第1回 DX幻想を叩き斬る 前編
はじめに
新卒で三菱商事に入社、情報産業グループに配属となり、まだYouTubeもなかった時代に(!)今のNHKオンデマンドの商用実験に取り組んでいました。その後、三菱商事の投資先だった新浪剛史さん時代のローソンに出向して、Pontaポイント導入によるCRM構築や、シリコンバレー企業との提携交渉などをしていました。
それから米国の戦略コンサルティングファームのボストンコンサルティンググループ(BCG)に移り、BCGでもプロジェクトの大半は、日本の大手企業のデジタルサービスの拡大推進をコンサルタントとしてサポートしました。
そして2017年、サークルKサンクスと統合したファミリーマートの澤田貴司社長に招聘頂き、全社改革チームのヘッド、マーケティング本部長を歴任した後、「ファミペイ」と言うリアル企業唯一とも言えるPAYサービスの立ち上げを主導しました。
つい自己紹介が長くなりましたが、これら自分の経験を振り返ってみると、常に”デジタル”と伴に歩んできたことに気づかされます。ただし、これらのデジタル系プロジェクトのどれをとっても、「デジタル」と言うスマートな横文字とは真逆に、いくつもの難局を乗り越えねばならない「ハードシングス」の道のりでした。
違和感だらけの、今のDXブーム
最近は、ネットでも新聞でもビジネス誌でも「デジタル」の文字を見ないことの方が珍しいぐらいです。毎日、「デジタル変革」「DX」の言葉が踊っています。
それでは、どこか日本企業が斬新なDXをやり抜いて、デジタル時代を象徴するような企業に進化しているでしょうか?もちろん、いくつかの企業ではデジタルシフトを全力で進め、成果を出し始めている会社もあります。しかし、これだけデジタル、DXが話題になりながら、本気で本物のデジタル変革を推し進めている企業は少ないのではないでしょうか?
ほとんどの企業は、DXブームに乗せられてしまっている―骨太のデジタルプロジェクトを実践して来た私は、そう思わざるをえません。
「DXの7大幻想」を叩き斬る
実は、ファミリーマートで、デジタル責任者をしている時、「デジタル後発だったファミマが、短期間でデジタルのPAYサービスを起動に乗せた」と言うことから、たくさんのカンファレンスに呼んで頂いたり、また何社もの日本の大企業のデジタル担当の方が、お忍びで相談に来られました。
それらの悩みを聞いていると、全部での7つの共通パターンが見えてきました。要するに、経営陣がデジタル変革(DX)に対して、7つの幻想にハマっているのです。この「DXの7大幻想」を色々なところで話してたところ、多くのデジタル責任者、デジタル担当の方達から、「よくぞ言ってくれました!」「代わりに、うちの経営陣に言ってもらえませんか?」と驚くぐらいの反響を頂きます。
本音では、こんな(初歩的な)幻想なんぞにハマらず、「本物、骨太のDXをやって欲しい」と思うのですが、私なりのDX実践論を展開して行く前に、まずとても大事な入り口として、日本企業の経営陣がDXについてどんな幻想にハマってしまっているのか、前編、中編、後編の3回に分けて、しっかりお話ししたいと思います。
図表:当連載の全体構成 ※〇数字は連載回
DX幻想1.PDCA幻想―デジタル変革の前に、予実管理とPDCAが事業部を機能不全にしている
日本企業では経営企画部門が、権力を持った予実管理セクションとして存在してしまい、リアルビジネスへの想像力もないままに、机上の計画策定と予実管理に走り過ぎています。その連鎖で、事業部などの各組織は、過度にPDCAサイクルを廻すことが主目的になっています。PDCAと言えば聞こえは良いですが、予算に対する実績との差分の原因と対処をいかに(誤魔化して)報告するか?、と言うことに邁進しがちです。
このような、予実PDCAごっこは、ビジネスの創造性、革新性とは対極にあります。収益予算を死守するため、トップラインを上げることに大胆にチャレンジするより、目先のコスト削減を進める、下手をすれば何もしない方が、予実達成の確度を高めます。動物園の動物が檻の中で、ずっとグルグルと同じところを廻り続けて、その内、疲れて寝てしまう。これと同じようなものです。
さて、恐ろしいのは、このようなPDCAをBADサイクル化して疲弊した事業部組織に、突然、経営陣が言うわけです、「もっとデジタルな取り組みを!」と。
デジタル分野と言うのは、現在、世界中で有能なデジタル人材の獲得競争をして、Sクラスの人材が切磋琢磨しながら、デジタルによる既存ビジネスの刷新(破壊)、創造を仕掛けている、オリンピック、ワールドカップのような闘いです。その中で、「玉虫色の言い訳レポートの作成」「カネは使わない」「何もしないことが吉」と言う組織と人材が、デジタル変革などありえると思いますか?
今回は初回ですので、このPDCA幻想ぐらいに留めて、次回以降、残りの6つもの幻想についても、詳しく見て行きます。
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第2回 DX幻想を叩き斬る 中編
第3回 DX幻想を叩き斬る 後編
第4回 DXの旅
第5回 DX ROADMAP
第6回 DX DRIVE
第7回 DX 組織
植野 大輔(Daisuke Ueno)
早稲田大学政治経済学部卒、商学研究科博士後期課程 単位満了退学。三菱商事(情報産業グループ)に入社、在籍中にローソンに約4年間出向。ボストンコンサルティンググループ(BCG)を経て、2017年1月ファミリーマートに入社、改革推進室長、マーケティング本部長を歴任の後、デジタル戦略部長に就任。デジタル統括責任者として全社デジタル戦略の策定、ファミペイの垂直立上げ等のデジタルトランスフォーメーション(DX)を主導。2020年3月、DX JAPANを設立。
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