいたっていないところもあります。

 そういった所を今後どうやって巻き込んでいくのかが課題かなと思います。

 使用を開始する際は、運営会社が操作説明を行ってくれたり、全体的な研修会も開いてくれていますし、みんが使っていて良いうわさが広まれば、今後加わってくれる可能性もありますので、引き続き利用頻度を上げていきたいですね。

(伊東さん)
 神戸さんが言われた以外だと、町外の施設とのやり取りで使用できないことですね。

 町民の方で町外のサービスを利用される方も少なくないので、そこの事業者とは従来通りの電話や郵送という手段をとっており、まだまだ負担となっています。

 このサービスは、施設単位でも契約できるため、利用料は自己負担にはなりますが、巻き込んでいけないかなと思っています。

(神戸課長)
 課題ではないですが、町としては、障害福祉や子ども子育て分野など他の分野でも活用が進んでいけばよいなと思います。

 そのためには、介護の分野でしっかりと効果を示すことが大事かなと思いますので、もっと利用を伸ばしていくとともに、新しい利用の方法も検討していきたいなと思っています!

おわりに

 同社のサービスは、他の自治体においても導入(自治体が一括して業務委託契約など)が進んでおり、同じように介護福祉の現場で、情報共有のツールとして活用されており、コミュニケーションの活性化や事務負担の軽減につながっているそうです。

 高齢の方が、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを続けることができるようにするためには、支援をする方々がつながりを強めていくことが大切だと私は思います。

 お忙しい中インタビューに答えてくださった周防大島町介護保険課の神戸課長さん、合同会社松福の伊東さん、ご協力ありがとうございました!